第23話 選ばなかった人
中央記録管理室は、今日も静かだった。
音はしない。
人の出入りもない。
だが、稼働している。
「……順調です」
カンザキは、廊下で言った。
「問題は?」
「ありません」
「例外は?」
「発生していません」
アオイは、ただ頷いた。
返す言葉が、見つからなかった。
「……あの」
少し間を置いて、聞く。
「誰が、あそこにいるんですか」
カンザキは、歩みを止めなかった。
「誰もいません」
「……でも」
アオイは、扉を見た。
「記録は……」
「固定されています」
それ以上、話は進まなかった。
対応室。
今日も案件は少ない。
正確には、
問題が起きない。
「楽になりましたね」
誰かが言った。
「はい」
別の誰かが答える。
シラベは、窓際に立っていた。
「……ねえ」
「はい」
アオイは、隣に立つ。
「私さ」
シラベは、外を見たまま言う。
「完全に、呼ばれなくなった」
「……うん」
「前はさ」
少しだけ、笑う。
「“勘が合う人”だったんだよ」
「……今は?」
「ノイズ」
その言葉は、冗談みたいだった。
「……でも」
アオイは、言った。
「選ばれなかっただけです」
シラベは、肩をすくめる。
「選ばれない方が、楽」
会議室。
簡単な報告だけで、終わった。
処理速度:維持
安定度:上昇
クレーム:なし
「……良い結果ですね」
誰かが言った。
「はい」
カンザキは答える。
アオイは、資料を閉じた。
「……課長」
クロガネを見て、言う。
「私」
クロガネは、遮らなかった。
「選ばれなかったこと」
少し迷って。
「後悔、してないです」
クロガネは、静かに頷いた。
「そうだろうな」
「でも」
アオイは、続ける。
「選ばれた人が……」
「人じゃねぇ」
クロガネは、低く言った。
沈黙。
「……課長」
「なんだ」
「これ」
中央記録管理室の方向を見る。
「止められますか」
クロガネは、すぐには答えなかった。
「……止める理由が、無い」
「ですよね」
その日の終わり。
アオイは、個人メモを開いた。
・選ばれなかった
・拒否した
・後悔はしていない
最後の一行。
・でも、世界は選んだ
書いて、閉じた。
帰り道。
廊下の照明が、少しだけ暗かった。
誰も、気にしない。
中央記録管理室の扉。
今日も、開かない。
シラベが、ぽつりと言った。
「ねえアオイ」
「はい」
「神様ってさ」
一拍。
「選ばれた人のこと、覚えてるのかな」
アオイは、答えなかった。
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