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不条理と片足ニーソと花精霊記  作者: 山吹祥
第六話『冒険』

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四十五輪目「飛翔」

 正真正銘。これが最後の戦闘。


 砂塵と大量の汗や血の飛沫が散る中、命を懸けた戦舞ダンスを踊る。


『ゴルアアアッ!』


 大薙ぎの右巨腕が頭のすぐ上を空振る。


「シッ――!」


 がら空きとなった左胸に、僕は二振りの斬撃をお見舞いする。


(くそっ――)


 僕は一撃を貰えば死。だというのに、僕の攻撃は薄皮しか切れない。

 圧倒的な能力差。


 だが、ないものを強請っても仕方ない。あるもので考えろ。

 あいつになくて、僕にあるもの。考える頭だ。


『フォンッ!』


 この巨腕が邪魔で踏み込めない。それなら。


「拘束しろ!」


『!?』


「クッ――解放!」


 拘束しても筋力差が歴然で意味をなさない。なら次だ。


「視界を塞げ!」


『!?』


 視界を奪われたホブゴブリンが巨腕を適当に振り回す。

 けれど、それはさっき見た。知っている。


「足を薙ぎ払え!」


『グォッ!?』


「はあぁっ!」


 転倒させるまではいかなかった。でも、体勢は崩せた。

 距離の近くなった胸をスコップで抉る。


『ゴウオォォッ!』


「っっ!」


 僅かなダメージしか与えられずとも、何度も繰り返す。


『ゴガアアアッ!』


 傍から見ても怒りに狂っているホブゴブリン。

 一方的で独りよがりな戦舞に業を煮やしたのか、両脚を広げどっしりと地に構えた。


花精霊羽織ニーソ・ヒマティオン】でも体勢を崩せず、反対に、懐へ飛び込もうとする僕へ反撃狙いの構えを取った。


 僕は一旦、長く太い巨腕のリーチの外へ下がる。


『ゴガアッ!!』


 ホブゴブリンは突然拳を振り下ろした。


「何を!? ――く、そういうことか」


 やつの狙いは地面を砕き造られた石の投擲だ。

 気が付くのが遅かった。僕はその場で足止めを食らう。


 近距離から浴びる投石は、まさに暴風雨だ。

 不吉な風切り音が、何度も僕の耳のすぐ横を通過した。


 剛腕から繰り出される飛礫や投石は凶悪の一言に尽きた。


 アニスは、ステイタスを得たばかりの身でこれを何度も避けていたのか。


 僕よりよっぽど勇気がある。


「――!?」


 何度も、何度も投石を弾き、耐久に限界を迎えたことで約五年もの間、僕と一緒に冒険してくれた愛刀のスコップが砕け散る。


花精霊羽織ニーソ・ヒマティオンで……)


