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禁忌魔術、マニュアル化されました ―あなたの問題は、仕様外です―  作者: 鷹宮ロイド


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第42話 今日も問題は発生していません

朝の通知は、いつも通りだった。


日次運用報告

「問題は発生していません」


アオイは、その文面を見てから端末を閉じた。


対応室は、静かだった。


誰も急いでいない。

誰も困っていない。


「今日も?」


シラベが言う。


「今日も」


アオイは答える。


午前中。


一件だけ、通知が入った。


誰にも言えないまま、

終わらせたくなくて。


アオイは、端末を開く。


処理フローは、見ない。

分類表も、使わない。


対応欄を開く。


対応:受領


確定。


「……それで終わり?」


「終わり」


「問題、解決してないよ」


「してない」


「じゃあ」


シラベは、少しだけ首を傾げた。


「問題、あった?」


アオイは、少し考えた。


「……公式には」


「うん」


「発生していない」


昼。


クロガネが、いつものように聞く。


「問題は?」


アオイは、いつものように答える。


「ありません」


「そうか」


それで、会話は終わった。


午後。


新しい通知は、来なかった。


対応室には、

ただ時間だけが流れている。


「ねえ」


シラベが言う。


「この仕事さ」


「うん」


「いつまで続くんだろ」


アオイは、少しだけ考えた。


「……分からない」


「終わらない?」


「終わらせない限りは」


シラベは、小さく笑った。


「そっか」


夜。


個人メモは、開かなかった。


もう、書くことはない。


端末を閉じる。


外は、静かだった。


正しく運用された世界。


その中で、

誰にも名前を付けられなかった何かが、

今日も確かに受け取られた。


問題は発生していません。


――この先の世界について


ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


この物語で描かれたのは、

かつて「禁忌」と呼ばれていた魔術を、

安全に、再現可能に、誰でも扱えるものへと変えていく過程でした。


危険は管理され、

奇跡は手順になり、

世界は確かに前に進みました。


事故は減り、

理不尽は整理され、

多くの人が救われています。


この結末は、失敗ではありません。

成功です。


それでも、もし読み終えたあとに、


どこか静かすぎると感じた


神や奇跡が、少し遠くなった気がした


「正しいはずなのに」と思う場面があった


そんな感覚が残ったなら、

それは間違いではありません。


この物語が終わった「その先」の世界では、

奇跡はもう、誰かの人生を左右する存在ではなくなっています。


神は、必要とされなくなりました。

少なくとも、制度の中では。


けれど人は、

説明できない不安や、

理由のない違和感を、

完全には手放せません。


それらは、どこへ行くのでしょうか。


その問いに答える物語が、

『神に転生したが、石像から動けない』です。


あちらの物語で描かれる神は、

奇跡を起こしません。

世界を救いません。


ただ、

正しさが完成したあとに残ってしまったものを、

静かに見つめています。


『禁忌魔術のマニュアル化』が描いたのは、

世界が「正しくなるまで」の物語。


『神に転生したが、石像から動けない』が描くのは、

正しくなった世界で、人がどう生きるかという物語です。


どちらかが欠けていたわけではありません。

ただ、時間が違います。


もしこの物語を読み終えて、


正しさは、どこまで人を救えるのか


説明できないものは、本当に不要なのか


奇跡が管理された世界で、人は何を信じるのか


そんな問いが残ったなら、

次の物語は、もう始まっています。


答えを示すためではなく、

問いを置くための場所として。


また、管理された奇跡の先で、お会いできれば幸いです。

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