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不条理と片足ニーソと花精霊記  作者: 山吹祥
第五話『花精霊具』

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三十八輪目「喚叫」

 新しい玩具おもちゃをもらった子供みたいに駆け出したオア。

 制止もきかず去って行く姿を見送ったニーソは悪態付く。


「子供なんだから、オア君は! まったくもうっ」


 けれどその表情は、巣立ちを見守る親鳥のような優しい眼差しだった。


「――さて、アマナももうひと働きするとしようか」


花精霊具シンボル】を素材にした武具の誕生は千年の歴史でもなかった。

 悲願を成就する上での新たな可能性の発見。


 作製に立ち会った花精霊アイリスと花精霊サルビアがすでに纏めてはいるが、実際に作った当事者の話を聞かせてほしいと言われている。


 そのため、ニーソは製造過程の詳細について報告しなければならない。


「と言っても、今はアイリスも不在みたいだからどうしようか。もうひと眠り……あ、そうだスキル!」


 アイリスの私室で惰眠でも貪ろうか、そう考えたニーソは思い出した。

 留守の間に、オアに粉をかける女性エルフの存在を。


「かみ、紙……っと」


 ギルド受付カウンターに置いてあるメモ用紙を拝借。

 指先に針を刺し、血を垂らした。


「えっと、どれどれ…………」


 〈オア・レヒム〉

【状態】発芽期パラゴス

【筋力】H:4(+0)【耐久】H:3(+0)

【器用】H:8(+1)【敏捷】H:9(+1)

【魔攻】H:0(+0)【魔防】H:0(+0)

【魔力】H:0(+0)


(相変わらず器用と敏捷の伸びが著しいな)


 転記されたスキル【帰巣本能アスプリ・ゾーニ】の箇所をニーソは愛おしそうに撫でた。

 それからニーソは本命の項目へと視線を移す。


【スキル】

 《帰巣本能アスプリ・ゾーニ

 ・常時、敏捷・器用の微補正

(ホームへの思いが募るだけ効果向上)


 《希望花星フロランソス・トゥロ

 ・憧憬を抱かれた数ほど、戦闘時全ステイタスの高補正

 ・鱗茎りんけい挿し(6/6)

 →待機1


「待機……やっぱりかぁ――――」


 ニーソは受付カウンターへ降下した。

 花羽はねを畳み三角座りして、オアから聞いた話を思い出す。


(相手は胸当てに衝突した人物。手を叩かれたと言っていたから、それがきっかけかもしれないな――)


 ニーソは背中を丸め俯き思案する。


『鱗茎挿し』とは、花植物が個体数を増やす為の繁殖行為の一つである。

 花精霊なだけあってニーソは当然知っているが、スキルとの関連が曖昧だった。


 まさかな、そう考えつつ花精霊女王クロリスに確認したことで「まさか」が的中した。


(オア君は、未発現者であれば好きな相手に花紋を刻める)


 六人に限定されるけど、信じられない程にレアなスキル。


 花紋の元である種子を人々に与えることは、花精霊女王クロリスにしかできない御業。

 だが、クロリスでさえ花紋を確実に刻むことはできない。


(……よりにもよってエルフかぁ)


 ニーソは長い溜息を吐き出した。




 あれこれ考える内に30分が経過。

 ニーソが「そうだ!」と飛翔すると同時に、ギルドの扉が大きな音を立てて開かれた。


「誰だよ、騒々しいな――」


「花精霊ニーソ様! オア君は、オア君はどちらに!?」


「ギルド娘? キミね、淑女ならもう少し静かに入ってきたらどうだい。アマナは今オア君のことで頭が一杯なんだ」


「はい、すみません! それで、オア君はどちらに!?」


 焦燥感溢れる表情。必死とも呼べるメアリの形相に、ニーソはたじろぐ。


「オア君ならぁ……えっと、ダンジョンに行ったけど?」


「そうですか……ありがとうございます、ニーソ様。すみません、失礼します――」


 メアリは深く頭を下げ、『封印門ダンジョンゲート』へ駆け出した。


「ギルド娘がいなくなった代わりに、キミが話を聞かせてくれるんだろうね?」


 メアリと共にギルドに来ていたルグレイ・クーキにニーソが訊いた。


「順を追ってご説明いたします、花精霊ニーソ様」


「ああ、頼むよ」


「先にご確認となりますが、昨日レヒムと【カルミア・フラトリア】との間でいざこざがあったことはご存知でしょうか」


「知っているよ! そのせいでオア君がエルフなんかと……はぁ――。で、今朝に後を付けられたことと何か関係があるのかい?」


「ご推察の通りです。それで現在、アカデメイアの森からいらしたアーカ族の第六王女ハイエルフ『アニス・アーカ・エクシリス』様の所在が不明なのですが――」


「ああ、なんか少し前から来ているらしいね。でも、行方知れずとは穏やかじゃないね」


 アイリスが早朝から不在なこともその件が理由か、とニーソは考えに至る。


「でも、それがオア君とどんな関係、が……――」


 羽ばたきを止め降下するニーソ。


(まさかまさかまさかぁ~~!?)


