四輪目「あれから三年」
「その話は何回も聞いたから、もう大丈夫だよメアリお姉さん」
「そう言って三年前に私の言い付けを破って五階層で死にかけたでしょ!!」
冒険者ギルド職員の制服を着る女性、メアリ・リーンは吊り上げた目をオア・レヒムに向けた。
「あれは、その……キールさんがメアリお姉さんの許可を取ったとかなんとか……」
「素直で嘘を付けないオア君は私も可愛いと思う」
メアリは後ろで一つ縛りにする赤茶色の髪を揺らし、それからオアの鼻先を抓んだ。
「あう……」
「でも都合が悪くなると顔を逸らして誤魔化そうとする。そんな悪い癖を発動させるオア君は可愛くないなあ?」
「う……」
メアリは鼻先を解放した手でオアの顎を持ち上げた。
「三年前【カルミア・フラトリア】団長ラム・キールは実入りを求め、オア君を騙し五階層へ進んだ」
「その……」
「ギルド教育者としての心配もある。保護者としての責任もある。何より、私はオア君の義理の姉でもあるんだよ? 一緒に住む弟が、ただ一人の家族が、危険な目に遭うような許可を出すと思ったの? 私、そんなに薄情じゃないよ?」
メアリの琥珀色の双眸がオアを見つめる。
「ご、ごめんなさい……」
「あれから三年。オア君も十五歳になって大人の仲間入り」
「そう……だね」
「オア君が、夜な夜な『クッ、額が……』とか――」
「!?」
「他にも『クッ、左腕が……』とか――」
「どうして知ってるの!? てか、見てたの!??」
「拗らせていたとしても、それでもオア君は立派な大人」
「ああぁぁぁ~~~~っっ!!!!」
オアは両手で顔を隠し俯いた。
「だから私も余り口うるさくは言いたくないんだよ? でもね――」
メアリは花弁を撫でるような優しい手つきで、白梟にも見える透き通ったオアの白髪へ触れる。
「――私たちを育ててくれたおじいちゃんとおばあちゃんと突然の別れがきたように、オア君もだなんて私は絶対に嫌。心配なの」
顔を上げたオアをメアリはじっと見つめる。
「――約束する」
メアリはオアが向ける山吹色の瞳から逸らさず「約束?」と訊き返す。
「今度はメアリお姉さんの言い付けをちゃんと守るって」
「本当に? 次に規則を破ったら三年間の謹慎じゃ済まないよ? 私もギルドをクビにされて、最悪はリーエンから追放されて、二人で路頭に迷うことになるからね?」
「うん、大丈夫。約束する」
「よし! じゃあ、気を付けていってらっしゃい。オア君の好きな『串焼き』を買っておいてあげるから、遅くならない時間に帰っておいで」
顔一面に笑顔を開花させたオアを見て、メアリは釣られて頬を柔らかくしたが――
「メアリお姉さん!」
「あ、んっ――ちょっと!」
場所は玄関先。
朝の早い時間といえど活動する人々もいる。
にも拘わらず、人目も憚らない無垢なオアにメアリはギュッと抱き締められた。
(もうっ、まだまだ子供なんだから……本当に愛おしいっ!)
メアリはオアへ抱き返そうとするけど、
「いってきます!!」
それは叶わず、大きく手を振り走り去るオアを見送ることになった。
「気を付けるんだよぉっ!!」
三年ぶりとなり二度目のダンジョン探索。
「……英雄に憧れるオア君には悪いけど」
やる気を漲らせるオアにメアリは溜め息を漏らす。
「……姉としては、危険な冒険者稼業になど就いてほしくないんだけどなぁ」
メアリは目を瞑り、胸の前で両手を組み合わせた。
「無事に、オア君の努力が実を結びますように――」
メアリは天にまで聳え立つ、
『花精霊樹』へ祈りを捧げてからギルドに出勤した。




