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不条理と片足ニーソと花精霊記  作者: 山吹祥
第六話『冒険』

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四十一輪目「産声」

 奔る白光。

 花精霊羽織ニーソ・ヒマティオンは、ゴブリンらを弾き跳ばしながら真っすぐ伸びていき、瞬く間に女の子とコボルトの間に割り込んだ。


 見事凶爪から守り通し、そのまま女の子をくるっと包み僕の腕の中へと戻ってくる。


「え? え? え??」


 狐につままれたような顔で呆気に取られる女の子。

 きっと、僕も似た顔をしているだろう。


「……あの時の鳥さん?」


 違った、僕は狐じゃなくて鳥だった。

 そして、綺麗な碧眼の貴女はあの時の男の子で実は女の子?

 エルフであって、お姫様でハイエルフ様??


 うん、やっぱり凄く綺麗だし、どことなく甘い蜜のような匂いがするから間違いない。

 改めて見てもお姫様って感じするもん。


 緊急とはいえ、そのお姫様を抱いてしまったけど大丈夫?


下界の楽園エデシア』で生きる全エルフに恨まれたりしない?


 というか、ニーソ様の嗅覚凄すぎやしないか!?? 


「オア、バカ!! 前見ろ!!」

「オア避けてぇっー!!」


「え――おわぁっ!?」


 飛んできた矢がこめかみをかすめた。

 ジョンさんとサラさんの掛け声がなければ、僕の頭に突き刺さっていただろう。


「よくやったオア。ここを片付けたら撤退する。お前の方には一体も通さないから、今のうちにハイエルフ様の傷の確認と自分の手当てをしておけ」


「はいっ!」


「あと、帰ったらお前は説教だ」


「はい……」


 さすがシアンさん。レベル2の冒険者だ。

 向かってくるゴブリンやコボルトが次々と屠られていく。

 まるで騎士のような格好良さだ。

 笑う口から覗ける鋭利な犬歯や、上がった口角に付く返り血が、二つ名【狂犬騎士ラキュラド・ヒッペウス】の名に相応しい物々しを演出している――。


 ――て、見入っている場合じゃない。


「あの、ハイエルフ様。おケガの確認をしたいのですが、一度下ろしてもよろしいでしょうか?」


「お恥ずかしい限りですが、腰が抜けてしまいまして……」


 無理もない。さっきまで命の危機に瀕していたのだから。


「何も恥ずかしいことなんてないですよ。えっと、僕じゃ頼りないかもしれませんが、落ち着くまでしっかり掴まっていて下さい」


「オア……様、ありがとうございます。頼らせていただきます」


「はい!」


此方こなたは平気ですので、オア様はどうかご自身の手当てをなさってください、と言いましても此方を抱いたままでは難しいですよね」


「問題ないです!」


 僕はベルト型ポーチから体力回復薬ポーションを取り出す。

 傷も浅くすでに血も止まりかけているけど、ゴブリンは剣や鏃に毒を塗っている可能性もあるから一応。


「!?」

 なんだコレ、うんっまっ!?


 毎朝、果物屋のアールさんから貰っていた林檎よりも風味が強い。

 味も濃くて体力回復薬(ポーション)というよりは果実水ジュースみたいだった。


(さすがリュケイオン林檎で作られただけあるなぁ)


 貴重すぎて飲めずにいた、ヴァルル様から頂いた体力回復薬ポーション

 半分だけしか飲まなかったのに、効果抜群だ。


 ダンジョンに潜る前、いやそれ以上の疲労が取れた。

 睡眠無しで二日くらい戦闘を続けられる。実際にできるか分からないけど、そう思えるくらい体力が回復した。


燦然さんぜんと輝く綺麗な色……そちらの物は体力回復薬ポーションか何かでしょうか?」


「はい、リュケイオンの森で採れる林檎を使った体力回復薬ポーションらしいです」

「どうりで豊潤な林檎の香りがするわけですね」


 興味深そうな視線が、飲み掛けの体力回復薬ポーションに注がれる。


「この体力回復薬ポーション、エルフにも効きますのでよかったらどうぞ! 飲み掛けになっちゃいますけど、疲労回復にもなりますので……って、すみません! 飲み掛けなんて嫌ですよね」


「いえ、このままオア様にご迷惑を掛け続けるわけにもいきません。オア様のご厚意にあずからせていただきます」


「それでしたら――」


「はい、心より感謝申し上げます」


 僕の意志を感じ取った【花精霊羽織ニーソ・ヒマティオン】がひとりでに動く。

 ハイエルフ様は自由になった手で体力回復薬ポーションを受け取り一口飲んだ。


「すごい……打ちつけた痛みや疲労が一瞬にして消え失せました。それに、凄く美味しいですっ!」


 興奮気味に大きな目をぱちぱちとさせるハイエルフ様。


「よかったです」


「はいっ! ごちそうさまでした!」


 余った体力回復薬ポーションを受け取る。


「特筆すべきはこの林檎の香り…………ん?」


 どうしたのだろうか、かわいらしく小首を傾げたハイエルフ様。


「黄金に輝く林檎の癒し……それに――」


 何故か下からジッと見つめてくるハイエルフ様。


「――鳥さん?」


 本当にどうしたのだろうか。


「すみません、自己紹介がまだでした。僕、オア・レヒムと言います。十五歳のヒューマンです」


「オア・レヒム……様――」


「様は不要です! それより、戦闘が終わったみたいです」


 三十を超えるモンスターをあっと言う間に殲滅した先輩冒険者三人が寄って来る。


「オアのバカ、オアのバカ! なんであんなヘボイ弓矢で死にそうになってるの!!」 


「すみませんっ!!」


「あとその子! オアはいつまで抱っこしてんの!! ずるい……じゃなくて、ええっとそうだ! その服! すんっごい伸びたしなんか凄かったけど何なの!?」


 サラさんも抱っこしたいのかな?

