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不条理と片足ニーソと花精霊記  作者: 山吹祥
第二話『僕は患っていない?』

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五輪目「日課の駆けっこ」

 僕は『下界の楽園エデシア』が好きだ。


 凍てを解かす東風こちが吹くと、梅の香りが春を知らせてくれる。

 サクラやナノハナにジンチョウゲらの花が街景を彩る。


 春が過ぎると、炎帝夏陽が降り注ぐ中でも負けぬ生命力で、

 バラやアジサイにヒマワリらの花がいっそうと漲らせてくれる。


 暑さが弱まれば、秋光輝く花野が爽籟そうらいと共に、キクやコスモスにキンモクセイらの花の香りを楽しませてくれる。


 咲く花が減り街から色が抜け落ち、山々を眠らせたような枯花が寂しさを募らせる冬でも、

 月に照らされたツバキやロウバイにアネモネらの花が侘びしさ紛らわせてくれる。


 そんな四季折々の花木にその花の精霊や多種多様な人々が住まい、他を尊重し慈しみ育まれてできた、この美しい『下界の楽園エデシア』が好きだ。


 中でも、僕が今住んでいる花の都”リーエン”は、僕が育った綺麗な湖畔のあるレヒムと同じくらい好きだ。


 ここリーエンは【花精霊記】に記される始まりの街でもあり、千年前に怪物の王が世界へ反逆した場所でもある。


 花精霊様の女王クロリス様が中心となり、怪物の王とその契約花精霊を『破滅の地下牢獄リザドネリ』、今で言うダンジョンの奥深くへ追いやった。


 さらに蓋をするように『花精霊樹フロランソス』が植えられたが……

 それでも怪物の王に生み出されたモンスターが地上へ出現する。

 これに対抗するのに女王クロリス様の側近アヤメ科の花精霊アイリス様が、冒険者ギルドを設立し、若き花精霊や人々を育て始めた。


 長きに渡る戦いで荒廃したリーエンだったが、

 冒険者となる者。サポーターとなる者。武具やアイテムを作る者。

 凶悪なモンスターを打ち倒し、一攫千金の富を求める者。

 はたまた名声を得て地位やハーレムを求める者。

 ダンジョンを攻略、制覇しようと世界中のステイタス発現者が集まり、やがて冒険者以外の人や物も増え円形の巨大都市『リーエン』が築き上げられていった。


「――いつ見ても大きいなあ」


 安寧の象徴『花精霊樹フロランソス』。

 女王クロリス様と花精霊へ昇華した五人の英雄【五大花精霊アンペーロアペンテ】が、今では雲よりも高く成長した『花精霊樹フロランソス』の上で怪物の王が地上へ出ないように祈りを捧げてくれている。


 中央区画に聳え立つ『花精霊樹フロランソス』にはギルド本部があり、そこから放射線状に花精霊様やステイタス発現者が住む春夏秋冬の四区画が広がっている。


 東が春区アニクシ

 南が夏区カロケリ

 西が秋区フティノポロ

 北が冬区ヒモナス


 さらにその外側は農業区や工業区、商業区などステイタスを持たない人々が住む『一般居住区』と。

 食料や非常時の武具を備蓄保管及びに訓練施設やギルド職員の居住区がある『ギルド管轄区』が広がっている。


 メアリお姉さんと僕が住むギルド管轄区は冬区ヒモナスに近い。

 そして、僕が今向かっている先は三年前からお世話になっている【オダマキ・フラトリア】で、場所は夏区カロケリにあるため、体力作りも兼ねて毎朝走って向かうのが日課となっている。


「おう、オア! 今日も早いな。ほれ、持ってけ!」


 春区アニクシの外側。

 商業区の大商業通りで果物を売り生計を立てているアールさんが、売り物にならない不格好なリンゴを放り投げる。


「おはようございます、アールさん! ありがとうございます、行ってきます!」


 落とさず掴んだリンゴにシャクっと齧りつく。うん、今日も美味しい。


「来たな、オア!」


 おっと、今度は駆けっこの番だ。


「今日もやるの?」


 この三年で知り合った犬人族の子供が、並走しながらまだ幼い犬歯を覗かせた。


「当たり前だ! 勝負だ!!」


「いいけど、僕が勝ったら今日こそは負けを認めてよ」


「はんっ、勝利宣言とは生意気なヒューマンめ!」


 毎朝の日課その二。

 まだ人の少ない商業通りの一本道で競争。


 勝利報酬は彼の名前を教えてもらうことなんだけど、彼は負けず嫌いで負けを認めず一向に教えてくれない。


 彼の双子の妹、アン・リーラヤは素直で可愛いんだけど……まあ、彼も年頃の男の子らしいと考えたら可愛いのかな。


「――今日も僕の方が早いね」


「ハンッ! まだだ! 負けっかよッッ!!」


 彼は強い語気と共に前に出るが、僕も負けじと前に出てリードを許さない。


 この大商業通りには犬人族の双子の他にも知り合いや顔なじみがいる。

 定期的に行われる清掃活動やケガした店主の手伝いをメアリお姉さんと一緒にしていくうちに増えていった。


 手を上げ彼を応援する魚の干物屋の主人もその一人で、双子はこの主人に雇われ住み込みで働いている。

 妹のアンは賢く、兄の彼は力もあり働き者らしい。

 働き手を探していた主人に双子を紹介したのが僕だから、ちょっとばかり鼻が高い。


「クソッ! 今日も引き分けか! あとちょっとだったのに!」


「いやいや、今日も僕の勝ちだって」


「違う! 引き分けだ!!」


「ははは――。じゃあ、また次に繰り越しだ」


「あー、くそ! またな、オア!! 明日も来いよな!!」


 ぶんぶんと振る尻尾とスッキリ爽やかな笑顔を向ける彼。

 その隣で妹のアンが花の咲いた笑顔を見せ上品に礼をする。


 片手を上げ双子に背を向け颯爽と立ち去るが、僕は内心で冷や汗を掻いていた。


 結構ギリギリだったのだ。

 油断したって理由もあるけど単純にあの子の足が速い。

 あと一年もしない内に追い抜かれてしまうかもしれない……。


(獣人族の身体能力恐るべしっ!)


 ヒューマンも含め多種多様な種族が生活するリーエンには、十歳の頃にやって来た。

 きっかけはおじいちゃんとおばあちゃんの死。


 狩りの最中にモンスターと遭遇し、唯一戻ってきた物は冒険者が拾ってきてくれた、おじいちゃんがおばあちゃんに贈った羽衣だけだった。


 身なし子を預かる花教会からまだ幼い僕を引き取り、綺麗な湖畔のある自然豊かな辺境で実の息子のように大切に育ててくれた。


 突然の別れ、さよならも言えなかった。

 いつもみたいに「おかえり!」って言えなくて僕は当然泣いた。

 わんわん泣いて喉や目を腫らした。

 思い出の家から出られない僕をメアリお姉さんが連れ出してくれたことで、リーエンにやって来たのだけど、


(あれから五年になるのか……)



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