第14話 記録が追いついていません
「……これ」
アオイは、端末を二度見した。
「同じ案件、二つあります」
「あるな」
クロガネ課長は、特に驚かない。
画面には、ほぼ同じ内容の記録が並んでいた。
・使用者:一般市民
・使用目的:不安の解消
・使用結果:成功
・異常:なし
・使用者:一般市民
・使用目的:不安の解消
・使用結果:成功
・異常:なし
「……これ」
アオイは指でなぞる。
「完全に一致してます」
「じゃあ、問題ないな」
「問題ありますよ!」
「違うのは」
シラベが覗き込む。
「時刻だけ?」
「はい」
アオイは拡大する。
「一分、ずれてます」
「同時刻処理だな」
クロガネが言う。
「最近、よくある」
「よくあるんですか!?」
「ある」
カンザキが資料を持って入ってきた。
「記録遅延です」
「遅延……?」
「処理が追いついていません」
「じゃあ」
アオイは聞く。
「どっちが正しいんですか」
「両方です」
カンザキは即答した。
「……両方?」
「処理上、矛盾はありません」
「でも」
アオイは画面を見比べる。
「一人の人ですよ?」
「記録は、事実です」
カンザキは淡々と言う。
「事実が二つある場合もあります」
対応室に、使用者が戻ってきた。
「あの……」
「はい」
「さっき、終わりましたよね?」
「はい」
「でも」
使用者は不安そうに言う。
「もう一回、呼ばれました」
室内が静まる。
「……呼ばれた?」
「端末に通知が来て」
「二回目、です」
アオイは、息を呑んだ。
「……二つの記録」
「二つの通知」
「二回の使用……?」
「使用しましたか?」
アオイが聞く。
「……はい」
使用者は戸惑いながら答えた。
「同じことを」
「感覚は?」
「同じでした」
「違いは?」
「分かりません」
シラベが言う。
「じゃあ、同じだね」
「同じ……?」
「本人が同じなら」
アオイは、震える指で記録を見る。
二つとも、成功。
異常なし。
「……統合、します?」
カンザキが頷いた。
「最新版に合わせて」
「最新版って……」
「後の方です」
「後の方が正しいんですか」
「新しいので」
「……古い方は?」
「無効になります」
確定処理。
画面から、一つの記録が消えた。
「……消えました」
「統合完了です」
その瞬間。
使用者が、首を傾げた。
「あれ……」
「どうしました?」
「……二回目のこと」
少し考えて。
「思い出せません」
室内が、静かになる。
「……記録が無くなったから」
アオイが呟く。
「無かったことに……」
「正確には」
カンザキが訂正する。
「不要な記録が整理された」
午後。
別の案件。
今度は、三つだった。
「……三つ?」
「増えたな」
クロガネが言う。
同一内容、三件。
時刻が、微妙に違う。
「……どれを残すんですか」
「最新版です」
統合。
二つ消える。
使用者は、何も気づかない。
アオイは、個人メモを開いた。
・記録が事実を作っている
・統合=削除
・消えた方は、思い出せない
「……課長」
アオイは、低い声で聞く。
「これ」
「ん?」
「正しいこと、やってますか」
クロガネは、しばらく考えた。
「……間違ってはいない」
「でも」
「全部を残せないだけだ」
その日の終わり。
端末に通知が届く。
改訂通知
第6.3版
記録管理
「重複記録は統合対象とする」
アオイは、画面を見つめた。
「……重複」
何が、重複なのか。
誰が、重複なのか。
廊下で、シラベが言った。
「ねえアオイ」
「はい」
「これさ」
軽い口調で。
「私たちも、重複してない?」
アオイは、笑えなかった。
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