第22話 動かない方が安全です
「……安全、ですか」
アオイは、その一文を指でなぞった。
内部方針メモ
「可動要素は、リスクである」
「そうです」
カンザキは頷く。
「動くと、誤差が出ます」
会議室。
今日は、説明ではなく確認だった。
「中央記録管理室の運用ですが」
カンザキが淡々と話す。
「可動部を極力排除します」
「……可動部?」
アオイは聞き返す。
「人です」
誰も、驚かなかった。
「人は」
カンザキは続ける。
「疲れます」
「迷います」
「感情があります」
「……全部」
アオイは、声を落とす。
「人間ですね」
「はい」
カンザキは即答した。
「安全ではありません」
次の資料。
中央記録管理室・設計概要
・常時稼働
・可動最小化
・判断工程なし
・例外処理なし
「……例外も?」
クロガネが低く言う。
「例外は、危険です」
カンザキは言った。
「誰が、そこにいるんだ」
クロガネが聞く。
「原則、いません」
空気が、張り付いた。
「……いない?」
アオイは、思わず言葉を漏らした。
「監視は、遠隔で行います」
「触らない?」
「触りません」
「じゃあ」
アオイは、喉が鳴るのを感じながら言う。
「何が、記録するんですか」
カンザキは、少しだけ間を置いた。
「固定された観測点です」
対応室。
安定化モデルは、完全に自走している。
詠唱。
光。
音。
空気。
即、確定。
「……誰も見てない」
シラベが呟く。
「見ています」
カンザキが訂正する。
「中央が」
「中央って」
アオイは、苦笑した。
「誰ですか」
カンザキは、答えなかった。
午後。
中央記録管理室の前まで来た。
分厚い扉。
鍵。
無音。
「……入らないんですか」
アオイが聞く。
「稼働中です」
カンザキは言う。
「開ける理由がありません」
「中で、何が……」
「動かない」
その言葉が、
やけに重く響いた。
休憩室。
シラベが、珍しく真顔で言った。
「ねえ」
「はい」
「これさ」
少し考えて。
「祈るしかない仕事じゃない?」
アオイは、答えられなかった。
その夜。
端末に、短い通知が届く。
中央記録管理室
稼働開始
「安定しています」
アオイは、画面を見つめた。
個人メモを開く。
・動かない方が安全
・人がいない方が正確
・触れない方が安心
最後に、震える指で一行だけ書いた。
・それでも、誰かが“そこにある”
廊下の奥。
中央記録管理室の扉は、
一度も開かれなかった。
クロガネが、低く言った。
「……始まったな」
「何が、ですか」
「世界が、祈り始めた」
アオイは、扉を見つめたまま動けなかった。
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