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禁忌魔術、マニュアル化されました ―あなたの問題は、仕様外です―  作者: 青谷 静


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第9話 記録を残してください

「……これ」


アオイは、報告書の画面を見つめていた。


「誰が書いたか、分かります?」


「君だろ」


クロガネ課長が言う。


「ですよね……」


画面には、昨日の案件の記録が表示されている。


・使用結果:成功

・手順逸脱:なし

・現場判断:未使用


「……あれ?」


アオイは目をこすった。


「おかしいな……」


「何がだ」


「昨日、手順、省略しましたよね?」


「したな」


「現場判断、使いましたよね?」


「使ったな」


「……でも」


アオイは画面を指差す。


「全部、無かったことになってます」


シラベが覗き込む。


「へえ」


「へえ、じゃないですよ!」


「まあ、綺麗だね」


「綺麗って……」


「最新版に合わせて、

自動補正されたんだろ」


クロガネが言う。


「……自動?」


カンザキが資料を持って入ってきた。


「記録様式が更新されました」


「え?」


「現場判断の欄が、削除されています」


「……削除?」


アオイは慌ててマニュアルを確認する。


第5章 記録

・主観的判断は記載しないこと

・記録は事実のみとする


「……事実って」


アオイは呟く。


「誰の事実ですか」


「制度の事実です」


カンザキは即答した。


「個人の感覚は、記録に残りません」


その時、対応室から声がした。


「すみません……」


新しい案件だった。


対応室。


今回の使用者は、落ち着いた中年男性だった。


「記録が残ると聞きまして」


「……はい」


アオイは答える。


「残ります」


「では、お願いします」


使用が始まる。


詠唱は正確だった。


手順も完璧。


感情のブレもない。


魔法陣が光る。


音が鳴る。


空気が……少しだけ、歪んだ。


「……今」


アオイは息を飲む。


「影が……」


「記録してください」


カンザキが言う。


「え?」


「異常があれば」


アオイは迷った。


確かに、影が遅れた気がした。


でも。


「……」


マニュアルを思い出す。


主観的判断は記載しないこと


「……異常、なし」


アオイは、そう書いた。


その瞬間。


影は、完全に元に戻った。


「……あ」


アオイは、息を止めた。


「成功ですね」


カンザキが言う。


「記録上は」


使用者が帰ったあと。


アオイは、震える声で言った。


「……今」


「ん?」


「書かなかったら、戻りました」


シラベは、少し考えてから言った。


「つまり」


「記録しなかったことは、

起きなかったことになる?」


クロガネが、低く言う。


「そうなり始めてる」


その日の午後。


別の案件。


今回は、明らかにズレが大きかった。


時間表示が、一瞬だけ巻き戻る。


「……これは」


アオイはペンを握る。


「書くべき、ですよね」


「記録を」


カンザキが促す。


「正確に」


アオイは、深呼吸した。


・軽微な異常あり

 時間表示の一時的逆行


書き終えた瞬間。


部屋の時計が、止まった。


「……え?」


誰かが声を上げる。


数秒後、動き出す。


「……戻りました」


シラベが言う。


「……今度は」


アオイは呟いた。


「書いたから、起きた」


事務室に戻る。


アオイは、自分のメモ帳を見た。


・記録しない → 起きなかったことになる

・記録する → 現実が固定される?


「アオイ」


クロガネが声をかける。


「全部書くな」


「……え?」


「選べ」


「何を、ですか」


クロガネは、まっすぐ言った。


「どの現実を残すか」


その夜。


端末に通知が届く。


改訂通知

第5.0版

第5章 記録

「記録は、世界の整合性を保つために行う」


アオイは、画面を閉じた。


個人メモ、最後の一行。


・記録は、観測

・観測は、固定

・私は、どこまで書くべきか


シラベが、軽く言った。


「ねえアオイ」


「はい」


「それ」


笑いながら。


「もう、神様の仕事じゃない?」


アオイは、否定できなかった。

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