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不条理と片足ニーソと花精霊記  作者: 山吹祥
第二話『僕は患っていない?』

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七輪目「二度目のダンジョン進攻」

【オダマキ・フラトリア】

 ヒューマンの男性ジョン・ブレイクさんを団長に、

 その他の団員は冒険者が五人とサポーターが二人。

 種族はヒューマンと獣人族で、計八人で構成されている。


 小規模な【フラトリア】ながらも堅実な活動や実績が認められ、冒険者ギルドから優良【フラトリア】と認定されている。


 実際ジョンさん含めて気さくな人ばかりで、この三年間すごくお世話になっており、今も最後となるかもしれない僕のダンジョン進攻アタックに全団員が付き添ってくれている。


「――オア。おい、オア? 三階層でゴブリンしか出ないからってボケっとすんな。何度も言うが、ダンジョンでは余計なことに頭を使わない。これは鉄則だ」


 浅い階層でも油断したことで地上へ帰れなかった冒険者は何人もいる。

 ジョンさん、そしてメアリお姉さんから何度も聞いた。

 それなのに気を抜いたから、これまで見た事ない厳しい顔付きをジョンさんは僕へ向けた。


「はい、そうでした。ありがとうございます!」


 ジョンさんは満足そうに頷いた。それから、


「今回の冒険をきっかけに、花紋かもん刻まれるといいな」

 そう少し寂し気に笑った。


 もしかしたらこれで最後の冒険となるかもしれない。

 憧れた不条理、冒険者になる夢は潰えるかもしれない。


 けれど、例えこれで最後になろうと、お世話になった【オダマキ・フラトリア】の人たちと冒険できたことは単純に嬉しい。


「いずれにせよ、ジョンさんや皆さんとダンジョンへ潜れたことは、僕だけの冒険譚となりました。ですから、ありがとうございます!!」


 ジョンさんはニッと歯を見せ、冒険で鍛え上げた逞しい腕を僕の肩へズシリと乗せた。


「俺もオアと冒険できて嬉しいぞ!!」


「んぐっ!?!」


 多くのモンスターを屠ってきた腕が、僕の首へ蔓のように巻き付き圧迫する。


(く、くるしい――!)


「うへぇー、素直なオアが言うと可愛いけど、団長が言うと嘘臭いしなんかゾワァッとした~」


 そこに同じ【フラトリア】に所属する団員、猫人族のサラさんがイタズラな笑顔をジョンさんへ向け近付く。


 ゆらゆらと揺れる綺麗な青鈍色の尻尾が、僕の意識を彼方まで誘おうとするが、


「――ぶ、ハァッッ」


 サラさんに気を取られたジョンさんが僕を解放したことで、大量の空気が僕の意識を繋ぎ止めた。


「言ったなクソガキッッ!!!!」


「キャー、助けてオア~!!」


 思わず耳を押さえたくなる甲高い声が合図となり、追い掛けっこが始まる。


 レベル2のジョンさんと、レベル2間近で将来有望なサラさんの立派な冒険者二人がグルグルと、喘ぐ僕の周りで疾走する。


 僕の視力では追い切れない速さが巻き起こす塵風が、僕の頬を殴る。


 犬人族の双子がケンカする姿は見ていて微笑ましくなるけど、子供みたいにケンカする目の前の二人はまるでかわいくない。


 正直恐い。


 というか、少しでも接触したら僕の体が木端微塵となりそうで恐怖している。


(だ、誰かっ!!)


 助けを求め視線を向けた先で、周囲の警戒を続けてくれている副団長、こげ茶色が特徴でレベル2の犬人族のシアンさんと目が合う。


「……はあ。団長、サラ、それにお前らも――。揃いもそろって気を抜き過ぎだ。浅い層だからといってもここは何が起こるか分からない未知のダンジョンだ。オアの手本となるべき俺たちが、注意を促した傍から醜態を晒してどうする」


 しっかり者のシアンさんによる一喝で収まる塵風。


 空気を読んでか読めなかったか分からないけど、

 一体のゴブリンが『ギギャッ?』とひょっこり顔を出す。


「あ……あー! シアンの方にゴブリンだよ~!」


「今晩のメシは野菜倍量だからな――っと」


「え~そんなぁ~!! 最近ただでさえマシマシで多いのにっ!!」


 会話の合間、片手間に振るわれた一振りで瞬殺された憐れなゴブリンは、斬られた箇所から色味が失せ始めポロポロと崩れていき、最後は死体も残さず灰となった。


 シアンさんは喚くサラさんの相手を止め、灰に埋もれる『魔種』の欠片を拾い、団員へ「頼んだ」と手渡す。


 今回の欠片の大きさも、成人済みのヒューマンの小指の第一関節程くらいのようだ。

 一から三階層で得られる魔種は欠片がほとんどで、欠けのない『魔種』が落ちることは滅多にないと聞いているから驚きや落胆はない。


 魔種は花精霊様が浄化することで種石となり、種石は明かりを灯すランプや温度や空気を整える空調設備、様々な種石製品の原動力として宛がわられる。


 種石は使用している内に消耗するし、リーエン以外の郊外へ輸出もしており、どれだけあっても困らない。

 というか、不足しているとメアリお姉さんが言っていた。


 だからこの小さな欠片でもギルドで換金できるけど、よくて小芋一個分にしかならないらしい。


 そのためダンジョン攻略・制覇を目的とする探索系【フラトリア】の【オダマキ・フラトリア】にとっては、この階層で得られる魔種では生活費にもならない。


 三年前にお世話になった【カルミア・フラトリア】は、団員数だけで見れば【オダマキ・フラトリア】と同規模のため、団長のキールさんがさらに潜ろうと言った気持ちも分からなくもない。


