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禁忌魔術、マニュアル化されました ―あなたの問題は、仕様外です―  作者: 青谷 静


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第6話 講習会を実施します

「本日は、お集まりいただきありがとうございます」


会議室に、拍手はなかった。


「禁忌魔術 基礎講習会を開始します」


スクリーンに映し出されたタイトルは、やけに事務的だった。


アオイは最後列に座っていた。


「……講習会、ですか」


「そう」


シラベが隣で欠伸をする。


「最近多いよ」


「最近?」


「ほぼ毎週」


前方では、講師が淡々と話している。


「禁忌魔術は、正しい手順を守れば安全に使用できます」


スライドが切り替わる。


・成功率:98%

・重大インシデント:0件


「……」


アオイは、数字から目を離せなかった。


「次に、使用時の注意点です」


別のスライド。


・心身状態を確認

・マニュアルは最新版を使用

・不安がある場合は現場裁量


「現場裁量……」


アオイが小さく呟く。


「便利な言葉だよね」


シラベが言った。


「全部包める」


「では、実演に移ります」


講師が言った。


「今回は、受講者の中から一名」


ざわっとする。


「……あなた」


指を差されたのは、若い女性だった。


「え、私ですか」


「はい。前へどうぞ」


女性は、ぎこちなく前に出る。


「緊張してますか?」


「少し……」


「大丈夫です」


講師は微笑んだ。


「講習会ですから」


アオイは、嫌な予感がしていた。


「……課長」


「ん?」


「これ、いいんですか」


「記録上はな」


「では」


講師がマニュアルを開く。


「詠唱をお願いします」


女性が詠唱を始める。


途中で、声が震えた。


「あ……」


「続行してください」


講師は止めなかった。


「噛んだことに気づかなければ、問題ありません」


魔法陣が光る。


音が鳴る。


空気が、確かに変わった。


「……成功、ですね」


講師が言う。


会場がざわつく。


「成功です!」


拍手が起きた。


アオイは、拍手できなかった。


「では、質疑応答に入ります」


講師が言う。


すぐに手が上がった。


「はい」


「もし、失敗したらどうなりますか?」


「失敗の定義によります」


「……?」


「マニュアルをご確認ください」


別の手。


「何回まで使っていいんですか?」


「制限は設けていません」


「え?」


「必要に応じて、です」


アオイは、手を挙げた。


「……使用者が、何かを失う可能性は?」


会場が静まる。


講師は一瞬だけ言葉を選んだ。


「そのような報告は、現在は確認されていません」


講習が終わったあと。


廊下で、参加者たちが話している。


「思ったより簡単だったね」


「これなら、使えるかも」


「資格、取ろうかな」


「……増えますね」


アオイが言う。


「うん」


シラベはあっさり言った。


「確実に」


事務室に戻ると、端末が鳴った。


講習受講者数

今月:前月比 180%


「……」


アオイは言葉を失う。


「問題ありますか」


背後から声。


振り返ると、ホウジョウだった。


「受療率……じゃなくて、使用率が上がっています」


「良いことです」


ホウジョウは言った。


「普及は、安定の証です」


「でも」


アオイは食い下がる。


「禁忌ですよ?」


「“元・禁忌”です」


ホウジョウは訂正した。


「正確には」


クロガネが口を開いた。


「なあ」


「はい」


「昔はな」


ホウジョウは聞かなかった。


「今は、違います」


ホウジョウが去ったあと。


アオイは、自席でメモを取った。


・講習会で禁忌を教えている

・成功体験が先に来る

・「失う可能性」が説明されない


書き終えたところで、シラベが言った。


「ねえアオイ」


「はい」


「これさ」


少しだけ、声を落とす。


「使わない方が怖くなるやつだよ」


アオイは、会議室での拍手を思い出していた。


あれは、安心の音だった。


その夜、改訂通知。


改訂通知

第4.6版

第6章 教育

第21条 講習会受講を推奨


アオイは画面を閉じた。


「……推奨」


それは、ほぼ義務に聞こえた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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