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女神に転生させられた43歳おじさん、まず労働条件を確認します  作者: Y.K
第二章

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16/16

ユウト、正式業務開始(なお仕事)

ユウトは、朝から元気だった。


「おはようございます!

 本日も全力で頑張ります!」


 姿勢、九十度。

 声、無駄にでかい。


 アリシアが、

 少し引きながら頷く。


「え、えっと……

 では……こちらを……」


 差し出されたのは、

 分厚い冊子だった。


 表紙。


《勇者業務マニュアル(簡易版)》


「……かんい……?」


 厚さ、

 簡易じゃない。


「こ、これを……

 全部……?」


「は、はい……

 “まずは目を通すこと”

 と……」


 ユウトは、

 真剣な顔で頷いた。


「分かりました!

 完璧に覚えます!」


 安西が、

 横から一言。


「やめてください」


「え?」


「全部守ると、

 誰か死にます」


 ユウトは、

 固まった。



現場


 魔物は、

 もう目の前にいる。


 ユウトは、

 剣を構え――


「……あっ」


 止まった。


「……戦闘前チェック……」


 マニュアルを開く。


「えっと……

 ①装備確認

 ②周囲安全確認

 ③上長確認……」


 魔物が、

 一歩近づく。


「……上長……?」


 きょろきょろ。


「……安西さん!

 確認お願いします!」


 安西は、

 即答した。


「しません」


「えっ!?」


「あなたの仕事です」


 魔物が、

 もう一歩近づく。


「で、でも……

 手順が……」


「手順は

 あなたを守りません」


 ユウト、

 一瞬迷い――


「……ええい!」


 斬った。


 魔物、倒れる。


 静寂。


「……や、やりました……」


 震える手。



事後処理


「次は……

 報告書……」


 ユウトは、

 マニュアルを開く。


「……“戦闘後30分以内に

 詳細報告”……」


「今すぐですか?」


 アリシアが、

 不安そうに聞く。


「は、はい……!」


 ユウト、

 地面に座って書き始める。


「敵の数……一……

 天候……晴れ……

 心境……えっと……」


 仲間が、

 困った顔で言う。


「……ユウト……

 次の敵……」


「……30分以内なので……!」


 安西が、

 後ろから言った。


「後回しにしてください」


「えっ!?」


「書くのは

 生きてからです」


 ユウト、

 顔を上げる。


「……!」



クライマックス


 二戦目。


 今度は、

 判断が早かった。


 マニュアルを閉じ、

 即断。


 勝利。


 戻ってきて、

 深呼吸。


「……あの……

 判断者名……」


 ペンを握る。


 手が、

 少し震えている。


「……僕で……

 いいんですよね……」


 安西は、

 静かに言った。


「いいえ」


 ユウト、

 息を呑む。


「“あなたが決めた”

 から、

 あなたが書くんです」


 数秒の沈黙。


 そして――


「……はい……」


 判断者名:ユウト


 書いた瞬間、

 肩の力が抜けた。


「……怖かったです……」


「でしょうね」


 安西は、

 少しだけ優しく言う。


「それが、

 仕事です」



 その夜。


 アリシアが、

 マニュアルに

 赤字で書き足していた。


※重要

マニュアルは

“参考”であり、

命令ではない


 安西が、

 横目で見る。


「それ、

 誰が書いたんです?」


「……わ、私です……」


「名前は?」


「……アリシア……」


 安西は、

 小さく頷いた。


「いい一歩です」


 アリシア、

 泣きそうな顔で笑った。

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