表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「無能な記録係」と捨てられましたが、私の綴る一字は世界の理。冷徹な第二王子に「君の全てを独占させろ」と溺愛され、私を捨てた国は歴史から抹消されました  作者: 星詠みミラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/15

第12話:帝国の傲慢な使者と、獅子の鉄槌

離宮の謁見の間に、不遜な軍靴の音が響き渡った。


 ヴォルガ帝国からの使者、ガルト伯爵。

 彼はジークヴァルト様に対しても形式ばかりの礼しかせず、ぎらついた欲望を隠そうともせずに私を凝視している。


「……なるほど。これが噂の『銀髪の記録官』か。確かに、一国の宝にふさわしい容姿だ」


 彼は値踏みするように私を上から下まで眺め、鼻で笑った。


「ジークヴァルト殿下。単刀直入に申し上げよう。我が皇帝陛下は、この娘を欲しておられる。

 今すぐ我が帝国に引き渡せ。さもなくば、我が国の誇る『鋼鉄騎兵団』が、この貧相な領地を灰にすることになるだろう」


 ――宣戦布告。

 しかも、私という一人の令嬢を「物」として要求するための。


 私の横で、セラフィナ様が剣の柄を握り、指が白くなるほど力を込めているのが分かった。

 だが、それ以上に恐ろしいのは――。


「……ガルトと言ったか。お前、今、自分の命の期限を自分で書き込んだな」


 ジークヴァルト様の声は、驚くほど静かだった。

 けれど、室内の温度は一気に氷点下まで下がり、窓ガラスがピキピキと音を立てて凍りついていく。


「ほう、脅しか? だが、この国はエルセという女を失ってから、崩壊の一途を辿っていると聞く。

 魔法陣は動かず、食糧も尽きかけている。そんな死に体の国に、我が帝国と戦う力があるとお思いか?」


 ガルト伯爵は私に向かって、傲慢に手を差し出した。


「さあ、来い、エルセ。ゴミのような第一王子や、野蛮な第二王子の元にいるより、帝国の『観賞用聖女』として生きた方が幸せだぞ」


 私は、静かに一歩前へ出た。

 ジークヴァルト様が止めようとしたが、私は彼の手をそっと握り、微笑んで首を振った。


「……ガルト様。一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか?」


「なんだ? 命乞いか?」


「いいえ。帝国の『鋼鉄騎兵団』が誇るその鎧と武器……それらは、帝国が『不滅の硬度を持つ』と、歴史に記録されているからこそ強いのですよね?」


「当たり前だ! 我が国の鋼は、世界一の強度を誇る。それは不変の事実だ!」


「……そうですか。では、その『事実』。私が、書き換えて差し上げますわ」


 私は愛用の銀のペンを抜き放ち、左手の手帳を開いた。

 ガルト伯爵が「何を……?」と呆気に取られる中、私は迷わずペンを走らせる。


『三月二十二日。ヴォルガ帝国の誇る鋼鉄は、エルセの筆跡によってその定義を失った』


 魔力が、銀の奔流となって手帳から溢れ出す。


『帝国の武器と鎧は、今日から一週間の間、すべて「乾燥したパスタ」と同等の強度となる。

 ――私の大切な人を、脅した罪の報いです』


 書き終えた瞬間。

 離宮の外から、凄まじい金属音が響いた。


 ガルト伯爵が連れてきた精鋭護衛たちの、重厚な鎧。

 それが、自分の体重に耐えかねて「パキパキ」と音を立てて砕け、粉々に散っていったのだ。


「な……!? な、なんだ!? 私の剣が、剣が折れた!?」


 ガルト伯爵が腰の剣を抜こうとした瞬間、鞘の中で剣が粉々に粉砕された。

 ただの乾燥パスタのような、脆い破片となって。


「ば、馬鹿な……! あり得ん! 我が国の誇る鋼が……っ!」


「これで、お帰りの道中も安心ですわね。何しろ、あなたの鎧はもう、小石が当たっただけで粉砕されますもの。……あ、お帰りの馬車も、車輪の軸がパスタになっているかもしれませんわ」


 私は、にっこりと微笑んだ。

 初めて、自分の力で「悪意」を真正面から叩き潰した。


「……ククッ、ハハハハハ!」


 ジークヴァルト様が、愉快そうに、そして心底愛おしそうに爆笑した。


「聞いたか、ガルト。これがお前の侮った『無能令嬢』の力だ。

 ……一週間、パスタの武器で我が国を攻めてみるか? セラフィナ、この男を国境まで追い出せ。鎧が砕けないよう、優しく、な」


「はっ! 喜んで、殿下! ……さあ、パスタ伯爵。出口はこちらですわ!」


 セラフィナ様に引きずられ、半狂乱で叫びながら退場していく使者。


 静かになった謁見の間で、ジークヴァルト様が私を背後から抱きしめた。


「エルセ、君は……。本当に、私の想像をどこまでも超えていくな」


「……少し、やりすぎましたか?」


「いいや、最高だ。君のペン一つで、帝国の軍隊を無力化した。……だが、困ったな。君が有能すぎて、ますます目が離せなくなった」


 彼は私のうなじに、熱い口づけを落とした。


「覚悟しろ、エルセ。もう、世界のどこへも君を離さない。たとえ神が君を求めても、私はその神すらも『パスタ』にしてやるからな」


 私は顔を赤くしながら、彼の腕の中で小さく頷いた。


 その頃。

 帝国本国では、出撃を待っていた数万の騎兵団の鎧が、一斉に砕け散るという未曾有のパニックが起きていた。

 エルセ・フォン・アルメット。

 その名が「世界で最も怒らせてはいけない女性」として刻まれるのは、もうすぐのことだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


「鋼鉄をパスタに書き換える」というエルセの斜め上の解決策、いかがでしたか?

これぞエルセ流、平和的(?)かつ徹底的な「ざまぁ」です!


「パスタ伯爵に笑った!」「ジーク様の『神もパスタにする』発言最高!」

と思っていただけたら、ぜひ評価【☆☆☆☆☆】やブックマークをいただけると、ミラもノリノリで執筆を続けられます!


あなたの評価が、帝国の「不運」をさらに確定させます(笑)


次回、第13話は「ラピスの暴走と、失われた記憶の断片」。

ラピスが「パスタになった鋼」のサンプルを求めて戦場(?)へ向かい、そこでエルセの力の「意外な秘密」を発見することになります。お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