 僕は当時を思い出し、四階層へ繋がる階段へ目を向けた。


(――この先を進んだ五階層で、僕はセフィさんと冒険したんだよな)


「ダメだよぉ、オア」

 途端にサラさんから注意された。


「もちろんです。僕のわがままで、フラトリアの信用に傷なんて付けたくないですし」


「そうそう――。私たちは、元はならず者の集まりだけど今は真面目でしっかり者で通っていて、ギルド公認のフラトリアだから規則を破ったりしないんだよ~? 下に行くのはオアが冒険者になってからだからね~」


 僕みたいな冒険者ギルドの教育制度を利用する者を受け入れる【フラトリア】は、冒険者ギルド独自の調査方法で、活動実績や評判が認められ信用された【フラトリア】のみが請け負える。


 冒険者ギルドから【フラトリア】へ手当ては支給されるけど、普通に冒険した方が稼げるくらいの微々たるものらしい。


 それこそ十五階層に出現する上層最強ネームドモンスターを倒し、中層となる十六階層にも潜れる人達なのだから、僕の面倒を見ることなんて慈善活動にも等しいだろう。


 それなのに嫌な顔一つと見せず、僕が潜れる最期の機会かもしれないということで【オダマキ・フラトリア】は全員が付いて来てくれた。


「サラさん、皆さん、今日は本当にありがとうございます!」


「ほんといい子だねー、オアがうちのフラトリアに入ってくれたら私も嬉しいのにな~」


 僕の前に移動してきたサラさんは青鈍色の尻尾を巧みに操り、僕の心臓の辺りをツンとつつき、上目遣い気味な視線を向けてくる。


「っ!?」


 サラさんはまたまた場所を移す。

 僕の隣だ。

 そのまま首をコテンと傾け、小さな頭を僕の肩に乗せた。


「ね、オア? もしもダメだった時は、私に雇わたりしない~? 私、オアとずっと一緒にいたいな。オアがいないとダメだと思うの。私って~?」


「サ、サササササラさん!??」


 サラさんは僕と同じ十五で、まだまだ仕草や表情もあどけない。

 けれど、僕と違って十歳で花紋が刻まれ、現在はレベル2間近と言われていて将来を期待される立派な冒険者でもあるから、僕を雇えるだけの力もあるのだろう。


 こ、こんなに可愛い人になら雇われるのも……いやダメだ!!

 ダメダメ!!

 僕はかっこよくて凛々しい不条理な冒険者になるんだ!!


 まだ諦めたわけじゃない!!


「サラ、お前はオアに雑用を押し付けたいだけだろ!」


 あ、うん。

 ジョンさんの言った通り、実のところそんな気がしていた。


 サラさん、片付けても片付けてもすぐに「ニャハハ~」って、部屋を散らかすし。


「団長ひどいなー。私は純粋に、オアをかわいいなーって思っているだけだよ~?」


「嘘を付け! あと敬語を使え、団長を敬え!」


 尻尾の色と同じ青鈍色の髪を、乱暴にわしゃわしゃとされたサラさんは「ひどーい!」と、不満を訴えながらも、どこか嬉しそうにジョンさんへ抵抗する。


 そして他の団員はそれを見て和やかに笑い、警戒を怠らないシアンさんも僅かに口角を上げている。

 孤児の集まりである【オダマキ・フラトリア】は、団長のジョンさんを全員が実の親や兄のように慕っている。

 仲が良く、和気あいあいとしていて凄く――いい【フラトリア】だ。


 見ていると僕も彼らと本当の仲間となりたい。

 そんな思いが込み上げてくる。


(花紋、刻まれないかなぁ……)


 今すぐは避けたいけど、地上へ戻ってすぐに刻まれたらどれだけ嬉しいか。

 飛び跳ねて喜ぶ自信がある。


「おっし。名残惜しいがそろそろ時間だし戻る――」

『ギギャッ!』

「――ぞ、と思ったがゴブリンのお出ましだ」


 ジョンさんの言葉を遮り現れた一体のゴブリン。


「いよーしっ、団長に弄ばれた恨みを――」

 サラさんが気合い十分に二振りのナイフを両手に構えるが、


「ちょいちょいちょい、ちょい待てサラ!」


「む、なんでよー?」


「せっかくだ、オアにやらせよう」

 え、僕? 思わずジョンさんへ顔を向けると、


「んー、それなら仕方ないかぁ。オアに譲ってあげよー」

 サラさんはナイフを器用にくるくると回し収納する。


「オア、やれるか? 教えた通りにスコップを扱えば、ステイタスの無いオアでも一体くらいなら相手取れるはずだ。俺らが見てるから万が一もない。どうだ?」


 三年前に対峙した時は、ナイフ(スコップ)ではゴブリン一体をも倒せなかった。

 だから、正直言えば怖い。


(けど――)


 あの時に出会った女の子。

 セフィ・アークシュさんはたった三年でレベル3へと至った。


 花精霊記に載る英雄ですら、三年でレベル2だというのに。

 これまでにない異例。

 偉業を超える記録と言っても過言じゃない。


 僕が足踏みをしている間に、彼女はきっと何度も何度も冒険をしたのだろう。


 今、見守られながらゴブリン一体を倒したからといって何かが変わるかも分からない。

 でも、このまま終わるのは嫌だ。


 セフィさんと交わした約束を守りたい。

 僕は彼女と一緒に冒険がしたい。だから――


「――やります。やらせて下さい!」


「よし! よく言った。行ってこいッ!」


「そうそう、いっちゃえー! もしもの時は私がオアを守ってあげるからネ~」


 ジョンさん、サラさんへ向けて力強く頷き返す。そして。


「は……い…………い?」


 あれ、なんか……ホワアッッ~~~~!?



「……いいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~~~~~~っっ!?」



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