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「無能な記録係」と捨てられましたが、私の綴る一字は世界の理。冷徹な第二王子に「君の全てを独占させろ」と溺愛され、私を捨てた国は歴史から抹消されました  作者: 星詠みミラ


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第19話:皇帝の終焉、あるいは新しい背景

「……バカな。私の『虚無』が、書き換えられていく……!?」


 ヴォルガ帝国の皇帝、ヴォルガ・ディストピアの絶叫が、白銀の光に包まれた王都の空に虚しく響く。


 彼が放つ漆黒のインク――触れたものを歴史ごと消し去る「虚無」の奔流は、私のペンの先に吸い込まれ、銀の煌めきへと変質していた。


 私は、震える手をジークヴァルト様の大きな手に重ねたまま、最後の一文を宙に刻む。


『――ヴォルガ皇帝の語る「終わり」は、この物語をより鮮やかに彩るための「幕間」に過ぎない』


 その瞬間、世界から音が消えた。


 皇帝の持つ漆黒の万年筆が、パキパキと音を立てて砕け散る。

 彼が積み上げてきた侵略の歴史も、絶対的な武力も、私の「記録」という名の上書き(デリート)によって、ただの「使い古された物語の伏線」へと貶められた。


「あ、あああ……っ! 私の力が、私の帝国が……!!」


 皇帝の体が、足元から透き通っていく。

 彼は死ぬのではない。私の記録の中で、「取るに足らない端役」として再定義されたのだ。


「……見苦しいぞ、皇帝。お前はエルセの物語を汚そうとした。その罪は、死よりも重い」


 ジークヴァルト様が、白金の魔力を纏った剣を、皇帝の喉元へ突きつける。

 その瞳には、一欠片の慈悲もなかった。


「お前はこれから、一文字の言葉も持たぬ『歴史の観測者』として、エルセが私と幸せになる姿を永遠に見守り続けるがいい。……それが、お前に与えられた新しい『設定』だ」


「な……ひ……ひぎゃあああああっ!!」


 最後の一際大きな悲鳴と共に、皇帝の姿は一羽の「物言わぬからす」へと変じ、離宮の屋根へと飛び去っていった。

 彼はもう、二度と言葉を紡ぐことはできない。ただ、私たちの幸福を高いところから見つめるだけの、生きた背景。


 ――これが、神を気取った簒奪者への、最高の「ざまぁ」だった。


 空を覆っていた黒い雲が晴れ、王都に柔らかな陽光が差し込む。

 民衆たちが、何が起きたのかを理解し始め、地鳴りのような歓声を上げ始めた。


「……エルセ」


 ジークヴァルト様が、背後から私を強く、壊れそうなほど強く抱きしめた。

 彼の胸の鼓動が、驚くほど激しく打ち鳴らされている。


「ジークヴァルト……様……。終わったのですね」


「ああ。君のペンが、この世界の悪夢を終わらせたんだ」


 彼は私の肩に顔を埋め、深く息を吸い込んだ。

 その独占欲を隠そうともしない、熱い吐息。


「……だが、困ったな。君がこれほどの『奇跡』を見せてしまった。

 世界中の愚か者たちが、君を女神だと崇め、私から奪おうとするだろう」


「そんなこと……。私は、あなたの専属記録係ですわ」


「いいや、違う。君は私の『心臓』だ。……誰にも、一瞬たりとも君の視線を渡したくない。

 このまま君を、私の影の中に閉じ込めてしまいたいと……本気で思っているんだ」


 ジークヴァルト様の唇が、私の耳朶を甘く食む。

 戦いが終わった直後だというのに、彼の愛は安らぐどころか、より深く、より狂おしく燃え上がっていた。


「エルセ、約束しろ。……君が記す未来に、私以外の男の名前は一文字も入れないと」


「……ふふ。もちろんですわ、ジークヴァルト様。私の手帳は、もう貴方との愛で溢れていますもの」


 私たちが微笑み合った、その時――。


 ドォォォォォンッ!!


 王都の中心、かつての第一王子ジュリアンがいた王宮が、音を立てて完全に崩落した。

 

 エルセが皇帝との戦いで「真実の歴史」を確定させた反動。

 偽物の王家を支えていた最後の柱が、物理的に折れたのだ。


 瓦礫の中から、這い出してきたのは……。

 ボロボロの服を纏い、もはや誰だか判別もつかないほど薄汚れた、ジュリアンとメリーナだった。


「ひ、ひぃっ……! 誰だ、助けてくれ! 私は……私は王様なんだぞぉ!!」


 ジュリアンが叫ぶが、通りかかる民衆は誰も彼を見ない。

 エルセの記録から抹消された彼の姿は、人々の意識に「ただの路傍の石」としてしか映らない。


「あ、あはは……! 私の光……光が見えるわ……!」


 メリーナは空っぽの手を宙に掲げ、壊れた人形のように笑い続けている。

 彼女の脳内には、永遠に「自分が聖女である」という偽りの夢がループし続ける。

 それもまた、エルセが彼女に与えた「救い」という名の絶望だった。


「……完璧な、幕引きだな」


 ジークヴァルト様が、冷ややかに崩壊した城を見つめ、私を抱きかかえた。


「さあ、帰ろう、エルセ。

 次は……私たちの『戴冠式』の準備だ。

 世界で最も美しく、最も傲慢な、愛の記録の始まりを祝うために」


 私は、彼の胸の中で目を閉じた。

 銀のペンが、手帳に勝手に一文字を刻む。


『――そして、偽物の王たちは去り、真実の愛が玉座に座した』


 物語は、ここからさらなる輝きを放ち始める。

 けれど、この時の私はまだ知らなかった。

 皇帝の「虚無」を上書きしたことで、世界の「外側」にいた本当の管理者たちが、私に目をつけたことを――。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


皇帝が鴉(背景)になり、ジュリアンたちが「誰からも認識されない石」になる……。

エルセ様のペンが、徹底的に彼らの尊厳を書き換えた「最強のざまぁ」回でした!

ジーク様の「俺だけの女神にしたい」という独占欲も、さらに熱を帯びてきましたね。


「皇帝がカラスになるのは笑った!」「ジュリアンの末路が自業自得すぎて最高!」

と思っていただけたら、ぜひ評価【☆☆☆☆☆】やブックマークをお願いいたします!


皆様の応援が、次なる「世界規模の愛の物語」を紡ぐインクになります。


次回、第20話は「砂上の王国の終焉」。

ついに偽りの王家が歴史から完全に抹消され、エルセとジークヴァルトの「戴冠式」の幕が上がります。

しかし、そんな二人の前に、空から「白い手紙」が届いて……!? お楽しみに!

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