赤毛玉の秘密パトロール
クローディアは石室の隅にしゃがみ、黒水晶に浮かび上がった新しい文字を眺め、無意識に掌の青い魔結晶を撫でていた。
三日が経った。
あの日カレンが結晶を残して去ってから、彼女は毎日欠かさずここに現れていた。赤毛玉の姿で――。
彼女は気づいていた。
カレンが毎晩深夜、核室にやって来て、三時間滞在することを。
彼はいつもまず水晶表面の紋章を点検し、魔物討伐数と魔力変動が刻まれた銀色の文字を指先でなぞる。まるで何かを棚卸しするように。
確認が済むと水晶のそばに座り、中から银光を摘み出して形を作る。
時には鳥、時には遊魚、昨日は長い尾を引くトカゲまで作り、光のトカゲが彼の掌を一周這い回ってから消えた。
クローディアは、彼が来る前に石柱の陰に隠れ、座ったところを見計らって、ぶらぶらしているふりをしてノコノコと三米先まで近づく方法を覚えた。
あまり近づきすぎれば偽装がバレると怖れ、毛玉に丸まり、産毛に隠れた黒い瞳でこっそり彼を眺める。
今日カレンが作ったのは花だった。
銀色の光が指先でゆっくりと開き、五枚の丸い花びらになる。
彼は丁寧に巻いた花茎まで作り込んだ。
光の花が掌に浮かび、青い炎が花びらを透し、彼の蒼白な手首に細かい光の模様を落とす。
クローディアは見惚れて、形の制御を忘れ、赤い毛むくじゃらの体が無意識に半回転、転がり出た。
「カラン」
毛が緩んだ砂利に触れ、砂利が地面に落ちて澄んだ音が響いた。
カレンの花を作る指が突然止まり、赤い瞳孔が彼女に向いた。
クローディアは一瞬、体が硬直した。
産毛の下で心臓が「ドキドキ」と高鳴る。
しまった、あまりに目立ちすぎたか?
彼女は慌ててその場でコロンと転がり、砂利に驚いたふりをして、赤い産毛が風に揺れる炎のように震えた。
カレンは二秒間彼女を見つめ、赤い瞳孔には何の感情もなく、ゆっくりと視線を戻し、再び光の花を作り続けた。
花びらをより丸く整え、そっと息を吹きかける。
光の花は舞い上がり、ゆっくりとクローディアの方へ落ちてきた。
光の花は産毛をかすめて飛び、石室の反対側の床に落ち、点点の银光となって消えた。
クローディアは呆気にとられた。
彼は……遊んでくれているのか?
彼女は慎重に一歩ノコノコと進み、カレンに反応がないのを見てさらに進み、少しずつ彼の足元まで近づいた。
今度は彼も避けず、ただ目を垂らして彼女を見る。
赤い瞳が炎の下で、静まり返ったマグマのようだった。
今日のマントの袖口には新しい破れ目があき、見えている手首には黒い汚れが付いていた。水晶の粉のようだ。
クローディアは彼の指節に新しい引っ掻き傷があり、血糸が滲んでいるのに気づいた。
たぶん水晶の角で切ったのだろう。
胸が突然、きゅっと締め付けられた。
前世で彼を好きになった日から、彼の情報を集め続けていた。
カレンは魔王の次男で、上には寵愛を受ける兄がいて、下には幼い弟妹が何人もいる。
魔力の属性が特殊なため魔王に重んじられず、いつもこうした辺境の監視任務に回され、兄にいじめられることも多かった。
今のように、きれいなマント一つなく、手に傷がついても誰も気にかけてくれない。
クローディアは思わずさらに転がり寄り、毛むくじゃらの体でそっと彼の足首を擦った。
カレンの体がかすかに硬直し、俯いて彼女を見る瞳に困惑が宿った。
まるで、なぜこの赤毛玉が突然なついてきたのか分からないように。
だが彼は押しのけず、ただ擦り寄らせておき、指先で未完成の光の花をいじり続けた。
「誰か来る」
彼が突然、低い声で言った。
少年らしい清らかな声が、氷の雫が石に落ちるようだった。
クローディアが彼の声を聞くのは、これが初めてだった。
