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禁忌魔術、マニュアル化されました ―あなたの問題は、仕様外です―  作者: 青谷 静


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第26話 仕様外です

午前の対応室は、静かだった。


静かすぎて、

時計の音が少し気になる。


「今日も何も来ないね」


シラベが言う。


「うん」


アオイは、端末を見ながら答えた。


その直後。


通知音が鳴った。


問い合わせ

「仕様外です」


「……早い」


シラベが、少し笑う。


アオイは、画面を開いた。


申請内容:

魔術使用後、

周囲との会話が成立しにくくなった


判定:

影響軽微

再現性なし


結論:

仕様外


「……会話が、成立しにくい」


アオイは、ゆっくり読み上げた。


「それって」


シラベが言う。


「数値にできないやつだ」


「うん」


「だから?」


「……仕様外」


二人とも、黙った。


「これ」


シラベが聞く。


「どうなるの?」


アオイは、処理フローを確認する。


再現性:なし


身体影響:なし


生活支障:軽微


「……処理対象外」


アオイは、淡々と答えた。


「つまり」


シラベが言う。


「世界的には、問題なし」


「そう」


しばらく、画面を見つめる。


「ねえ」


シラベが、ふと思い出したように言う。


「前だったらさ」


「うん」


「“様子見ましょう”って言ってたよね」


「……言ってた」


アオイは、少しだけ笑った。


「今は?」


「……書けない」


「“様子”が、仕様に無いから」


アオイは、何も否定できなかった。


処理画面。


選択肢は、二つしかない。


・仕様内

・仕様外


「……中間が無い」


シラベが言う。


「無いね」


アオイは、カーソルを動かす。


「仕様外」を選択。


確定。


画面が切り替わる。


処理完了

対応不要


「……終わり?」


シラベが聞く。


「終わり」


昼休み。


二人は、自販機の前にいた。


「さ」


シラベが言う。


「仕様外って、便利な言葉だよね」


「……うん」


「説明しなくていい」


「責任も残らない」


「正しい」


「正しいね」


アオイは答えた。


「でもさ」


シラベは、少しだけ声を落とす。


「切られた側は、どう思うんだろ」


アオイは、答えなかった。


午後。


似た問い合わせが、もう一件来た。


同じ判定。

同じ処理。


「……二件目」


アオイは、個人メモを開きかけて、やめた。


「書かないの?」


シラベが聞く。


「……公式には」


アオイは、首を振る。


「何も起きてない」


帰り際。


クロガネが、端末を確認して言った。


「今日の対応は?」


「二件」


アオイは答える。


「問題は?」


「ありません」


クロガネは、しばらく黙ってから言った。


「……“仕様外”が増えたな」


「はい」


「理由は?」


アオイは、少し考えた。


「……世界が、完成したから」


クロガネは、苦笑した。


「だろうな」


夜。


個人メモを開く。


・仕様外=扱えない

・扱えない=問題にならない

・問題にならない=残る


最後に、書き足す。


・切ったのではない

・ただ、置いてきただけ


端末を閉じる。


今日もまた、


問題は発生していません。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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