第19話 安定化モデルを導入します
「……モデル?」
アオイは、会議室の資料を見て言った。
表紙に、大きく書かれている。
安定化モデル(試験導入)
「モデルです」
カンザキが頷く。
「概念ではなく、設計です」
「設計……?」
クロガネが、腕を組んだ。
「つまり?」
「判断を減らします」
「もう減ってるだろ」
「最終的に、不要にします」
会議室が、少し静まった。
次のスライド。
安定化モデル
・観測点の固定
・結果の即時確定
・判断工程の完全省略
「……完全?」
アオイは、喉を鳴らした。
「これにより」
カンザキは続ける。
「処理速度は最大化されます」
「誤差は?」
「ありません」
「……本当に?」
「誤差は」
カンザキは、言い直す。
「発生しないように固定されます」
対応室。
試験導入対象の案件が来ていた。
「安定化モデル、適用します」
「……今?」
アオイは言った。
「はい」
詠唱。
光。
音。
空気。
いつもと、同じ。
だが――
「……早い」
シラベが呟く。
結果が、即座に表示された。
・使用結果:成功
・異常:なし
・安定化:完了
「……確認は?」
アオイが聞く。
「不要です」
カンザキが言う。
「確定しています」
使用者は、戸惑いながらも言った。
「……終わりですか?」
「はい」
「もう……?」
「安心してください」
使用者は、少し考えてから笑った。
「……楽ですね」
「……楽」
アオイは、その言葉を反芻した。
午後。
安定化モデルは、連続で使われた。
誰も、迷わない。
誰も、確認しない。
「……異常は?」
アオイが聞く。
「ありません」
カンザキは即答する。
「感情は?」
「対象外です」
「例外は?」
「発生しません」
事務室。
アオイは、端末を見つめていた。
「……課長」
「なんだ」
「これ」
「?」
「完璧じゃないですか」
クロガネは、すぐには答えなかった。
「……ああ」
少し間を置いて。
「完璧だ」
「……じゃあ」
アオイは、声を落とす。
「私たち、何してるんですか」
「見てるだけだ」
クロガネは言った。
その時。
端末に、通知が出た。
試験結果
・処理速度:最大
・クレーム:0
・事故:0
・例外:0
「……ゼロ」
アオイは、画面を見つめた。
「理想形です」
カンザキが言う。
「これ以上、何もいりません」
シラベが、ぽつりと呟いた。
「……動かないね」
「え?」
「世界」
誰も、答えなかった。
その夜。
アオイは、個人メモを開いた。
・判断しない
・確認しない
・動かない
・でも、全部うまくいっている
最後の一文を書く前に、手が止まった。
・これ以上、良くなる?
書けなかった。
クロガネが、帰り際に言った。
「アオイ」
「はい」
「完成ってのはな」
「……」
「それ以上、触れなくなることだ」
廊下を出るとき。
アオイは、振り返った。
対応室は、静かだった。
静かすぎるほどに。
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