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禁忌魔術、マニュアル化されました ―あなたの問題は、仕様外です―  作者: 青谷 静


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第2話 概ね成功とみなす

「で、これが今日の案件」


クロガネ課長は、紙束を机に置いた。


「市民対応だ」


アオイは一瞬、固まった。


「……え、市民、ですか?」


「うん。一般人」


シラベが軽く言う。


「禁忌魔術、関係あるんですか?」


「あるから来てる」


クロガネが言った。


対応室には、ひとりの男性が座っていた。

年齢は三十代くらい。落ち着かない様子で、指を組んだり離したりしている。


「えー……禁忌魔術管理局、第七運用課です」


アオイはマニュアルを抱えたまま、頭を下げた。


「本日は、どういったご用件でしょうか」


男性は少し言い淀んだあと、言った。


「……成功、したんです」


「は?」


アオイが聞き返す。


「だから、成功です。たぶん」


「何が、ですか?」


「禁忌魔術です」


室内が一瞬、静かになった。


「え、あの、どの禁忌を?」


「わかりません」


「……はい?」


「講習で習った通りにやったら、光ったんです」


「光った?」


「音もしました」


「空気も?」


「変わった気がします」


シラベが頷いた。


「うん、それ成功」


「いやいやいや!」


アオイは慌ててマニュアルを開く。


「えーと……使用申請は?」


「してません」


「事前確認は?」


「してません」


「A-38様式は……」


「何ですか、それ」


「……課長」


アオイは助けを求めるようにクロガネを見る。


「違反では?」


クロガネは男性を一瞥した。


「で、被害は?」


男性は首を傾げる。


「……たぶん、ないです」


「たぶん?」


「時計が、三分くらい進んだ気はしますけど」


「進んだ?」


「でも、元に戻りました」


アオイのペンが止まった。


「……戻った?」


「はい。なので、問題ないかなと」


シラベが手を叩いた。


「じゃあ、概ね成功だね」


「ですよね?」


男性は安心した顔をする。


「ちょっと待ってください!」


アオイが声を上げた。


「それ、勝手に判断していいんですか!?」


シラベはきょとんとする。


「え?

成功かどうかでしょ?」


「禁忌魔術ですよ!?」


「うん」


「もっと……こう……重大な……」


クロガネが口を挟んだ。


「アオイ」


「はい」


「第12条」


アオイは歯を食いしばり、読む。


「……発動時、以下のいずれかが確認できた場合、『概ね成功』とみなす……」


全部、当てはまっていた。


「……では」


アオイは男性に向き直った。


「今回は……」


言葉を選びながら、言う。


「概ね成功、という扱いになります」


男性は深く頭を下げた。


「ありがとうございます!」


男性が帰ったあと、アオイは椅子に崩れ落ちた。


「……いいんですか、これ」


「いい」


クロガネは即答した。


「だって、成功してるし」


「“だいたい”ですけど!」


「一番使う成功だ」


アオイは報告書を書き始めた。


・使用結果:概ね成功

・被害:確認されず(本人申告)

・備考:時計のズレ(軽微)


書き終えた瞬間、違和感に気づいた。


「……あれ?」


「ん?」


シラベが覗き込む。


「これ、失敗ってどこからですか?」


シラベは少し考えた。


「戻らなかったら?」


「どこまで戻らなかったらですか?」


「戻れないくらい?」


「どの程度で?」


「……さあ?」


クロガネが立ち上がる。


「だから、禁忌だった」


アオイは顔を上げる。


「危ないからじゃないって、言ってましたよね」


「ああ」


「じゃあ、何で……」


クロガネは一瞬だけ、言葉を探すように間を置いた。


「説明が追いつかねぇ」


その日の終業間際。


アオイの端末に通知が届いた。


改訂通知

第3.8版発行

第12条注釈追加

「概ね成功」の判断は、現場裁量とする


アオイは画面を見つめたまま、動けなくなった。


「……現場裁量?」


背後から、カンザキの声がした。


「それは、問題です」


「……え?」


「基準が曖昧になります」


カンザキは真顔だった。


「排除すべきです」


アオイは、今日の報告書を見返した。


「……これ」


小さく呟く。


「“成功”って書いた瞬間に、

本当に成功になってませんか?」


シラベは笑った。


「仕事って、そういうもんでしょ」


クロガネは言った。


「記録が先だ」


「現実は、後から追いつく」


アオイは、マニュアルを閉じた。


表紙の「暫定」の文字が、昨日より重く見えた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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