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女神に転生させられた43歳おじさん、まず労働条件を確認します  作者: Y.K
第二章

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14/16

誰が見るんですか

混乱は、

 静かに始まった。


 誰も怒鳴らない。

 誰も走らない。


 ただ、

 全員が同じ顔をしていた。


「……で……

 誰が……

 見てるんだ……?」


 会議室に、

 沈黙が落ちる。


 議題は一つ。


 “安西が見ていなかった問題”。


「……いや……

 今までは……」


「……見てると……

 思って……」


「……確認済みって……」


 言葉が、

 宙を漂う。


 誰も、

 「自分が見る」とは

 言わない。


 そこへ。


「し、失礼します……!」


 勢いよく、

 扉が開いた。


 白い服。

 金髪。

 明らかに場違い。


「転生管理局・第3課の

 アリシアです!」


 全員が、

 一斉に彼女を見る。


「……誰……?」


「……新人……?」


「……なんで……

 ここに……?」


 アリシアは、

 慌ててマニュアルを開いた。


「えっと……

 “監督責任の所在が

 不明確な場合……”」


 紙をめくる。


「……“現場確認を

 強化する”……」


 顔を上げる。


「つまり!」


 少し胸を張る。


「誰かが

 ちゃんと見れば

 いいんです!」


 沈黙。


 数秒後。


「……誰が……?」


 全員が、

 同時に言った。


 アリシアが、

 固まる。


「……え……?」


「……誰が……

 見るんですか……?」


 会議室の空気が、

 一段階、

 冷えた。


 その時。


「……私じゃないです」


 静かな声。


 安西だった。


 全員が、

 振り返る。


「……安西さん……」


「……いや……

 今までは……」


 安西は、

 淡々と言う。


「私は

 “見ていない”と

 宣言しました」


「……」


「見ていない人間を

 “見る役”に

 戻すのは

 矛盾です」


 正論だった。


 アリシアが、

 慌ててマニュアルを

 めくる。


「え、えっと……

 “責任者が不在の場合……”」


 紙をめくる。

 めくる。

 止まる。


「……あ……」


「……何……?」


「……“上長が

 代理を立てる”……」


 全員が、

 一斉に上を見る。


 上長は、

 視線を逸らした。


「……代理……

 ですか……」


 誰も、

 名乗らない。


 その沈黙を、

 安西が切る。


「提案があります」


 全員が、

 一斉に希望の目を向ける。


「“見る”という

 行為を

 やめましょう」


「……え?」


「……どういう……?」


「“見る”から

 “残す”に

 変えます」


 ホワイトボードに、

 一行書く。


 《判断者名を

 必ず記載》


「誰が見たか、

 じゃない」


「誰が

 決めたかを

 書くだけです」


 静寂。


 数秒後。


「……それ……」


「……めちゃくちゃ……」


「……普通……」


 アリシアが、

 ぽつりと言う。


「……それ……

 マニュアルに

 書いてないです……」


 安西は、

 即答した。


「だから

 必要なんです」


 会議室に、

 変な笑いが漏れた。


 笑えないのに、

 笑ってしまうやつだ。


最初に止まったのは、

 現場だった。


作戦実行報告

判断者名:____


「……空欄……?」


 ミレイアが、

 端末を見て声を上げる。


「ええ」


 安西は、

 淡々と答える。


「書き忘れではありません」


 数分後、

 訂正が来た。


作戦実行報告

判断者名:現地判断


「……現地……

 って……」


「人の名前では

 ありません」


 即、差し戻し。


判断者名は

個人名を

記載してください


 返答は、

 早かった。


指揮官A

ただし

上層承認前提


「……前提……」


「逃げ道です」


 さらに差し戻す。


前提条件は

判断者名に

含めないでください


 数分の沈黙。


 そして、

 別の案。


判断者名:

A・B・C(協議)


「……三人……」


「薄めに来ました」


 安西は、

 小さく頷く。


「典型的です」


 差し戻し。


最終判断者を

一名

記載してください


 現場が、

 完全に止まった。


「……返って……

 来ません……」


「ええ」


 安西は、

 落ち着いて言う。


「今、

 誰も決めたくない」


 管理局側も、

 同じだった。


判断者名:

