第38話 記録されないということ
「……これ」
シラベが、端末を覗き込みながら言った。
「一覧に、無いね」
アオイは、画面を見た。
確かに、無い。
昨日対応した案件。
解決しないと分かったうえで、受け取ったもの。
公式の一覧には、載っていなかった。
「仕様外一覧にも」
シラベが続ける。
「無い」
「……うん」
「じゃあ」
少し間を置く。
「消えた?」
アオイは、首を振った。
「消えてない」
「どこにあるの?」
アオイは、自分の端末を示した。
「……ここ」
対応履歴。
分類も、評価も無い。
ただ、
対応:受領
とだけ、残っている。
「これ」
シラベが言う。
「公式じゃないよね」
「うん」
「評価もされない」
「されない」
「じゃあ」
シラベは、少しだけ困った顔をした。
「仕事として、存在してる?」
アオイは、少し考えた。
「……存在してる」
「理由は?」
「覚えてる人がいる」
昼。
別の部署から、軽い問い合わせが来た。
第七運用課で扱っている案件について
記録件数が把握できません
「……来たね」
シラベが言う。
アオイは、短く返信を書く。
公的な記録件数はありません。
対応は、個別に行っています。
送信。
「それでいいの?」
「いい」
「説明、しなくて?」
「しない」
午後。
カンザキが、対応室を訪れた。
「少し、聞いてもいいですか」
「どうぞ」
「最近」
カンザキは、言葉を選ぶ。
「第七運用課の案件が、表に出てこない」
「はい」
「記録も、評価も」
「ありません」
「……それは」
少し間を置いて。
「不安ではありませんか」
アオイは、首を振った。
「不安なのは」
静かに言う。
「数字が欲しい側です」
カンザキは、何も言わなかった。
「記録が無いと」
少しして言う。
「説明できない」
「はい」
「それでも?」
「それでも」
アオイは、答えた。
「残っています」
夕方。
個人メモを開く。
・公式記録は無い
・一覧にも載らない
・だが、対応は続いている
最後に、一行。
・消えたのは、数字だけ
端末を閉じる。
外は、今日も静かだった。
正しく運用された世界。
その中で、
記録されなかった対応だけが、
確かに誰かの時間を通り過ぎていった。
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