第21話 記録を任せます
「……君ではない」
それが、最初の言葉だった。
アオイは、会議室の端で立っていた。
呼ばれたが、席は用意されていない。
「判断者の再配置について」
カンザキが資料を開く。
「新しい役割を設けます」
次のスライド。
中央記録管理
・観測点の集約
・結果の固定
・判断不要
「……記録管理」
アオイは、静かに呟いた。
「この役割には」
カンザキは続ける。
「条件があります」
「条件?」
クロガネが聞く。
「迷わないこと」
一拍。
「記録に、感情を挟まないこと」
会議室の空気が、少しだけ変わった。
「……それ」
アオイは、思わず口を開く。
「判断、じゃないですか」
「違います」
カンザキは即答する。
「判断はしません」
「では、何を?」
「固定します」
言葉が、重く落ちた。
「固定……」
アオイは、資料を見つめる。
「それって」
「結果を、確定させるだけです」
「……間違ってたら?」
カンザキは、少しだけ考えた。
「間違いは、発生しません」
「……なぜ?」
「固定されるからです」
沈黙。
「候補者は」
カンザキが言った。
「既に、います」
アオイは、息を呑んだ。
「……誰ですか」
「選定中です」
その言い方が、
もう決まっていることを示していた。
対応室。
今日も、安定化モデルは稼働している。
詠唱。
光。
音。
空気。
確定。
「……早い」
アオイは、立ったまま見ていた。
「触ってませんよね」
「触る必要がありません」
カンザキが言う。
「記録は、中央で行われます」
「……中央」
アオイは、その言葉を繰り返した。
休憩室。
クロガネが、缶コーヒーを置いた。
「気づいたか」
「……はい」
「これ」
アオイは、声を落とす。
「人じゃなくて……」
クロガネは、続きを言わなかった。
「向こうはな」
クロガネが言う。
「責任を、置きたいだけだ」
「……責任」
「誰も判断しないなら」
クロガネは続ける。
「誰かに、固定させるしかない」
「……それって」
アオイは、言葉を探す。
「名前は、まだ無い」
クロガネは言った。
「だが」
一拍。
「動かない席だ」
その夜。
アオイは、個人メモを開いた。
・記録は中央に集まる
・固定する役割が生まれた
・判断ではない、と言われている
最後の一行を書く前に、手が止まった。
・でも、選んでいるのと同じだ
書かなかった。
翌朝。
端末に、短い通知が来ていた。
内部通知
中央記録管理室
「準備が整い次第、稼働します」
アオイは、画面を閉じた。
シラベが、隣で言った。
「ねえアオイ」
「はい」
「それさ」
少しだけ、真顔。
「人じゃないよね」
アオイは、ゆっくり頷いた。
廊下の奥。
誰も入らないはずの区画に、
新しい札が掛けられていた。
関係者以外立入禁止
中央記録管理室
中は、見えなかった。
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