クローディアは驚いて急いで後ずさり、石柱の陰に転がり込んだ。
産毛の隙間から外を眺めると、カレンは掌の光の花をさっと消し、立ち上がってマントを直し、冷ややかな表情に戻っていた。
石室の入り口に黒鎧の兵士が二人現れ、一人は食箱を提げてガシャンと地面に置いた。
「次男殿下、殿下が差し上げた夕食です」
食箱の蓋は閉まりきっておらず、中には真っ黒な麦パンと、濁った液体が一小椀。
悪くなった魔薬のように見えた。
カレンは黙って頷いただけ。
もう一人の兵士は嗤った。
「またそのくだらない光で遊んでるの? 長男殿下が点検に来て見つかったら、また怒られるぞ」
カレンの指先が動いただけで、返事はしなかった。
兵士たちはそれ以上言わず、罵りながら去っていった。
石室には再び静けさが戻ったが、カレンは食箱に手をつけず、再び水晶のそばに座り、银光を摘んで形を作り始めた。
今度は力を込め過ぎて指節が白くなり、作った光の鳥は翼が歪んで、飛ぶ間もなく崩れた。
クローディアはその孤独な食箱を見て、胸に湿った綿が詰まったように苦しくなった。
彼女は収納袋からあるものを取り出した。
昨日、八階のボスから剥ぎ取った魔獣のモモ肉だ。
魔力で乾燥させ、家からこっそり持ってきた香料を振りかけてある。
肉乾を口(というより産毛で包んで)にくわえ、慎重にカレンの足元まで転がり、肉乾を彼の前に押し出した。
カレンは足元の肉乾を見下ろし、丸まって黒い瞳だけを出した赤毛玉を見て、赤い瞳孔に驚きが宿った。
しばらく沈黙した後、手を伸ばし、指先でそっと肉乾に触れた。
肉乾にはかすかな香料の香りが残っている。
彼が嗅いだことのない味だ。
「これは……俺に? 他の冒険者のポケットから拾ったのか?」
彼はさらに小さな声で訊いた。
クローディアは慌てて毛玉の頭を頷かせた。
心の中では、カレンが本当に天然だと思った。すぐに都合のいいように解釈してくれる。
カレンは肉乾を手に取り、鼻先で嗅いだ。
喉仏が動いた。まるで長い間、まともなものを食べていないように。
すぐには食べず、肉乾をマントのポケットにしまい、食箱から黒麦パンを取り出し、一口ちぎってクローディアの前に差し出した。
「これ、あげる」
クローディア:「???」
まさか、こんなまずそうなものを「モンスター」に分けてくれるとは?
彼女は後ずさり、毛玉の頭で彼の指を擦り、「要らない、自分で食べて」と意思表示した。
カレンはその仕草を見て、赤い瞳が少し柔らかくなった。
無理強いはせず、黒麦パンを食箱に戻し、再び肉乾を手に取り、少しずつ食べ始めた。
食べる姿は静かで、よく噛んでゆっくりと飲み込む。
まるで捨てられた小獣のように、腹ペコなのに最後の体面を保っていた。
クローディアは彼の足元にうずくまり、最後の一口まで食べ、指についた屑まで舐めるのを見ていた。
「ありがとう」
彼は低く囁いた。
彼女に言っているのか、独り言なのか。
その日の午後、カレンが光で遊ぶ時間はいつもより半時間長かった。
兎を作り、光の兎がしばらく床で跳ね回り、最後にクローディアの前に止まり、光の鼻で彼女の産毛を擦ってから消えた。
帰る際、いつものようにポケットから魔結晶を取り出して地面に置いた。
今回は青ではなく紫。
青より高位で、溢れんばかりの魔力が宿っている。
クローディアは彼が去った後、人型に戻り、紫の結晶を拾い上げた。
指先が結晶に触れた瞬間、黒水晶がかすかに唸り、表面に新しい赤い文字が浮かんだ。
【赤毛玉 本日の摂食:魔獣肉乾(高位魔物疑い)。魔力変動:0.12階(微上昇)。新特性:食べ物を分け与える。知能を持つ疑い。】
彼女はその文字を見て、思わず笑った。