 ダメだ、流れ弾からアニスを守る盾がなくなってしまう。


 一瞬の迷い。


 その隙を見逃さないホブゴブリンが投げたひと際大きな石が僕を弾き飛ばす。


「くはっ――」


 勢いよく横転した先で、限界に近い体や腕に鞭を打ち無理矢理叩き起こす。


 追撃は……ない。


 ホブゴブリンは勝利を確信したのか、余裕綽々に歯をむき出し笑っていた。

 腹は立つけど、今の僕は立っているだけでやっと。


 刃長二十セチのナイフを両手で構える姿は不格好だ。

 ホブゴブリンが油断するのも仕方ない。


 走る力は残っていない。ナイフを振る力も残っていない。


 だとしても、どれだけ見っとも無くとも僕は最後まで諦めたりしない。

 それに僕にはニーソ様が授けてくれた翼が残っている。


 今は敵が油断する千載一遇の好機。


「――いけ、【花精霊羽織ニーソ・ヒマティオン】」


『!』


 首は遠かった。心臓が近かった。だから削った。

 分厚い胸板を削るのは骨が折れた。


 でも薄くなった箇所なら僕の膂力りょりょくでも届く可能性がある。


 ヒューマンやエルフ、どの種族も等しく心臓を失えば死。

 それはモンスターも同じ。絶対の有効打となる。


 何度も、しつこく、執拗に視界を奪われたホブゴブリンは、目を狙われたと勘違いし、自らの巨腕で視界を封じた。


 腰に巻き付いた【花精霊羽織ニーソ・ヒマティオン】には気付かず、間抜けにどっしり構えている。


「縮め――」


 土台としてホブゴブリンの力を利用し、ぐんぐんと距離が迫っていく。


 僕が狙う一点は薄くなった胸部、心臓。

 がら空きとなった目標は格好の的だ。


 投石機カタパルトのように自らを砲弾として射出。

 瞬く間に流れる光景や時間の中。


 僕はただナイフを構える。

 文字通り死力を籠めた渾身の刺突。


 全身全霊を賭けた、最後の一滴まで振り絞った一撃必殺。


 僕は心臓目がけ飛翔した。



「~~~~~~~~!!!!」


『ゴウア……?』


 爪が食い込む程に握りしめたナイフから肉を抉り穿つ感触が伝わる。

 確かな手応えを感じてすぐ、僕はホブゴブリンの後方へ吹っ飛び、受け身も取れず地面に投げ出された。


 遠くでカラン、とナイフを転がる音が聞こえた。

 ナイフを握る力も残さない一撃だった、当然起き上がる力も残されていない。


 二転、三転、どれだけ転がったか分からない。


 最後は仰向けの格好で、抱き留められるように止まった。

 うすら目で視線だけをホブゴブリンへ向ける。


 胸には巨大な穴が空いていた。

 微動だにしないホブゴブリンは、やがて胸の部分から灰化が広がり、さらさらと姿を跡形もなく消滅させた。



(勝った……)



 というのに、ダンジョンは理不尽だ。



『ギギャギャッ!』



 逃げた筈の黒子鬼ブラックゴブリンが出現した。


 僕を見て哄笑する怪物は『悪辣』そのもの。


 真っすぐに、横たわるアニスへ向かていく。



「アニ……ス――逃げ……て――――!」



 助けなきゃ、それなのに精根尽きた体は指先一つ動かない。


 動け、動け、動けよ!! じゃないとアニスが――――




「大丈夫。よく頑張ったね、オア。あとは任せて」




 懐かしい匂いと、安心そして心が湧き立つ声が聞こえた。


「セ、フィ……さん? どう、して?」

 ここに居るのか。


「ギルドからの依頼。五階層の未開拓領域……オアと冒険した場所を調査していたら階段を見つけた。下りたらここに辿り着いた」


 広大な五階層を大幅に省略できる新たな階段の発見。奇跡の発見だ。


「冒険、したんだね。三年前と同じ、ううん。三年前より格好良かったよ」


 目尻を下げる優しい微笑み。頬を撫でる手の平。


「……はい」


 泣きそうなところ、精一杯の返事をした。


「これ飲んで――」


 指すら動かせない僕の口へ、セフィさんは体力回復薬ポーションを突っ込んだ。


「次はあの子――【歓喜喝采アプローズ・サントリー】――」


 新しい魔法?

 疑問と同時に現れたもう一人のセフィさんが、ブラックゴブリンを瞬殺してアニスを救い出す。


「動ける?」


「はい……おかげさまで」


 まだ体は重い。頭も重い。でも動く。心が漲っている。


「じゃあ、約束……覚えている?」


「はいっ! 一緒に、冒険しましょう!!」


 転がっていた僕のナイフを拾ったセフィさんが、誰もが見惚れるような優しい笑顔で手渡してくれる。


「今度こそ、ナイフ・・・でね」


 イタズラに微笑む顔すらも美しい。けれど、


 うう、グス……――



 やっぱり年上お姉さんはみーーーーんな意地悪だ。


次回、最終話です。

更新は本日14時です。

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