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不条理と片足ニーソと花精霊記  作者: 山吹祥
第五話『花精霊具』

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三十六輪目「片足ニーソ」

 ニーソ様が『花の蜜会アニメリシン』へ出掛けて三日目の朝。


 御神花セフィアントやニーソ様のお花のお世話をするのに、眠たい眼をこすりながら植木鉢へ近付く。


 あれ、ほんの僅かだけど、


「芽が出てる」


 よかった、普通なら三日で発芽するとニーソ様が言っていた。

 それなのにそんな気配がまるでないから不安だった。


 花精霊コンミフォラ様からいただいた固形肥料のおかげかな?

 お会いする機会があったらお礼を伝えたい。


 あ、それよりも。

【コンミフォラ・フラトリア】のお店で買物して貢献するのもアリかもしれない。

 僕に手の届く品があるかは怪しいけれど――と。


 頬を掻きつつ二つの植木鉢のお世話を進める。

 と言っても、植木鉢が二つだけだ。

 大して時間も掛からず、次に僕自身の調子の確認をすることに。


「ん――!」


 腕を突き上げて背中を伸ばす。

 それから膝を屈伸させ、その流れで軽いストレッチを行う。


 特に違和感はない。問題ないかな。


 昨晩・・、やけにクシャミが出たから心配だったけど、入念にストレッチしたからか疲労も取れているようだ。


 今日もダンジョンに行けそうだ。



 着替えを済ませ、胸当てや革嚢ホルスター、ナイフにスコップを装着。

 数分としない内に支度を済ませる。


 ブラックゴブリンとの戦闘も慣れてきたし、今日の内に六階層の半分は攻略できたらいいな。

 それで、運よくドロップアイテムが手に入ったら、ニーソ様にお土産を……


「……ニーソ様、今日は帰って来るかな」


 僕も十五歳となり大人の仲間入りを果たしている。

 一人で生活だってできる。

 だけど、賑やかなニーソ様との暮らしに慣れたことで、一人で過ごす夜を寂しく感じてしまった。


「いってらっしゃい!」「おかえり!」と笑顔をくれるニーソ様の掛け声に、僕は元気をもらっていたんだな。


 ニーソ様が帰ってきたら、しっかり感謝を伝えよう。


「いってきます――」


 とドアへ手を掛けた時「トントントン」とノックがなった。


 こんな朝早くから誰だろうか?

 扉窓を隠す簡易的な布カーテンを開くと、騎士にも見える出で立ちをした片翼人族の男性と目が合った。


「おはようございます。花精霊ラベンダー様の遣いで来た【ラベンダー・フラトリア】所属ルグレイ・クーキと申します。【ニーソ・フラトリア】所属のオア・レヒムはご在宅でしょうか」


 片翼人族の男性、クーキさんはラベンダーの花模様が施された、警備隊を象徴する腕章を提示した。


【ラベンダー・フラトリア】の方で間違いないようだけど、リーエンの治安維持する方が何の用事だろうか。


 僕、何か悪いことしたかな……不安一杯の気持ちを隠しつつ何食わぬ顔で扉を開ける。


「おはようございます。オア・レヒムは僕ですけど……?」


「初めまして、レヒム。何も捕まえに来たわけではない、そのように不安気な顔をせずとも大丈夫だ」


 ばれていた、お見通しだった。

 でも、動揺する気持ちをおくびにも出さず、差し出された手を取り「初めまして」と握手を交わす。


 きっと、僕を見て優麗な雰囲気で頬を綻ばせるクーキさんには、これもお見通しなのだろう。


 僕もいつか、余裕を感じさせる大人になりたい。


「訪ねた用件だが、花精霊ニーソ様がギルドにてお待ちだ。疲労が溜まっているのか熟睡しているようで……私がお連れしようとしたが、レヒムを希望していてな」


「すみません! すぐに迎えに行かせてもらいます」


 リーエンの治安維持に貢献、いつも多忙な【ラベンダー・フラトリア】に遣い走りのような真似をさせてごめんなさい。


 僕は全力で頭を下げた。


「これも仕事の内、気にせずとも結構だ。それよりも――。時にレヒム、物陰からこちらを窺っている細身の男とは知り合いか?」


 へ? と、クーキさんが向ける視線の先に顔を動かす。


 確かにいた。

 隠す気もないのか、木に寄り掛かり堂々とこちらを観察している小柄な男が。


 昨日ギルドを出た所で一悶着あった【カルミア・フラトリア】の男性だ。


 団員の男の子とぶつかり転倒させてしまった出来事も含めて、知り合いという程ではないけど、知った顔である旨をクーキさんへ説明する。


「見張り? 因縁からの強請り、はたまた闇討ち……」


 こわい、恐い、怖い!

 真面目な顔で物騒なことを呟かないで下さい!


「この忙しい時に面倒事はごめんだが……いずれにせよ、何も起きていない状況では動こうにも難しい。一先ずは、ギルドまでレヒムに同行しよう」


「そんな! お忙しいのに悪いです!」


 エルフのお姫様(ハイエルフ様)が来ていると聞いている。

 メアリお姉さん同様にクーキさんも、その護衛や警護とかで大忙しに違いない。


「ほう、自らが囮になって事を誘い仕事を増やすと?」


「是非、同行をお願いします!」


 満足そうに頷いたクーキさんに護衛(?)されながら移動開始となった。


 留守の間、部屋を荒らされたり……と心配したけど【カルミア・フラトリア】の男性は後に付いてきた。

 つまり、目的は僕であると分かったけど、その理由までは見当も付かない。


「どうせだ、少し世間話でもしながら向かおう」


「はい!」


 クーキさんは、もの凄く大人びて見えたのに年齢が十四歳で僕より年下だった。

 ひと月前に花紋を刻まれたばかりで、今はレベル1の冒険者。


 団長のケス・パプル様に憧れて口調を真似ているらしい。


 僕の顰め面に気付いていたクーキさんが、雑談を交えながら緊張を解してくれる。


 どっちが年上か分からないな、と嘆く内にギルド正面入り口まで到着した。


「ありがとうございました!」


「ああ」


 柔和に微笑んだクーキさんは、一礼すると去って行く。

 向かう先は、後に付いてきた男性の方で、何やら声を掛けた。


 務めなのだろうけど、何だか他人任せで申し訳がないな。

 僕も行った方がいいだろうか。頭を悩ませていると、


「オアく~~ん~~!!」


 安心感を覚える懐かしい声が聞こえてきた。


「ニーソ様! おかえりなさい、お迎えに上がりました!」


 綺麗な羽衣を纏ったニーソ様が文字通りに飛んで来る。


 ん? でも、どうしてニーソ様は、



花精霊具シンボル】のニーハイソックスを片方しか穿いていないんだ?



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