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禁忌魔術、マニュアル化されました ―あなたの問題は、仕様外です―  作者: 青谷 静


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第12話 最新版を使用してください

「……これで、一区切りですね」


アオイは、事務室の端末を見ながら言った。


「区切りだな」


クロガネ課長は頷いた。


「“今の最新版”までは」


端末の画面には、大きく表示されている。


禁忌魔術運用マニュアル

第6.0版(最新版)


「……6.0」


アオイは呟いた。


「もう、区切りって感じしませんね」


「区切りってのはな」


クロガネは言う。


「誰かがそう決めた時にだけある」


「……じゃあ」


「今は、決めてない」


その日の案件は、静かだった。


正確には、

“何も起きていないように見えた”。


対応室。


使用者は、落ち着いた表情をしている。


「特に問題はありませんでした」


「はい」


アオイは頷く。


「異常は?」


「ありません」


魔法陣は、淡く光っただけだった。


音も、小さい。


空気の変化も、ほとんどない。


「……成功ですね」


アオイが言う。


「概ね」


シラベが付け足す。


「記録を」


カンザキが促す。


アオイは、端末に入力する。


・使用結果:成功

・使用後異常:なし

・適用マニュアル:第6.0版


確定。


何も、起きなかった。


「……静かですね」


アオイが言う。


「いいことだ」


カンザキが言う。


「安定しています」


事務室に戻る途中。


廊下の壁に、アオイは目を留めた。


「……あれ」


壁の模様が、一部だけ微妙にずれている。


「昨日、こんなでしたっけ」


「昨日?」


シラベが首を傾げる。


「知らない」


「気のせいです」


カンザキが言う。


「記録にありません」


昼休み。


アオイは、個人メモを開いた。


・異常なし、が増えている

・でも、違和感は減っていない

・記録されないズレが残る


午後。


端末が鳴った。


通知

マニュアル確認依頼

「最新版を使用してください」


「……また?」


アオイは苦笑する。


「さっき確認しましたよね」


「最新版は更新されました」


カンザキが言う。


画面が切り替わる。


第6.1版

表紙文言変更

「最新版を使用してください」


「……中身は?」


「変更ありません」


「じゃあ、何が最新版なんですか」


アオイは思わず聞いた。


「最新版という状態です」


カンザキは真顔で言った。


その瞬間。


床の白い線が、少しだけ薄くなった。


「……消えかけてる?」


シラベが言う。


「直ったんじゃない?」


「直った、という記録はありません」


カンザキが言う。


「ですが」


「?」


「問題が解消された記録も、ありません」


アオイは、ふと気づいた。


「……あれ」


「何だ」


クロガネが聞く。


「軽微な異常って」


言葉を探す。


「……どこに行くんですか」


クロガネは、少しだけ笑った。


「どこにも行かねぇ」


「……」


「そこにあるまま、慣れられる」


夕方。


最後の案件が終わる。


アオイは、端末を閉じた。


「……今日、全部“問題なし”でしたね」


「そうだな」


クロガネが言う。


「いい日だ」


帰り際。


アオイは、対応室を振り返った。


白い線は、もうほとんど見えない。


だが、

無かったわけではない。


その夜。


最後の通知が届く。


改訂通知

第6.2版

備考

「現在、世界は安定しています」


アオイは、画面を見つめた。


「……世界、って」


誰の世界なのか、分からなかった。


個人メモ、最後の一行。


・最新版は、終わらない

・安定は、停止ではない

・これは、完了ではない


クロガネが、電気を消しながら言った。


「アオイ」


「はい」


「明日も来い」


「……はい」


廊下を出る直前。


アオイは、ふと立ち止まった。


壁の奥、

誰も触れていないはずの場所に。


何かが、ずっと“動かずにある”

そんな気がした。


最新版を使用してください。


その言葉だけが、

頭の中で、静かに繰り返されていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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