第18話 判断は再現できません
「……これ、成功率下がってません?」
アオイは、週次レポートを見ながら言った。
「下がってはいない」
カンザキは即答した。
画面には、折れ線グラフが表示されている。
処理成功率:99.8% → 99.8%
対応時間:短縮
クレーム件数:減少
「……同じ、ですね」
「はい」
「でも」
アオイは、別の資料を開く。
例外対応件数:
今週:3
先週:11
「減ってます」
「減らしました」
「……減らした?」
「再現性が低いためです」
カンザキは淡々と言う。
対応室。
今日は少し、静かだった。
「次の方」
詠唱。
光。
音。
空気。
「……成功です」
使用者は、首を傾げていた。
「……前より、早いですね」
「はい」
アオイは頷く。
「判断工程を省略しています」
「判断……?」
「その場の対応です」
「……それ、必要ないんですか」
アオイは、答えに詰まった。
横から、カンザキが言う。
「再現できませんので」
「……再現?」
「同じ条件でも、
同じ判断が出るとは限りません」
「……はい」
「それは、制度上扱えません」
「じゃあ」
使用者が言う。
「前の担当の人が、
言ってくれたことは……?」
「記録にありません」
カンザキは言った。
「ですので、存在しません」
使用者は、何か言いかけて、やめた。
「……分かりました」
使用者が去ったあと。
シラベが、ぽつりと言った。
「ねえ」
「はい」
「私さ」
少し考えて。
「最近、呼ばれない」
「呼ばれない?」
「例外の時」
「……あ」
アオイは、気づいた。
「勘が合うかどうか」
シラベは、笑って言う。
「分からないでしょ」
「……でも」
アオイは言う。
「前は、助かってました」
「前はね」
シラベは、軽く肩をすくめた。
「でも、再現できない」
事務室。
クロガネが、古いファイルを引っ張り出していた。
「……これ」
アオイは覗き込む。
「何ですか」
「昔の判断ログだ」
紙の束。
手書きのメモ。
“この時は、待った方がいい”
“理由は分からないが、嫌な感じがする”
“今日はやめた”
「……これ」
アオイは息を呑む。
「全部、理由が書いてない」
「そうだ」
クロガネは言う。
「だから、今は使えない」
「でも」
アオイは声を落とす。
「全部、当たってます」
「当たってるな」
クロガネは頷く。
「だから危険だ」
「……え?」
「再現できない正解はな」
クロガネは、ファイルを閉じた。
「信じるしかない」
午後。
新しい通達が来た。
運用方針更新
「属人的判断は、例外として扱わない」
「……扱わない?」
アオイは呟く。
「無かったことにします」
カンザキが言う。
「処理対象外です」
「……でも」
アオイは、絞り出すように言った。
「それが、唯一助かる時も……」
「再現できません」
カンザキは、繰り返す。
「制度では、扱えません」
シラベが、少しだけ笑った。
「ね」
「……」
「私、制度向きじゃなかった」
アオイは、返事ができなかった。
その日の最後。
アオイは、個人メモを開いた。
・再現できない判断は排除される
・当たっていても、残らない
・“信じる”は、制度にできない
クロガネが、電気を消しながら言った。
「アオイ」
「はい」
「正解ってのはな」
「……」
「残せない時点で、消える」
廊下を出る直前。
アオイは、振り返った。
シラベは、いつもと同じ場所にいた。
でも、
呼ばれることのない席だった。
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