このカレン、表面は冷ややかなのに、裏でこっそり彼女の「成長記録」をつけているのだ。
その後の日々、クローディアの「パトロール」はさらに規則的になった。
毎日、家の者が眠った後、ダンジョン低層でモンスターを狩り、深夜に核室に戻り、石柱の陰に隠れてカレンを待つ。
手作りの食べ物を持っていく。
カリカリに焼いた魔獣の羽根、魔結晶粉を混ぜて焼いたパン、ある時は家から盗み出した蜂蜜の瓶まで。
カレンは彼女の持ってくる食べ物を断ることなく、毎回きれいに食べ、代わりに魔結晶をくれる。
もらう結晶のランクはどんどん上がり、紫から黒へ、昨日は金色に輝くものまで。
祖父ですら珍重して収蔵する伝説級結晶だった。
クローディアはそれらの結晶を大事に収納袋にしまい、一枚たりとも使いたくなかった。
カレンは甘いものが好きなようだ。
蜂蜜やジャムを持っていくと、光を作る指先が軽やかになり、生まれる小動物もいきいきとしていた。
この日、彼女はイチゴジャムの瓶を持ってきた。
城の庭のイチゴで作った、甘すぎるほどの味だ。
毛玉の体で小さな壺を抱え、ノコノコとカレンの前まで転がっていった。
カレンは光のリスを作っていたが、俯いて彼女を見ると、赤い瞳に期待が宿った。
最近はすっかり、この赤毛玉の毎日の「差し入れ」に慣れ、彼女が物を置くスペースまで意図的に空けるようになっていた。
壺の蓋を開け、指先でジャムを少しすくって口に入れる。
甘い味が舌先に広がり、目が輝き、口元が習慣的に少し上がった。
氷が解け始めたように。
「美味しい」
彼は言い、声にかすかな笑みが混じっていた。
クローディアは心拍が一瞬止まり、慌てて脇に転がり、産毛を整えるふりをした。
実は火照る頬を隠していた。
その瞬間、石室の入り口から重い足音と、しわがれた怒鳴り声が響いた。
「カレン! また怠けている!」
金色の鎧を着た少年が入ってきた。
カレンより半頭高く、顔つきには横柄な凶悪さが漂う。
兵士たちが話していた長男、カレンの兄だ。
カレンの光を作る手が強く握り締められ、掌の光のリスは一瞬で消えた。
立ち上がり、少し頭を下げ、声は平静無波だ。
「兄上」
長男は水晶の前まで歩み、脇の食箱を蹴り倒した。
黒麦パンが地面に転がり散らばる。
「父王が核の監視を命じているのに、お前はこうしてくだらない光ごっこばかり!」
視線がカレンの手のイチゴジャムの壺に滑り、表情がさらに悪くなる。
「勝手に食べ物を隠し持つ? 誰に許された?」
カレンは黙ったまま、壺を背後に隠そうとした。
「なぜ黙っている?」
長男は一歩踏み出し、壺を奪いに手を伸ばす。
「どこの野郎がくれたのか?」
手が壺に届く寸前、何かにつまずかれ、よろけて倒れそうになった。
俯いて見ると、いつの間にか赤毛玉が足元に転がり込み、毛むくじゃらの体で必死に靴を押し返していた。
「何だよ、この汚いヤツ!」
長男は激怒し、蹴り飛ばそうと足を上げた。
「やめて!」
カレンが急いで声を上げた。慌てた調子だ。
「ただの低位魔物です。わきまえがないだけで」
彼は手を伸ばして長男を止め、赤い瞳に初めて明確な感情が浮かんだ。緊張しているように。
長男は一瞬呆気にとられ、次に嗤った。
「お前が魔物のために情けをかけるとは? カレン、お前は本当に無能になった」
赤毛玉にはこだわらず、壺を奪い取って地面に叩きつけた。
イチゴジャムが一面に飛び散り、赤い汁がカレンのマントにかかり、醜い花のようになった。
「こんなものが、お前の食べ物に似合うか?」
長男は唾を吐き、脇の石柱を蹴り飛ばした。
「三日後、父王が核のデータを点検する。少しでも不備があれば、どうなるか分かっているな!」
