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禁忌魔術、マニュアル化されました ―あなたの問題は、仕様外です―  作者: 青谷 静


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第10話 軽微な異常です

「……これ」


アオイは、対応室の端末を見つめていた。


「軽微、ですよね」


「軽微だな」


クロガネ課長は即答した。


対応室の床には、白い線が一本走っていた。

定規で引いたように、真っ直ぐ。


「……床、割れてません?」


アオイが言う。


「割れてない」


シラベがしゃがみ込む。


「ずれてる」


「使用結果は?」


カンザキが聞く。


「成功です」


シラベが言った。


「光ったし、音もした」


「空気も?」


「たぶん」


アオイはマニュアルを確認する。


「第15条……使用後の異常」


読み上げる。


「軽度の時間ずれ。

記憶の順序の入れ替わり。

影の遅延……」


床の線を見る。


「……床の位置ズレは?」


「記載ありません」


カンザキが言う。


「では、軽微です」


「ちょっと待ってください」


アオイは声を上げた。


「床が……」


「生活に支障は?」


「今のところ……」


「では、軽微です」


使用者が、不安そうに聞いた。


「これ、元に戻りますか?」


クロガネが答える。


「戻る」


「……いつ?」


「記録次第だ」


アオイの手が止まる。


「……書くと?」


「固定される」


「書かなければ?」


「揺れる」


「……揺れてる方が、良くないですか?」


アオイが言う。


「不安定です」


カンザキが即答する。


「不安定は、危険です」


その時。


床の線が、少しだけ動いた。


「……今」


アオイが息を飲む。


「動いたよね?」


「見えた?」


シラベが聞く。


「……気のせいじゃない?」


「気のせいは」


カンザキが言う。


「記録対象外です」


アオイは、深呼吸した。


「……軽微な異常として、記録します」


入力する。


・使用後異常:軽微

 床の位置に微小なズレあり


確定。


その瞬間。


床の線が、完全に止まった。


「……固定、された」


シラベが呟く。


「成功ですね」


カンザキが言う。


「処理完了です」


使用者が帰ったあと。


アオイは、床を見つめたまま動けなかった。


「……あれ」


「ん?」


クロガネが近づく。


「元に戻らない、ですよね」


クロガネは、しばらく黙ってから言った。


「戻らないな」


「軽微、なのに」


「軽微だからだ」


「……え?」


「重大だったら、第16条だ」


「でも、第16条は……」


「発動しない」


事務室に戻る途中。


廊下の角で、アオイは立ち止まった。


「……課長」


「なんだ」


「軽微って」


言葉を探す。


「どこまでですか」


クロガネは、即答しなかった。


「……境目はな」


「はい」


「越えてから決まる」


その日の午後。


別の案件。


今度は、影だった。


人の影が、半拍遅れて動く。


「……影、遅れてます」


アオイが言う。


「第15条」


カンザキが言う。


「軽微です」


「……昨日より、多くないですか」


アオイが呟く。


「増えてます」


シラベが答える。


「確実に」


アオイは、個人メモを開く。


・軽微が積み重なっている

・戻らない軽微がある

・記録が世界を選別している


その時、端末に通知。


改訂通知

第5.1版

第15条(軽微な異常)

追記

「軽微とは、日常生活を継続できる範囲を指す」


「……日常生活」


アオイは、床の線を思い出した。


「これ、日常ですか……?」


背後で、シラベが言った。


「ねえアオイ」


「はい」


「それさ」


床を指さす。


「誰の日常?」


アオイは、答えられなかった。


その夜。


最後の通知。


改訂通知

第5.2版

備考

「軽微な異常が累積する場合でも、

個別には軽微と判断する」


アオイは、画面を閉じた。


個人メモ、追記。


・軽微は、合算されない

・世界は、少しずつ変わる

・誰も止めない


クロガネが、低く言った。


「アオイ」


「はい」


「覚えとけ」


床の線を一瞥して。


「世界はな、壊れる前に“慣れる”」


アオイは、その言葉が一番怖かった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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