第11話:氷の王子の過保護な目覚めと、帝国の影
窓から差し込む朝陽が、銀髪を白金色に輝かせている。
ふかふかのベッドの上、私はゆっくりと意識を浮上させた。
……あの日、雨の中で拾われてから、私の朝は劇的に変わった。
「……ん」
体を動かそうとして、腰に回された「熱」に気づく。
昨夜、私の告白を受けてから、ジークヴァルト様は私を片時も離そうとしなかった。
今も、彼は私の背中を抱きしめるようにして、穏やかな寝息を立てている。
(夢、じゃないんだ……)
私は、枕元に置いた新しい手帳をそっと指でなぞった。
そこには、私が昨日記した『ジークヴァルト様を愛している』という一文が、今も鮮やかに刻まれている。
その事象が固定されたせいか、私の体には心地よい魔力が満ち、彼との絆が魂の奥底で繋がっているような安心感があった。
「……おはよう、私の小さな書記官」
不意に、耳元で低く甘い声がした。
ジークヴァルト様が、起きていたらしい。
彼は私の首筋に顔を埋め、深く息を吸い込む。
「ジ、ジークヴァルト様……おはようございます。あの、もう朝ですし、そろそろ起きないと……」
「嫌だ。今日は一歩も、この部屋から出したくない」
氷の獅子と呼ばれた人が、まるで駄駄をこねる子供のように私を抱きしめる腕に力を込める。
……いえ、子供というには、その眼差しはあまりに雄弁で、熱を帯びすぎているけれど。
「君が昨夜あんなことを書いたせいで、私は一晩中、君をどう愛でるかしか考えられなかったんだ。責任を取ってもらおうか」
「ひゃいっ……!?」
彼が私の唇を奪おうとした、その時――。
「殿下! エルセ様! 朝からイチャイチャしているところ失礼しますぅぅ!」
扉を遠慮なくブチ破って(物理的にではなく、勢い的に)、ラピス様が飛び込んできた。
後ろではセラフィナ様が「ラピス、待ちなさいと言ったでしょう!」と怒鳴りながら彼女の襟首を掴んでいる。
「見てください、この数値を! 昨夜、エルセ様が『真実の愛』を確定させた瞬間、離宮全体の結界強度が三〇〇%上昇しました!
もはやここは、この世で最も安全で、最も甘ったるい聖域と化しています!」
「ラピス……貴様、殺されたいのか」
ジークヴァルト様が、氷点下の眼差しでラピス様を射抜く。
けれど、ラピス様は鼻を膨らませて続けた。
「殺されるのは後でいいです! それより大変なんです!
北の軍事大国、ヴォルガ帝国から使者が来ました!
『世界の理を書き換える銀髪の聖女を、我が帝国の客分として迎えたい』……だそうですわよ!」
室内の空気が、一瞬で凍りついた。
帝国の影。
ジュリアンのような小物ではない。武力で大陸の半分を支配しようとする、巨大な野心の塊。
「……客分、だと? 笑わせるな」
ジークヴァルト様が、私を庇うようにベッドから立ち上がる。
その背中からは、先ほどまでの甘さは消え失せ、敵を蹂躙する王者の覇気が溢れ出していた。
「エルセの指先一本、言葉一つ、他国に渡すつもりはない。……帝国が彼女を望むというなら、その野心ごと歴史から消してやるまでだ」
***
一方、その頃。
エルセを追放した王宮の「ゴミ捨て場」の裏手。
「……お、おい、メリーナ。今日の炊き出しはまだか?」
ボロボロの服に身を包んだジュリアンが、震える手で空の皿を握りしめていた。
エルセが『過去の加護を棄却』したことで、彼の地位も資産も、周囲からの信頼も、すべてが「無かったこと」になった。
今の彼は、ただの「王家の血を引くらしい、不潔な浮浪者」でしかない。
「うるさいわね! 私の光で火を起こそうとしたら、爆発して眉毛が燃えちゃったじゃないの!
あんな地味女がいた時は、願うだけでお風呂が湧いたのに……! なんなのよ、もう!」
メリーナもまた、煤だらけの顔で叫んでいた。
彼女の魔法は、もはやマッチの火を灯すことすらままならない。
かつての贅沢な日々が、まるで霧のように思い出せない。
自分たちが何を失ったのか。その本当の恐怖を、彼らはこれから、一生をかけて味わうことになる。
離宮のテラスで、私は再びペンを握った。
ジークヴァルト様が、私の手の上に自らの手を重ねる。
「書け、エルセ。君と私の物語を。……邪魔する者は、私がすべて排除する」
私は、静かに頷いた。
第2章。運命の歯車は、さらに大きく、激しく回り始める。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
第2章、開幕です!
「帝国」という新たな敵の出現、そしてジーク様の「過保護モード」全開!
さらに、無様な姿になったジュリアンたちの「ざまぁ」の続き……。
楽しんでいただけたでしょうか?
「新展開にワクワクする!」「ジュリアンたちの自業自得っぷりが最高!」
と思っていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】の評価やブックマークをいただけると嬉しいです!
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次回、第12話は「帝国の傲慢な使者と、獅子の鉄槌」。
ジーク様が帝国の使者をいかにして「分からせる」のか。
そしてエルセの力が、また新たな奇跡を呼び起こします。お楽しみに!




