第28話 神に任せればよかったのに
その言葉は、
責める声ではなかった。
「……神に任せれば、よかったんじゃないですか?」
端末越しの問い合わせだった。
文字だけ。
感情は、読み取れない。
アオイは、画面を見つめた。
内容は、これまでと同じだ。
魔術使用後、
生活に大きな支障はない
ただ、
「以前と同じ自分ではない気がする」
処理結果は、すでに出ている。
影響軽微
再現性なし
仕様外
対応不要
「……正しい」
シラベが、後ろから言った。
「うん」
アオイは頷く。
「全部、正しい」
返信欄は、短い。
定型文。
本件は仕様外のため、
運用上、対応は行われません。
確定を押す。
少しして、返答が来た。
分かりました。
でも、
神に任せればよかったのに。
「……」
シラベが、画面を覗いた。
「それ、ずるくない?」
「……ずるい」
アオイは、小さく言った。
「だってさ」
シラベは続ける。
「正論じゃん」
正しい。
神に任せればよかった。
判断しない世界で、
判断しない存在に。
「神は」
アオイは、言葉を選びながら言う。
「問題しか、扱わない」
「問題にならなかった人は?」
「……対象外」
「それって」
シラベは、少し笑った。
「救われないって意味だよね」
アオイは、答えなかった。
午後。
同じ文言が、もう一度来た。
別の案件。
神に任せればよかったのに。
「……増えた」
アオイは、端末を閉じた。
「それさ」
シラベが言う。
「誰も、アオイを責めてないよね」
「……うん」
「世界を責めてる」
会議室。
軽い共有が行われた。
「最近」
カンザキが言う。
「“神”という言葉が増えています」
「問題ですか」
誰かが聞く。
「いいえ」
カンザキは即答した。
「信頼の証です」
アオイの胸が、少しだけ重くなる。
「任せればいい」
「任せた方が楽」
「任せた方が正しい」
誰も、間違っていない。
帰り道。
エレベーターの中で、シラベが言った。
「ねえ」
「うん」
「神に任せるってさ」
少し間を置く。
「責任も、任せるってことだよね」
「……そうだね」
「じゃあさ」
シラベは、天井を見上げた。
「今、責任持ってるの誰?」
アオイは、答えられなかった。
夜。
個人メモを開く。
・神に任せればよかった
・正論
・でも、それは今からは選べない
少し迷って、追記する。
・任せなかった人が、残っている
端末を閉じる。
外は、相変わらず静かだった。
正しく運用された世界。
そして今日もまた、
誰も悪くないまま、
救われなかった人が一人増えた。
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