管理局確認済


「……管理局……

 誰……?」


「誰でもありません」


 差し戻し。


 しばらくして、

 苦肉の策。


判断者名:

暫定担当


「……暫定……」


「便利な言葉です」


 安西は、

 端末を閉じる。


「意味が

 ありません」


 アリシアが、

 涙目でマニュアルを

 抱えていた。


「……そんな……

 名前を書くなんて……

 想定してなくて……」


「想定していないから、

 今やっています」


 安西は、

 真顔で言う。


「想定していないことが

 一番危ない」


 数十分後。


 ようやく、

 一件だけ

 名前が入った。


判断者名:

第三部隊長 ロベルト


「……書いた……」


 ミレイアが、

 小さく拍手する。


 数秒後。


※追記

本判断は

現場状況を

総合的に勘案した結果であり

管理局の最終承認を

前提とする


「……戻した……」


「戻しましたね」


 安西は、

 頷いた。


「でも」


 一拍。


「最初に

 名前を書いた」


 それが、

 今回の進歩だった。


 会議室。


「……名前……

 書かせるだけで……

 こんなに……」


 誰かが、

 呟く。


 安西は、

 静かに答えた。


「責任は、

 取らせるものじゃない」


「……?」


「自分で

 書かせるものです」


 いったんは、

 ここで終わる。


 世界は救われない。

 だが。


 書類の空欄が、

 一つ減った。


第三部隊長、ロベルトは――

 その日、眠れなかった。


「……名前……

 書いちゃった……」


 天井を見つめながら、

 同じ言葉を三回考えた。


 書類の空欄。

 判断者名。


 そこに、

 自分の名前があった。


「……別に……

 間違った判断じゃ……

 ない……よな……?」


 正しい。

 理屈は合っている。


 だが、

 胸が落ち着かない。


 翌朝。


「……部隊長……

 おはようございます……」


 部下の声が、

 いつもより丁寧に聞こえる。


「……ああ……

 おはよう……」


 視線が、

 妙に集まる。


「……な、

 なんだ……?」


「……いえ……

 その……」


 部下が、

 気まずそうに言う。


「……昨日の……

 判断……

 部隊長が……

 したって……」


 ロベルトは、

 固まった。


「……あ、

 ああ……」


「……責任……

 大丈夫なんですか……?」


「……大丈夫……

 だと思う……」


 言い切れなかった。


 昼。


 食堂。


「……ロベルト……

 昨日の……

 判断……」


 同僚が、

 箸を止める。


「……勇気あるよな……」


「……いや……

 勇気じゃ……」


「……俺だったら……

 書けない……」


 その一言が、

 一番刺さった。


 午後。


 管理局からの、

 形式的な通知。


判断内容を

確認しました

現時点で

問題はありません


「……現時点……」


 小さく呟く。


 だが、

 その下に、

 一行あった。


今後も

同様の形式で

記録してください


 ロベルトは、

 深く息を吐いた。


「……毎回……

 書くのか……」


 夕方。


 部下が、

 恐る恐る聞く。


「……次も……

 部隊長が……?」


 ロベルトは、

 一瞬考えた。


 そして、

 首を振る。


「……違う……」


 ホワイトボードに、

 ペンで書く。


 次回判断者:

 現場会議で決定


「……会議……?」


「……全員で……

 決める……」


 部下たちが、

 顔を見合わせる。


「……でも……

 名前……」


「……決めたら……

 誰かが……

 書く……」


 沈黙。


 だが、

 逃げなかった。


 その夜。


 ロベルトは、

 少しだけ

 眠れた。


 遠く離れた管理局で、

 ミレイアが

 ログを見て言う。


「……ロベルトさん……

 普通の人ですね……」


「ええ」


 安西は、

 静かに答えた。


「だから

 書けたんです」


「……英雄じゃ……

 ないですね……」


「ええ」


 少しだけ、

 優しい声で。


「英雄じゃない人が

 決める仕組みに

 戻ってきただけです」


 第十四話は、

 ここで終わる。


 誰も世界を救っていない。

 だが、

 一人の名前が、

 空欄を埋めた。


 それだけで、

 少しだけ、

 世界はマシになった。

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