第1話:『お前の記録など、ゴミ同然だ』
数ある作品の中から、本作を見つけていただきありがとうございます!
「無能だと捨てられた少女が、実は世界の全てを握っていた」
そんなカタルシスと、ちょっと重すぎる愛を詰め込んだ物語です。
もし「面白い!」「ざまぁに期待!」と思っていただけたら、
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それでは、エルセとジークヴァルトの物語、開幕です。
きらびやかなシャンデリアの光が、今の私には刺すように痛い。
王立アカデミーの卒業記念パーティー。
華やかな音楽が流れるその中心で、私の婚約者である第一王子・ジュリアン様は、冷酷な声を響かせた。
「エルセ・フォン・アルメット! 貴様との婚約を、今この場をもって破棄する!」
……ああ、やっぱり。
私の指先は、無意識に愛用の古い手帳をなぞっていた。
銀の髪が震える。灰色の瞳に映るのは、勝ち誇った顔の婚約者と、その隣で可憐に微笑む一人の令嬢。
「ジュリアン様……それは、私が何か不手際をいたしましたか?」
震える声を絞り出す。
本当は、理由はわかっている。
彼の隣にいるのは、男爵令嬢メリーナ。
最近、この国に現れた『光の魔法』を操るという、自称・聖女だ。
「しらじらしい! 貴様のその『万象記す(アーカイバー)』という無能なスキルには、もう反吐が出るのだ!」
ジュリアン様は、私の手帳を忌々しげに指差した。
「見たものをただ記録するだけの能力。そんなものは、そこらの書記官でもできる!
第一王子の妃ともあろう者が、パーティーの最中も、執務の間も、隅っこでこそこそとメモを取るばかり……。
美しくもなく、華もない。お前はただの、血の通わない『記録機械』だ!」
会場から、くすくすと嘲笑が漏れる。
「それに引きかえ、メリーナは違う。彼女の光は人々を癒やし、国を照らす。
彼女こそが真の聖女であり、私の隣にふさわしい。
貴様のような薄暗い女、我が王宮には必要ないのだ!」
メリーナ様が、上目遣いで私を見た。
その瞳に、隠しきれない優越感が揺らめく。
「ごめんなさいね、エルセ様。私の光が……あまりに眩しすぎたのかしら?」
その言葉に、また周囲が沸く。
「無能令嬢」「記録オタク」「第一王子の汚点」。
そんな蔑称が、雨あられのように私に降り注ぐ。
……けれど。
彼らは知らないのだ。
私の『万象記す(アーカイバー)』が、単なる記憶術ではないことを。
この国を支える巨大な魔法陣の維持、王宮の収支管理、貴族たちの不祥事の監視……。
そのすべてが、私の「記録」という名の「事象固定」によって成り立っていたことを。
「……そうですか。私の記録は、もう必要ないのですね」
「ああ、ゴミ同然だ! その手帳と一緒に、今すぐ消え失せろ!」
ジュリアン様が、衛兵に合図を送る。
私は身一つで、夜の闇へと押し出された。
外は、激しい土砂降りだった。
卒業パーティーのために新調した、なけなしのドレスが泥に汚れる。
王都の路地裏で、私は膝をついた。
「寒い……っ」
家にも帰れない。
実家のアルメット公爵家は、第一王子を盲信している。
婚約破棄された私など、即座に勘当されるだろう。
手帳だけを、胸に抱きしめる。
この手帳には、私がこれまで守ってきた国のすべてが記されている。
私がこれを閉じれば……この国は、明日をも知れぬ混乱に陥るというのに。
(……もう、いいかな)
あんなに尽くしたのに。
ゴミだと、機械だと言われて。
私の心は、冷たい雨に打たれて砕け散ってしまった。
視界が、暗くなる。
意識が遠のいていく中、重厚な馬車の音が近づいてきた。
闇の中から、一人の男が降りてくる。
黒い軍服。氷のように冷たいのに、どこか熱を帯びた金の瞳。
……第二王子、ジークヴァルト様。
王位継承権を自ら捨て、北の国境を守る「氷の獅子」。
「……見つけたぞ」
その低い声が、私の耳を震わせた。
彼は泥にまみれた私を、まるで高価な宝石でも扱うかのように、迷わず抱き上げた。
高価な外套が、私の冷え切った体を包み込む。
「ジュリアンは、本当に救いようのない愚か者だな。
……これほどの『世界の至宝』を、雨の中に捨てるなど」
「ジーク……ヴァルト、様……?」
「もういい、エルセ。何も書かなくていい。
これからは、私が君を守る。君を捨てた者たちが、絶望の中で君の名前を呼ぶまで……私は君を、誰にも渡さない」
ジークヴァルト様の腕は、驚くほど温かかった。
私はその温もりに身を任せ、意識を失った。
手帳の最後のページに、雨粒が一滴落ちた。
そこに記された「第一王子の加護」という文字が、じわりと滲んで、消えていった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「エルセ、そんな奴ら放っておいて幸せになっちゃえ!」
「ジークヴァルト様、もっと執着して!」
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あなたの「しおり」が、エルセを救う光になります。
次回の更新は、ジークヴァルト様の「甘すぎる檻」での生活編です。
当面の間は1日3話を投稿予定です。お楽しみに!