 見る見るうちに、ニーソの顔が青ざめていく。


「レヒムの後を付けていた人物は取り逃がしてしまったのですが、会話したことで、レヒムと衝突した人物がハイエルフ様の可能性が高いと分かりました。花精霊ニーソ様、レヒムから衝突した人物の特徴を聞いていないでしょうか?」


 ニーソはオアから聞き出した碧眼で綺麗な顔という特徴をぽつりと答える。

 するとメアリが戻って来て、情報を付け足した。


「まさかとは思いましたが、すでに【カルミア・フラトリア】はダンジョンに潜っているようです」


「……レヒムを付けていた団員は小柄だった。フードをかぶれば見分けの判断も難しいだろう。おそらく入れ替わりダンジョンに潜った可能性が高そうだな」


「そうですね、クーキ氏――。ニーソ様、オア君他には何か言っていませんでしたか?」


 可能性を否定したいニーソは必死に考える。

 そして思い出す。オアからされた脈絡もない質問を。


「たしか黄金の林檎について聞かれたとか……」


 途端に顔を合わせる二人。


(やばいやばいやばい、本格的にやばい!! エルフどうこう言っている場合じゃない!!)


 超絶焦るニーソは六枚の花羽を広げ急上昇する。


「やばいぞキミたちッッ!!!!」


「はい、このままでは全エルフがリーエンの敵に――」


「そうじゃなーーい! そのハイエルフ!! 多分、いや間違いなく花紋が刻まれる!!」


 メアリとクーキは「あり得ない」と顔を横に振る。


「ニーソ様を疑うわけではありませんが、第六王女様は現在二十歳です。十六歳を過ぎた者に、花紋が刻まれることは千年前からなかったはずです」


 メアリは正しい。

 花紋のルールは子供でも知っている常識でありニーソも当然に知っている。


 だが、根拠を説明することはオアの御業にも等しいスキルを暴露することに繋がる。

 百歩、千歩譲ってメアリには教えてもいい。

 だが、クーキには言えないためニーソは歯噛みする。


「理由は言えない! オア君が持つ妙な奇縁と花精霊の勘としか言えない! 兎に角、ハイエルフと……オア君がピンチなんだよぉぉぉぉっっ~~~~!!!!!!!!」


 喚叫。


 ニーソは助けを求め旋廻する。

 沁み付いた常識のせいか二人は「あり得ない」と思う気持ちが拭えない。

 けれど、超常の力を持つ花精霊が『勘』と断言し狼狽ろうばいしている。


(もしも本当に花紋が刻まれたら?)


 そんな考えが頭に過ぎり、二人は冷たい汗を流し始めた。


「誰か冒険者はいないのかい!? ここはギルドだろう!??」


 リーエンの警備を担う【ラベンダー・フラトリア】は街で捜索に総動員。

 他の冒険者はというと、普段は無駄に居座る者でさえいない。

 外で鳴く小鳥の声すら室内にまで聞こえてくる早朝の時間が理由だ。


 街へ呼び掛けにいこうにも、ギルド職員もほとんどが街に出払っている。

 一刻の猶予も許されない時間との勝負。


 己の力不足を嘆くクーキと、ニーソ同様にオアの身を案ずるメアリは、ニーソの嘆願に応えられず悲痛に沈黙した。


 しかしその時。


 メアリが飛び込んで来た時以上の激しい音が静寂を切り裂いた。


 青鈍色の尻尾を持つ猫人族の女の子が、脇目も振らず真っすぐ封印門ダンジョンゲートに疾駆する。


「待て、サラ!! 一人で突っ走るな!! ああ、もう――シアン説明頼んだ!!」


【オダマキ・フラトリア】団長ジョン・ブレイクが、サラ・イズラータを追う。


「悪いとは思いましたが、話は聞かせてもらいました。一先ず、俺達がオアを追います。逃げるだけなら六階層の異常でも対処可能だと思いますが、お姫様や他の【フラトリア】の存在が不安です。念のため増援の手配はお願いします――」


 こげ茶色の耳を掻きながら手短に説明した副団長シアン・ノンストが、サラとジョンを追う。


「ククククッ――。花精霊ニーソよ、感謝する。貴様の喚叫がサラの殻を破った。お礼に――ワレの子らがオアの元へ馳せ参じようぞ」


 花精霊オダマキが、二十三ある構えの最終をシュバッと取る。


「オ、オ……オダマキィ~~~~!!!! ださい構えとか思ってごめんよぉぉぉ」


 オダマキは静かに目を瞑った。

 そして力いっぱい開眼してニーソへ指差した。


「ククククッ――。お前はワレを怒らせた!! だが――」


 花精霊具シンボルの白いマフラーを靡かせ、最後は優しく微笑み、格好良い決めポーズを取り宣言する。


「――あとは安心して待つとよい」



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