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「無能な記録係」と捨てられましたが、私の綴る一字は世界の理。冷徹な第二王子に「君の全てを独占させろ」と溺愛され、私を捨てた国は歴史から抹消されました  作者: 星詠みミラ


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第2話:雨の夜、獅子の腕(かいな)に抱かれて

まどろみの中で、懐かしい香りがした。


 雨の匂いではない。

 どこか、森の奥深くにある静謐な図書館のような……。

 上質な紙と、香木、そして微かな魔力の残り香。


 重い瞼をゆっくりと開けると、そこは見たこともないほど豪華な天蓋付きのベッドの中だった。


「……ここは?」


 掠れた声が、自分のものとは思えない。

 体を起こそうとすると、シルクのシーツがさらりと滑り落ちた。

 着ていたボロボロのドレスは、肌触りの良い最高級の寝衣に着替えさせられている。


「気がついたか。無理に動かなくていい」


 低く、地響きのように心地よい声。

 視線を向けると、窓際に置かれた長椅子に、一人の男が腰掛けていた。


 ――ジークヴァルト・フォン・ローゼル様。


 この国、ローゼル王国の第二王子。

 第一王子であるジュリアン様とは異母兄弟にあたるが、その美貌も実力も、兄を遥かに凌駕すると噂される御方。

 しかし、あまりに冷徹で情を解さないことから、「氷の獅子」と恐れられている。


「ジークヴァルト、様……。なぜ、私がここに?」


 彼は本を閉じ、ゆっくりと私の元へ歩み寄ってきた。

 月光に照らされた彼の顔は、彫刻のように整っている。

 黄金の瞳が、射抜くように私を見つめた。


「道端に捨てられた宝石を、拾い上げただけだ。……もっとも、これほどの国宝をゴミ捨て場に放り出す愚か者が身内だというのは、反吐が出るがな」


 彼はベッドの端に腰掛け、私の頬にそっと触れた。

 大きな、熱い手。

 ジュリアン様に一度も向けられたことのない、慈しむような手つき。


「……捨てられたのです。私は、無能ですから」


 ぽつりと、自分でも驚くほど素直に言葉がこぼれた。


「『万象記す』しかできない、地味で華のない女だと。聖女様の光の隣に、私はふさわしくないと……そう、言われました」


 胸が、ちくりと痛む。

 十年以上も尽くしてきた相手からの拒絶は、思っていたよりも深く私を傷つけていた。


 けれど、ジークヴァルト様はふっと口角を上げた。

 それは、獲物を狙う猛獣のような、獰猛で、それでいて美しい笑みだった。


「無能、か。……ククッ、実に見事な節穴だな、ジュリアンの奴は」


 彼は私の手を握り、その細い指先を一本ずつ、確かめるように愛撫した。


「エルセ。君がこの国で『記録』し続けてきたものが、ただの文字だと思っているのか?」


「え……?」


「君が記した税収の記録があるから、国庫の金は消えずに済んだ。君が記した魔法陣の構成案があるから、王都の結界は維持されていた。君という『観測者』が真実を書き留めることで、この国の事象は『確定』していたんだよ」


 ジークヴァルト様の瞳に、暗い情熱が灯る。


「君が記録を止め、その手帳を閉じた瞬間……この国は、糸の切れた人形のように崩れ始める。

 今頃、王宮は大騒ぎだろう。昨日まで当たり前に動いていた魔導具が沈黙し、管理していたはずの金貨の枚数が合わなくなっているはずだ」


 心臓が、跳ねた。

 私の力が、そんな……。


「……嘘、ですわ」


「嘘ではない。私はずっと、君のその価値を知っていた。……ジュリアンから、奪い取りたいと、何度願ったかわからないほどにな」


 ジークヴァルト様が、ぐっと顔を近づけてくる。

 彼の長い睫毛が触れそうなほどの距離。

 吐息が混じり合う。


「エルセ、私と契約しろ」


「契約……?」


「君のその力も、心も、その銀の髪の一筋まで……すべてを私に捧げろ。

 代わりに、君を嘲笑ったすべての者に、死よりも辛い絶望を与えてやる。

 君がいなければ、自分たちがどれほど無力で、無価値な存在だったか……一文字ずつ、その身に刻ませてやろう」


 それは、悪魔の誘いかもしれない。

 けれど、ジークヴァルト様の瞳にあるのは、嘘偽りのない「渇望」だった。


 誰にも必要とされず、透明な存在として扱われてきた私を。

 彼は、この世界で一番価値のあるものとして、見つめている。


「私は……私に、何ができるというのですか?」


「何もしなくていい。ただ私の隣で、笑っていろ。

 ……そして、時々でいい。私との時間を、その手帳に記してくれれば、それでいい」


 ジークヴァルト様の手が、私の後頭部を優しく引き寄せた。

 額と額が重なる。


「今日から、君は私のものだ、エルセ。

 誰一人、君を傷つけることは許さない。例え、神が相手でもな」


 窓の外では、まだ雨が降り続いていた。

 けれど、もう寒くはない。


 一方、その頃。

 王宮の宝物庫では、エルセが最後に『記録』を止めた瞬間に、ある重大な異変が起きていた。

 建国以来、一度も絶えたことのない「守護の炎」が……。

 不気味な音を立てて、消え失せたのである。


「な、なんだ!? 何が起きた!」


 ジュリアンの怒号が、混乱の始まりを告げていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


ジークヴァルト様の「重すぎる愛」、いかがでしたでしょうか?

冷徹なはずの彼が、エルセにだけ見せる情熱的な一面……。

「もっと甘いシーンが見たい!」と思った方は、ぜひ評価【☆☆☆☆☆】やブックマークをお願いします!


あなたの応援が、エルセの「事象確定」の力になり、次の「ざまぁ」を加速させます。


次回、第3話は「氷の王子の甘すぎる檻」。

エルセがいなくなった王宮で、ジュリアン様と聖女メリーナが、最初の「地獄」を味わうことになります。

どうぞお楽しみに!

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