 ハイエルフ様を抱っこするだなんて貴重な体験だもんな。


「この防具は花精霊ニーソ様からいただいた物でして……それと、えっと、ハイエルフ様そろそろ――」


 モンスターは一体残らず殲滅。

 さらに、体力も回復したハイエルフ様を抱き続けるのは、いい加減に不敬だろう。


「アニスです」


「はい?」


「ハイエルフではなくて、アカデメイアの森のアーカ族の第六王女、アニス・アーカ・エクシリスと申します。どうかオア様、此方のことはアニス、とお呼びください」


 ハイエルフ様の呼称についてメアリお姉さんから習っていないけど……

 これって呼んでも問題ない?

 断る方が無礼?

 どうしたらいいの?


 アニス……様は『期待』するように何度もぱちりと瞬きしている。

 閉じては開く、その都度現れる星みたいに綺麗な碧眼。

 ダンジョンの中なのに星が瞬いて見える。


「――綺麗」

 思わず、口から漏れ出てしまった。


「まあ、嬉しい」


 まあ、可愛い。目が焼かれる眩しい笑顔だ……じゃない!


「何口説いてんの~、オア~!!」


「あ、ちがっ――」


「……存じております。此方など、お母様やお姉様方、何よりお父様と比べたら女性らしさなどなく、少年にも見間違われたりする姿形で……」


 ん? お父様?

 何やら聞き逃せない発言だった気がするけど、それより今はシュンと落ち込むアニス様だ。


「あ、ちがっ……違います! アニス様が綺麗なのは本当で、その、思っていたことがつい、口に出ちゃったのが――」


「オアッ!!」


「サラ、オア! 痴話喧嘩は後にしろ!!」


 叫んだサラさんを上回る声量で被せたのはジョンさんだ。


「【カルミア・フラトリア】がいない。気を抜くには早い」


 警戒を怠らないシアンさんが、呆れたように吐き出した。


「どうせすぐ捕まるが、シアンとサラはそのまま警戒してくれ。それよりも――」


 ジョンさんはアニス様へ向けて片膝を着いた。


「アニス・アーカ・エクシリス様。お会いできて光栄です。【オダマキ・フラトリア】団長ジョン・ブレイクと申します。先ずは、ご無事で何よりです」


「窮地を切り抜けられたのは皆さまのおかげです。このような体勢で失礼かと存じますが、ジョン、サラ、シアン、オア様――この度は、ありがとうございます」


「俺達は冒険者として緊急依頼クエストを受けただけですので。どこか傷を受けたり痛む箇所はございませんでしょうか」


「オア様からいただいた体力回復薬ポーションのおかげで問題ありません」


「……オアがエルフ専用の体力回復薬(ポーション)を?」


 ジョンさんら三人から怪訝な視線が飛んでくる。


「前に【コンミフォラ・フラトリア】のヴァルル様からいただいて」


「……なんで【コンミフォラ・フラトリア】が~? オア知り合いだったっけ?」


「サラが聞いた通り俺も気になるが、それは後にしよう。今はアニス・アーカ・エクシリス様を地上へ帰すのが先決だ。ニーソ様の勘も気になるしな」


「……それもそっか。ニーソ様の勘は鬼気迫っていたもんね。でも、帰ったら色々お話だからね~、オア?」


 アニス様と【カルミア・フラトリア】の関係、シアンさんのお説教。

 それにサラさんとのお話(尋問)。

 帰ったら忙しくなりそうだ――――。


 ジョンさんとサラさんが先行し僕が真ん中、シアンさんが後ろで奇襲を警戒。

 アニス様は、移動速度の関係で引き続き僕が抱えて走ることで決まった。


「うし、とっとと帰るぞ!」


「「「はい!」」」


 ジョンさんの掛け声に僕、シアンさん、サラさんが返事すると、唯一の出口から『ギギャッ』とゴブリンが現れた。


「もぉ~、邪魔だなあ」


 ゴブリンが逃げ出す前にサラさんが瞬殺する。

 そのままジョンさんと二人通路へと進んでいく。

 僕らも後に続こうとしたが、


「うあっぅ……」


 アニス様が呻き声を漏らした。


「胸が、胸が……熱い……」


「アニス様?」


「オア……様、すみま、せん――」


 額に張り付く程の汗。

 アニス様は苦悶の表情を浮かべていた。


「どうしたんですかアニス様!?」


「おそらく……花紋が、刻まれ……まし、た――」


 アニス様が言い終えたその時。



 ――パキン



 頭上から種が割れる音が降り注いだ。


 振り返えると拳大の何かが落ちてきた。



 地に蒔かれたそれにモンスターの遺灰が吸い寄せられた。




 一秒と経たない内に成長したそれは大きなつぼみを付けた。





 蕾は黒と赤を混ぜたような朱殷しゅあん色の暗い花を咲かせた。






 瞬く間に散った花弁の後に実った種が――――変貌する。







 両眼に映ったのは緑色の巨体。

 その巨体が僕に抱かれるアニス様へ視線を定めると。







『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォッッッッ』







 咆哮うぶごえをあげた怪物は、

 十二階層にしか出現しない【灰緑巨人トロール】だった。


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