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禁忌魔術、マニュアル化されました ―あなたの問題は、仕様外です―  作者: 青谷 静


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第25話 問題は発生していません

朝の通知は、いつも通りだった。


日次運用報告

「問題は発生していません」


アオイは、その文面を見てから端末を閉じた。


「……はい」


声に出して確認する。


対応室は、静かだった。


人はいる。

機材も動いている。

だが、急ぐ理由がない。


「今日も来ないね」


シラベが、椅子を回しながら言った。


「うん」


アオイは頷く。


「来ないね」


「楽?」


「……楽」


少し考えてから答える。


楽だ。

確かに。


判断しなくていい。

確認もしなくていい。

問題は起きていない。


「第七運用課って」


シラベが言う。


「もう、何する部署なんだっけ」


アオイは、少し考えた。


「……残り物」


「え?」


「処理されなかったもの」


「それって」


シラベは笑う。


「仕事じゃなくない?」


「……そうかも」


アオイも、少しだけ笑った。


午前中の終わり頃。


一件だけ、端末が鳴った。


問い合わせ

「対象外と判断されました」


「……あ」


アオイは、端末を持ち上げる。


「久しぶり」


内容は、短かった。


申請内容:生活影響軽微

記録対象外

処理不要


「……処理不要」


アオイは、画面を見つめた。


「どんな内容?」


シラベが覗き込む。


「えっと」


アオイは読み上げる。


「“前と同じ生活ができない気がする”」


「……それだけ?」


「それだけ」


二人とも、黙った。


「正しいよね」


シラベが言う。


「生活影響、軽微」


「うん」


アオイは頷く。


「数値上は」


「じゃあ」


シラベは、軽く肩をすくめた。


「問題ないじゃん」


「……問題は」


アオイは、ゆっくり言った。


「発生してない」


二人は、しばらく画面を見ていた。


「これ」


シラベが言う。


「どうする?」


アオイは、端末を操作した。


記録欄。


入力できる項目は、少ない。


・処理結果:対象外

・対応:不要


「……これで終わり」


アオイは、確定を押した。


端末が、静かに戻る。


「仕事した?」


シラベが聞く。


「……した」


アオイは答えた。


昼休み。


廊下は、穏やかだった。


誰も走っていない。

誰も怒っていない。


「平和だね」


シラベが言う。


「平和だね」


アオイも言った。


「前より、ずっと」


午後。


もう一件も、何も来なかった。


帰り際。


クロガネが、いつものように言った。


「問題は?」


「ありません」


アオイは答える。


「そうか」


クロガネは頷いた。


「……課長」


アオイは、少し迷ってから聞いた。


「それで、いいんですか」


クロガネは、少しだけ考えた。


「“問題”が無いならな」


「……」


「ただし」


クロガネは続ける。


「無かったことにしただけかもしれん」


アオイは、その言葉を胸にしまった。


夜。


個人メモを開く。


・問題は発生していない

・だから、何もしなかった

・それでも、誰かの一日は変わった


最後に、一行だけ書く。


・それは、仕事だった


端末を閉じる。


窓の外。


街は、穏やかだった。


正しく運用されている世界。


そして今日もまた、


問題は発生していません。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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