転生
私の世界は、生まれたときからずっと灰色だった。
自己紹介すらまともにできず、人と目が合っただけですぐ俯く、どうしようもなく臆病な少女。
それが、転生する前の私だ。
幼い頃からずっとそうだ。
いじめられても泣けない、仲間はずれにされても言い返せない、
クラスでは完全に透明人間扱い。
成績も普通、見た目も普通、家庭も普通。
ただ、地味で、臆病で、目立たない。
そんな私が生きている世界は、息苦しくて、冷たくて、居場所がなかった。
人混みが怖い。
視線が怖い。
話しかけられるのも怖い。
休日はずっと家に引きこもり、カーテンを閉めて、
ただパソコンの画面にしがみついていた。
そこで出会ったのが、乙女ゲーム『魔界貴族戦記』だ。
他の攻略キャラはみんなイケメンで、人気もあって、
プレイヤーたちはみんなそちらに夢中だった。
でも、私は絶対にカレン・ロスタロスしか見ていなかった。
魔王の次男。
銀髪に赤い瞳の、魔界の隅っこに追いやられた少年。
ゲーム内では「不吉」「怪しい」「口のきけないゴミ」
そんな扱いを受け、誰からも相手にされない。
イベントもなく、セリフもほとんどない、ただの端役。
それなのに、私は一目で心を奪われた。
画面の向こうで、ひっそりと座っている姿。
誰からも愛されず、一人で孤独に耐えている様子。
それを見たとき、胸が締め付けられるように痛かった。
「あなたは、悪くない」
「怖くなんかない」
「私は、あなたが好き」
画面に向かって、心の中で何度もそう呟いた。
でも、現実の私は臆病すぎて、
コメント欄に一言書き込む勇気すらなかった。
ただ、ただ、遠くから見つめるだけ。
それが、私にできる精いっぱいの恋だった。
カレンのことを想うだけで、
暗かった私の毎日が、少しだけ明るくなった。
彼は、私の世界のたった一つの光だった。
「もし勇気があったら」
「もし強くなれたら」
「もし、あなたのそばに行けたら……」
そんな願いを抱きながら、私は生きていた。
そして、あの日が来た。
雨の日。
暗い道。
ただコンビニの画面にカレンの姿が映ったと思った瞬間。
激しいブレーキ音と、衝撃。
意識が遠くなっていく中、
ただ一つ、心から強く願った。
――来世があるなら、絶対に臆病な私じゃなくなる。
――強く、輝かしく、大胆に生きる。
――そして、絶対にカレンのそばに行く。
――誰よりも先に、あなたに「好き」と伝える。
その想いだけが、魂に焼きついていた。
――
温かい。
柔らかい。
何も怖くない。
意識が戻ったとき、私はベビーベッドの中にいた。
華やかな部屋、魔力の充満、優雅なメイドたち。
声が聞こえる。
「クロディア家のお嬢様です!」
「生まれながらの魔力……これは鳳傲天! 魔界最強クラスの才能です!」
私は目を見開いた。
分かった。
私は……転生した。
ゲームの世界に。
悪役令嬢クロディア・フォン・エレグナーとして。
家柄も、権力も、才能も、すべてが最強。
誰もが私を恐れ、慕う、そんな存在になった。
前世のような臆病者じゃない。
もう、隠れたり、俯いたりしない。
私は静かに、心の中で呟いた。
「カレン・ロスタロス」
「私が、迎えに来たよ」
前世、届かなかった想い。
届かなかった恋。
届かなかった温もり。
すべて、この世界で叶えてあげる。
臆病だった私はもういない。
ここにいるのは、
あなたを守るため、
あなたを好きだと言うため、
あなたを幸せにするために生まれ変わった、
クロディア・フォン・エレグナーだ。
絶対に、あなたを振り向かせる。
どこまでも追いかける。
この世界で、絶対に――
あなたを私のものにする。




