八輪目「僕は患っていない」
痛い――。熱い――。
え、なに? 何!? 何が起きたの!?
体が、目が、両目が、尋常なく痛い!!!!
ゴブリンの奇襲? 特殊スキル!? 変異体!?
三階層でッッ!??
そんなのメアリお姉さんから聞いたことなイ……イタァ~~~~イッ――――。
「サラ!!」
「もう終わったよー」
「よし。ほかは周囲を警戒――。で、どうしたオア!?」
「目が……目があぁぁぁぁぁぁぁ~~~~っっっっ」
痛い。熱い。抉られたような痛みだ。
抉られたことなんてないけど!!
「……うちの花精霊様みたいに患っているわけじゃないよな?」
「違います!!」
口から空気を漏らす「ぷっ」や「ぷぷっ」が聞こえるなか、僕は首をぶんぶんと横に振る。
「だな。オアがモンスターを前にして、そんなおふざけはしない、か……」
「団長! なんかちょっとやばい感じがする! 下から嫌な感じがビンビン!」
「ああ、俺もだ――。帰還する! おそらくオアの両目に花紋が刻まれた。俺が後ろに付く。シアンはオアをおぶれ。巻き込まれている冒険者がいるかもしれない。足の速いサラは先行してギルドへ伝達。他はシアンとオアを中心に位置して、周囲を警戒。オアを地上へ届けたら、シアンとサラは俺とダンジョンに戻って調査だ。以上!」
「「「「「――はい!」」」」」
僕が情けなく両目を押さえ蹲っている間に、次々と指示を出したジョンさん。
僕もいつか、こんな立派な冒険者に……あ~……もう痛い。
セフィさんはあの時こんな激痛に耐えていたのか。
さすが三年でレベル3にもなる人は違う。
夜な夜な「耐えられる僕格好良い――キラッ」とかとか、想像していたけど無理だ。
むり、ムリ、無理。人が耐えられる痛みじゃない。
僕にはきつい。
ダンジョン怖い。目が見えないって恐ろしい。
(早く帰りたいッッ!!!!)
いっそのこと気絶したい。
懸命に走るシアンさんの背で情けないことを考えていると、フワリと爽やかな風が頬を撫でる。
それに、
「なんか懐かしい匂い……?」
「おあっ!?」
「はい? ブ、フェッ――!」
痛い。急に立ち止まったシアンさんの後頭部に思い切り鼻をぶつけた。
でも、おかげで目の痛みを一瞬忘れることができたぞ。
「悪い――。平気か、オア?」
「はい。それよりどうしたんですか?」
「突然【奇跡の花姫】が目の前に現れた。と思ったら一瞬で姿を消したから驚いただけだ」
セフィさんが?
十五階層で出現する上層最強ネームドモンスターを単独で撃破した時に二つ名【奇跡の花姫】を得て以降、瞬く間に時の人となり会いたくてもおいそれと会えなくなったし、僕も会いたかったな。
「なんだか……」
「はい?」
「オアを見ていた気がするけど……」
そうなの? 見られたの? 今の僕ってかなり情けなくない?
「ま、気のせいだろう。それより、あと少しで地上だ」
気のせいであってほしい。
そう願いつつ、襲ってきた激痛の波に奥歯を噛みしめる。
「は、はひ……」
声を出すだけで辛い。
「俺は耳だったけど……刻まれるってだけあって痛いよな」
「……すみません、危険な目に、付き合わせて……しまって――」
「気にするな。先輩冒険者ってのは、雛鳥を守り導くものだ。その代わり、いつかオアが導く側になった時にでも雛鳥を守ってやってくれ」
「シアンさん……」
「にしてもオア……目が、目がって……相変わらずわず……おっと。これは禁句。温かく見守ろうって決まりだったな」
「シアン……さん……」
「なんだ、とにかくおめでとうオア」
「あ、ありがとうございましゅ……」
冒険者になれる。それは凄く嬉しい。幼い頃からの夢だったから。
これで【オダマキ・フラトリア】のみんなやセフィさんとも冒険ができる。でも。
「僕……患っていないですから……ね?」
「…………」
普段はおしゃべりでいつも明るいシアンさんが、僕を無視したことなど一度もない。
どんな些細なことでも拾い話題を広げてくれる心優しい犬人族の冒険者。
それなのに今は無言だ。
「オア、お出迎えだ――」
「オア君!!」
この、僕を心配する声。安心を覚える聞き慣れた声。
メアリお姉さんに出迎えられた事で、無事に(?)地上へ帰還したと分かった。
四階層の調査もあるだろうけど、【オダマキ・フラトリア】のみんなも無事に帰還。
先ずはこれで一安心だ。
あとは、痛みが治まったらみんなにお礼を伝えて、花紋を確かめて、花精霊様にご挨拶して、冒険者登録をする。
うん、流れはばっちりだ。
けど僕って厨二病なのかな?
患っているの? どうなの?
メアリお姉さんや【オダマキ・フラトリア】のみんなに聞きたいけど、もしも温かな目を向けられたらと思うと怖くて聞けない。
うん、封印だ。これ決定。
ふぅ~~~~いんッッッ!!




