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不条理と片足ニーソと花精霊記  作者: 山吹祥
第二話『僕は患っていない?』

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六輪目「二十三の構えの極意」

 メアリお姉さんに癒され前を向いてからは、憧れていた冒険者を目指そうと決めた。

 でも、街を案内された時の僕はまさに御上りさんだった。


 どちらがお洒落な髭だと言い争い、あまつさえ殴り合うドワーフ。

 美しい髪。端正な顔立ち。エルフの麗人らが抱き合う美の饗宴。

 早食いや大食い、駆けっこと何かと競い合おうとする獣人。


 リーエンはそんな亜人や獣人、ヒューマンも含めてどこを見ても人、人、人!! で、溢れかえっていた。

 見慣れない高い建物。

 それよりも高く雲を突き破りてっぺんの見えない『花精霊樹フロランソス』。


 あの頃の僕の世界はおじいちゃんとおばあちゃんだけで、ヒューマンが三十人もいない小さな村へ時たま出掛け、挨拶を交わす人々しか知らなかったから、全てに対して驚きで一杯だった。


 道を覚えるまでも大変だったけど今では慣れたもので、賑わっている商業区の大通りを縫うように進んで行く。


 そして、額や背中に汗がにじみ出した頃。

 抜けた先の工業区から夏区カロケリへと入門する。


 到着した【オダマキ・フラトリア】の敷地に入り庭園へ向かうと、僕の顔よりも小さな体のオダマキ様が花壇の前で舞っていた。


 男性型の花精霊様なのに女性にも見間違う顔立ちで、鮮やかな紫色に染まる長髪と朱色の目と、首に巻く白いマフラーを巧みに操り様々なポーズを決めている。


 切りよくオダマキ様が静止したことを見計らい、前まで移動して元気に挨拶する。


「オダマキ様、おはようございます!」

 額に手を当て教わった姿勢を取る。


「ククククッ――。来たか、オア坊。中々見事な形だ」


「ありがとうございます! 今日もよろしくお願いします!」


「ククククッ――。よろしく頼むぞ、オア坊」


「はい!」


 キンポウゲ科。オダマキ属。紫や赤色の八重咲きの花が特徴。

 午前は日向。午後は風通しの良い日陰。水はけの良い土を好む。

 可憐に咲く花とは反対に、毒があるため要注意。

 とは言っても、多少触れたとしても被れたり爛れたりしない。

 強く握ったり口に含まなければ問題ないくらいの毒だ。


 僕が初めてのダンジョン探索から生還した時に、メアリお姉さんから紹介され、今日までお世話になっている【フラトリア】が【オダマキ・フラトリア】だ。


【オダマキ・フラトリア】の花壇や鉢には、連なる花々が咲き誇っている。

 これらは『花精霊樹フロランソス』から採れる無色の種をギルドから購入して、花精霊様が種に祈りを捧げ、それによって色の付いた種を植えることで連なる花が芽吹き成長する。


 僕はここで独特な個性を持つオダマギ様の話し相手や花々のお世話を、団長ジョン・ブレイクさんから仰せつかっている。


 報酬として、ジョンさんや他の団員達に時間がある時に戦闘訓練を施してもらえる。

 街のお手伝いや犬人族の彼との駆けっこ、そして【オダマキ・フラトリア】でのお仕事や訓練。

 これらがこの三年間の僕の日々だ。


「うん、今日も綺麗だ」


 花や葉、土を入念に確認。特に病気は見当たらない。

 あとは花それぞれに合わせて水や肥料、日当たりを調整して終わりだ。


「ククククッ――。オア坊は素直で真っすぐ、丁寧だから安心して任せられる」


 オダマキ様はシュバッと手を大きく広げ、顔の前に構えた。

 これは基本の姿勢だ。

 簡単なポーズなのに、指の隙間から覗くキリッとした目が凄く格好良い。


「大切な花々、【フラトリア】の象徴を任せてもらっているんですから当然です」


 それに街の花屋さんに卸す品種もあるのだから手は抜けない。


「ククククッ――。それが素直だとワレは言っているのだ」


 シュババッと両腕を頭上で組み、脇を見せる構え。

 真似しやすく簡単な姿勢なのに、オダマキ様がすると艶やかに見える。


「今日も格好いいです!」


「ククククッ――。オア坊は見る目があるな。これは曲げた膝の角度も重要なのだよ」


 なるほど、確かにそうだ。

 けど、脚の長いオダマキ様だからこそ似合う姿勢で、僕が真似てもただ体を解している人にしかならなさそうだ。


「ククククッ――。オア坊はこれからダンジョンだろ?」


「はい!」


「ククククッ――。ジョンはあと一刻もすれば準備を終えてホームへ戻る。それまで、ワレが誇る二十三の構えを伝授してやろう」


 オダマキ様が構えるポーズは独創的だ。

 空を舞えるオダマキ様だからこそできるポーズもあり、ヒューマンの僕が真似るには大変だ。

 けど断る事はしない。


 だって格好いいから。


「はい! お願いします!」


「ククククッ――。よろしい。ジョンや他の子らは恥ずかしがって付き合ってくれん。オア坊がワレに連なる花紋が刻まれる事を祈りつつ、伝授してやろう」


 シュバッ。シュババッ。ククククッ――。


 僕達は可憐に咲く花々の前でオダマキ流『オダマキ舞い二十三の構え』を演舞する。


 シュバッ。シュババッ。ククククッ――。


「ククククッ――。オア坊。ここだ、ここで目に力を籠め、かつ表情は涼しく、そして言うのだ!」


「ハイッ!!」

 来た、僕がオダマキ様に弟子入りした最大の理由。


 ゴブリンにすら呆れられた決死の雄叫び。あんな惨めな思いはもう嫌だ。

 今度はゴブリンを怯ませるくらいになりたい。


 怒りを力に。恐怖を勇気に。絶望へと立ち向かう為の魔法の言葉。

 そして勇気を奮い立たせるポーズ――――


 僕とオダマキ様は正面に向き合う。そして。


「ククククッ――。お前は僕を怒らせた!!」

「ククククッ――。お前はワレを怒らせた!!」


 足を広げる。どっしりと力強く立ち、前にビシッと指差し決めポーズ。


 ババーンッ。き、決まった~~~~~~。

 花精霊様の魂が籠もった【花精霊具シンボル】、オダマキ様が靡かせる白いマフラーがまた一段と格好良い。

 涼しくも熱い、気迫を帯びている。


 オダマキ様には当然敵わないけど、


「今までで一番格好良くできました!!!!」


「ククククッ――。オア坊よ、まだ半刻残っておる。もう一度じゃ、できるか?」


「はい! 大丈夫です! お願いします! し……師匠!」


「ククククッ――。よい。かわいい坊だ――」


 その後も繰り返す花精霊様とヒューマンの饗宴。


 シュバッ。シュババッ。ククククッ――。


 やっぱりちょっと大変だったし無理な姿勢もあったけど、ジョンさん達はどうして「無理!」と拒絶するのだろうか。


 一見面白く見える姿勢だけど、角度や構図が洗練されていてカッコよくお洒落なのに。


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