言い終え、袖を振って去っていった。
石室は荒れ放題だ。
カレンは立ったまま、地面の砕けた陶片とイチゴジャムを見つめ、赤い瞳は血滴り落ちそうなほど暗かった。
指を強く握り締め、指節は白くなり、肩までかすかに震えていた。
クローディアは隅に丸まり、その姿を見て胸が苦しくてたまらなかった。
「俺が殴り返してやる」と告げ、原形に戻っていじめるやつらを炭にしてやりたい。
だが、できない。
今の彼女はまだ「低位魔物」に過ぎない。
自分を守ることさえままならず、彼を守るなんて到底無理だ。
カレンは長い間黙っていた後、しゃがみ、指先で慎重に汁のついていない陶片を拾い上げた。
仕草はとても軽やかで、まるで貴重なものを拾うように。
そして隅の赤毛玉に目を向け、赤い瞳に疲れた優しさが宿った。
「大丈夫か?」
クローディアは急いで転がり寄り、毛玉の頭で彼の手の甲を擦り、「大丈夫だよ」と示した。
カレンは彼女を見て、突然手を伸ばし、そっと抱き上げた。
仕草はぎこちなく、初めて小さなものを抱くように、掌がかすかに震えていた。
クローディアは掌に乗せられ、彼の手の温度と、抑え込まれた震えをはっきりと感じる。
産毛がそっと掌を擦り、慰めているように。
「二度と、あいつに近づくな」
カレンは低く言い、後ろめたさが混じっていた。
「あいつは……魔物が大嫌いだ」
クローディアは掌の上で頷いた。
カレンは彼女を抱えたまま水晶のそばに座り、今度は光を摘むこともなく、ただ指先で彼女の赤い産毛を優しくなでていた。
まるで壊れやすい宝物を撫でるように。
「実は……」
彼が突然、溜息のように小さな声で言った。
「昔、お前みたいな毛玉モンスターを飼っていたんだ」
クローディアの耳(毛玉に耳などないが)は一瞬、立った。
「臆病で、いつも俺についてきて」
カレンの視線は虚空に漂い、思い出しているようだ。
「それが兄に見つかり、溶岩池に捨てられた」
声は次第に小さくなり、かすかな咽び声が混じる。
「あの日のマグマは赤くて……お前の毛と同じ色だった……」
クローディアの心は何かに強く締め付けられた。
初めて会った時に手を上げなかった理由、低位魔物の彼女をそばに置き、結晶まで与え、データまで記録してくれた理由が、やっと分かった。
彼は冷たいのではなく、すべての優しさを冷たい殻の奥に閉じ込めていただけなのだ。
彼女は毛むくじゃらの体で指先を擦り、「絶対に離れない」と言いたかったが、出てくるのは「チュッチュ」という小さな鳴き声。
低位魔物の真似で覚えた声だ。
カレンは彼女の意図を理解したようで、赤い瞳に涙が浮かんだ。
頭を下げ、額でそっと産毛に触れ、まるで真剣な約束を交わすように。
「二度と、お前を捨てさせない」
夕陽が通路の隙間から差し込み、石室に長い光の筋を落とす。
黒水晶表面の紋章は静かに流れ、この瞬間の静寂を記録していた。
【赤毛玉 次男殿下との共存時間:120分。魔力変動:0.15階。新特性:人を慰めることができる。】
クローディアはカレンの掌にうずくまり、穏やかな心拍を聞き、突然、急いで強くならなくてもいいのかもしれないと思った。
このまま赤毛玉の姿で彼のそばにいて、光で作る小動物を見たり、心に秘めた言葉を聞いたりするのも、悪くない。
もちろん……あの嫌な長男に見つからなければ、の話だ。
彼女はそっと頭を上げ、産毛に隠れた黒い瞳でカレンの蒼白な横顔を眺め、心の中で黙って誓った。
もう少し強くなったら、必ずあの長男の鎧を粉々に砕いてやる。
今は……ただ、コロコロ転がる赤毛玉でいよう。
カレンの掌にさらに身を縮め、気持ちよくうとうとと眠りについた。




