第36話 第七運用課の役割
その話は、議題として上がったわけではなかった。
「……ところで」
雑談の延長みたいな調子で、
カンザキが言った。
「第七運用課って」
誰かが、顔を上げる。
「何をする部署なんでしょうね」
一瞬、
会議室が静かになった。
「対応します」
誰かが言う。
「仕様外を」
別の誰か。
「処理しない案件を」
言葉は出る。
だが、どれも途中で止まる。
「……定義」
カンザキは、資料をめくりながら言った。
「どこにも書いてないんですよ」
アオイは、少しだけ身構えた。
「消そうという話ではありません」
すぐに続ける。
「ただ」
「説明が、できなくて」
「説明」
その言葉が、
何度目かの波紋を落とす。
「役割が曖昧だと」
カンザキは続ける。
「組織図的に困るんです」
「困る……」
「評価もできませんし」
「人も増やせません」
「減らす理由もありません」
「……便利ですね」
シラベが、ぽつりと言った。
「え?」
「減らせないけど」
少し笑う。
「増やせもしない」
カンザキは、苦笑した。
「そうですね」
「じゃあ」
誰かが聞く。
「今の役割は?」
クロガネが、口を開いた。
「処理しない」
短い言葉だった。
「……しない?」
「仕様に当てはまらないものを」
クロガネは、淡々と言う。
「処理しない」
「でも」
誰かが言う。
「それ、仕事ですか」
クロガネは、少し考えた。
「仕事だ」
即答だった。
「理由は?」
「誰かが、そこにいるからだ」
それ以上、説明はなかった。
会議は、それで終わった。
対応室に戻る。
「役割、決まったね」
シラベが言う。
「……名前は、無いけど」
「無い方がいいかも」
「……うん」
午後。
一覧を確認する。
仕様外案件。
数は、増えていない。
減ってもいない。
「変わらないね」
「変えなかったから」
アオイは答える。
問い合わせが、一件来る。
どこにも当てはまらないのですが、
誰かに聞いてほしくて
アオイは、端末を持った。
「……はい」
声に出して確認する。
処理フローを開かない。
分類表も、見ない。
ただ、
対応記録を開く。
対応:受領
確定。
「……終わり?」
シラベが聞く。
「終わり」
「処理、してないよ」
「してない」
「でも」
「仕事は、した」
夜。
個人メモを開く。
・第七運用課の役割
・処理しない
・判断しない
・だが、受け取る
最後に、一行。
・名前が無いから、残れた
端末を閉じる。
外は、静かだった。
正しく運用された世界。
その片隅で、
何もしない役割が、
正式になりつつあった。
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