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禁忌魔術、マニュアル化されました ―あなたの問題は、仕様外です―  作者: 青谷 静


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第4話 使用者の心身状態に注意

「……今日、静かですね」


アオイは、朝の事務室を見回して言った。


「嵐の前だな」


クロガネ課長がコーヒーを飲みながら言う。


「縁起でもないこと言わないでくださいよ」


「言っとかないと来る」


端末が鳴った。


案件通知

禁忌魔術 使用申請

理由:感情制御失敗


「……感情?」


アオイは眉をひそめる。


「そんな理由、ありましたっけ」


「最近、増えた」


クロガネが言う。


対応室。


座っているのは、若い男性だった。

目の下に隈があり、落ち着きがない。


「……すみません」


「いえ」


アオイはマニュアルを開く。


「まず、心身状態の確認を行います」


「はい」


「昨夜の睡眠時間は?」


「三時間です」


アオイはチェックを入れた。


「食事は?」


「朝、食べてません」


「……はい」


さらにチェック。


「現在、強い感情はありますか?」


男性は少し考えてから、言った。


「……あります」


「どの程度でしょうか」


「たぶん、かなり」


「内容は?」


「怒りです」


アオイの指が止まった。


「……えーと」


マニュアルをめくる。


「第5条……

使用者は、以下の状態にある場合、禁忌魔術を使用してはならない」


声に出して読む。


「寝不足。強い空腹。強い怒り……」


全部、該当していた。


「……課長」


アオイは振り返る。


「これは」


「ダメだな」


クロガネは即答した。


「今日は帰って寝ろ」


男性は慌てた。


「で、でも……」


「でも?」


「もう、使っちゃったんです」


室内が静まり返った。


「……いつ?」


アオイが聞く。


「今朝です」


「結果は?」


男性は一瞬、視線を逸らした。


「……光りました」


「音は?」


「しました」


「空気は?」


「変わった気がします」


シラベが頷いた。


「成功だね」


「ちょっと待ってください!」


アオイが声を上げる。


「心身状態、全部アウトですよ!?」


「うん」


「それでも、いいんですか!?」


クロガネは、ゆっくり立ち上がった。


「結果は?」


「……成功、です」


「なら、概ね成功だ」


「でも……」


「第12条」


クロガネは短く言った。


アオイは、悔しそうにマニュアルを読む。


「……発動時、以下のいずれかが確認できた場合……」


また、全部揃っていた。


「……副作用は?」


アオイが聞く。


男性は、少し考えてから言った。


「……怒りが、なくなりました」


「え?」


「今、すごく落ち着いてます」


シラベが目を輝かせた。


「いいじゃん」


「よくないですよ!」


アオイは叫ぶ。


「感情が、消えたんですよ!?」


「消えたかどうかは、本人しか分からない」


クロガネが言う。


「で、本人は?」


男性は、静かに答えた。


「……楽です」


その瞬間、アオイは背筋が冷えた。


「……記録します」


震える声で言う。


・使用結果:概ね成功

・使用者状態:不適合

・副作用:感情の沈静化(本人申告)


「軽微だな」


クロガネが言った。


「……軽微?」


「生活に支障は?」


「今のところ、ありません」


「じゃあ、軽微だ」


男性が帰ったあと。


アオイは椅子に座り込んだ。


「……これ」


「ん?」


シラベが覗く。


「感情が、魔術のコストになってませんか?」


シラベは首を傾げる。


「そういう禁忌、前からあるよ?」


「前から……?」


クロガネが、少しだけ遠くを見る。


「昔はな」


アオイが顔を上げる。


「使う前に、分かってた」


「何をですか」


「何を失うか」


沈黙。


「今は」


クロガネは続ける。


「マニュアルが、先に安心させる」


「……それって」


「失ってから、気づく」


その日の終業間際。


端末に通知が届く。


改訂通知

第4.4版

第15条 使用後の異常

注釈追加

「感情の変化は、軽微な異常に分類する」


アオイは、画面を見つめたまま動けなかった。


自席で、個人メモを開く。


・感情がコスト

・本人が気づかない場合あり

・「軽微」の範囲が拡大している


書き終えたところで、シラベが声をかけた。


「ねえアオイ」


「はい」


「禁忌ってさ」


少しだけ、真面目な顔で言う。


「使うたびに、減ってくもんだよ」


「何が、ですか」


シラベは笑った。


「そのうち分かる」


アオイは、マニュアルを閉じた。


今日は、いつもより重く感じた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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