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禁忌魔術、マニュアル化されました ―あなたの問題は、仕様外です―  作者: 青谷 静


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第5話 想定外は想定内です

「失礼します」


その声は、ノックより先に聞こえた。


「中央監査室、ホウジョウです」


事務室の空気が、目に見えて重くなる。


スーツ姿の男が一礼する。

年齢は四十代半ば。

背筋が真っ直ぐで、表情が動かない。


「本日は、定期確認に参りました」


「……定期?」


アオイが聞き返す。


「はい。

禁忌魔術の運用状況についてです」


「お忙しいところ、申し訳ありません」


ホウジョウは丁寧に言った。


「簡単な確認ですので」


「簡単、ですか」


クロガネが椅子にもたれたまま言う。


「ええ」


ホウジョウは頷く。


「数字を見るだけですから」


資料が配られる。


アオイは目を落とした。


・禁忌魔術使用件数

・成功率

・重大インシデント件数


「……成功率、九十八パーセント」


思わず声に出た。


「高いでしょう」


ホウジョウが言う。


「制度としては、非常に優秀です」


「“成功”の定義は?」


クロガネが聞く。


「マニュアル通りです」


即答だった。


「概ね成功、ですね」


「はい」


「軽微な異常は?」


アオイが恐る恐る聞く。


「想定内です」


ホウジョウは一切迷わない。


「重大インシデントではありません」


「でも……」


アオイは言葉を選ぶ。


「感情が消えたり、時間がずれたり……」


「生活に支障は?」


「……今のところは」


「では、問題ありません」


シラベが手を挙げた。


「ねえ」


「はい」


「これ、増えてない?」


「何がでしょう」


「禁忌の回数」


ホウジョウは資料をめくる。


「確かに、件数は増えています」


「ですよね」


「ですが」


ホウジョウは続けた。


「件数の増加は、利用しやすくなった証拠です」


「……それって」


アオイが口を開く。


「危険じゃ……」


「いいえ」


ホウジョウは微笑みすら浮かべない。


「管理できています」


「どうやって?」


「マニュアルで」


クロガネが鼻で笑った。


「現場はな」


「現場の声は、把握しています」


ホウジョウは遮る。


「記録上は」


沈黙。


「ちなみに」


ホウジョウは続ける。


「重大インシデントは、発生していません」


「第16条は?」


アオイが聞く。


「発動実績はありません」


「……一度も?」


「はい」


「それ、おかしくないですか」


アオイは思わず言った。


「これだけ使っていて……」


ホウジョウは少しだけ首を傾げた。


「おかしいでしょうか」


「……」


「基準を満たしていないから、発動していない」


「でも」


「基準は、明文化されています」


ホウジョウは、アオイを真っ直ぐ見た。


「不安は、数値化できません」


「ですから」


「制度では扱えない」


「じゃあ」


シラベが言った。


「数値に出ない不安は?」


「個人の感想です」


「へえ」


「監査結果としては」


ホウジョウは資料を閉じた。


「問題ありません」


「……想定外は?」


クロガネが聞く。


「想定内です」


即答だった。


「最後に」


ホウジョウは立ち上がる。


「改訂についてですが」


「はい」


「非常に迅速で、評価しています」


「理由が書いてないですけど」


アオイが言う。


「必要ありません」


「理由を書くと」


ホウジョウは淡々と続ける。


「議論が始まります」


「……」


「議論は、混乱を招きます」


ホウジョウは一礼した。


「現場は、今後も現場裁量で」


「……それって」


「責任は、制度が負います」


ホウジョウが去ったあと。


事務室は、しばらく無音だった。


「……正しい人でしたね」


アオイが呟く。


「正しいな」


クロガネも言う。


「正しすぎる」


シラベが椅子を回しながら言う。


「ねえアオイ」


「はい」


「正しいってさ」


少しだけ声を落とす。


「壊れてることに、気づかない時あるよね」


アオイは、資料の数字を見つめた。


九十八パーセント。


とても綺麗な数字だった。


その夜。


端末に通知が届く。


改訂通知

第4.5版

第16条(重大インシデント)

注釈追加

「発動は、原則不要とする」


アオイは、言葉を失った。


個人メモを開く。


・第16条が、使われない前提になっている

・制度は成功している

・でも、何も終わっていない


書き終えたところで、クロガネが言った。


「アオイ」


「はい」


「覚えとけ」


少しだけ、低い声で。


「想定外が起きなくなった時が、一番危ねぇ」

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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