第37話 解決しない案件
その案件は、
最初から「解決しない」と分かっていた。
問い合わせ内容:
何が起きたのかは説明できない
生活は続いている
ただ、
以前と同じではない
「……これ」
シラベが言う。
「今までで、一番きれいに揃ってる」
「うん」
アオイは、否定しなかった。
分類表を、開かない。
処理フローも、見ない。
「どうする?」
「……受け取る」
それだけだった。
返信文を書く。
定型文は使わない。
ご連絡ありがとうございます。
内容は確認しました。
送信。
「それだけ?」
シラベが聞く。
「それだけ」
「解決、しないよ?」
「……しない」
「じゃあ」
少し間を置いて。
「意味ある?」
アオイは、少し考えた。
「意味が無いって、言わないため」
午前中、
その案件から追加の連絡はなかった。
午後。
もう一件、似た問い合わせが来る。
特に困っているわけではありません。
でも、
これを誰にも言わずに終わらせたくなくて。
アオイは、画面を見つめた。
「……同じ」
「うん」
シラベは頷く。
「でも、同じじゃない」
返信を書く。
確かに受け取りました。
解決はお約束できませんが、
記録として残します。
送信。
「記録?」
シラベが聞く。
「公式じゃない」
アオイは言う。
「でも、消えない」
「それって」
「覚えてる人がいるってこと」
夕方。
クロガネが、対応室に来た。
「今日の案件」
「解決していません」
アオイは、先に言った。
「分かってる」
「……それで」
「それでいい」
クロガネは、迷いなく言った。
「期待させなかったか?」
「していません」
「怒らせなかったか?」
「……分かりません」
クロガネは、少しだけ笑った。
「それでいい」
「期待も」
「怒りも」
「生まれなかったなら」
夜。
個人メモを開く。
・解決しないと分かって対応した
・説明もしなかった
・それでも、連絡は続いた
最後に、一行。
・終わらせない、という選択
端末を閉じる。
外は、静かだった。
正しく運用された世界。
その中で、
解決しない案件だけが、
静かに積み重なっていく。
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