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不条理と片足ニーソと花精霊記  作者: 山吹祥
第五話『花精霊具』

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三十四輪目「僕はヒューマンです」

 ふんだんに殺意が籠められた斜め上から振り落とされる攻撃。


『ギシャアッ』


「ッ!」


 ロッシェさんが【ニーソ・フラトリア】のホームまで届けてくれた、ギルド支給の新しい胸当てに掠めることなく、コボルトの爪撃が通過した。


「セイッ!」


 刃長二十セチのナイフを急所目掛けて突き刺す。

 すると、コボルトは瞬く間に灰化した。


 戦闘終了したことでナイフを革嚢ホルスターへ収納。

 コボルトの残灰へ目を向ける。


「やっぱり残ってないかあ……」


 ジョンさんから貰った切れ味抜群のナイフ。

 上手に使い熟せないせいで、魔種の核ごと壊してしまう。


 おかげで欠片すら残らない。

 慣れるためには使わないといけない。でも、魔種が残らないと稼ぎにならない。


 何かと縁のある半円型の空間に未開拓領域が見つかった。

 その領域でブラックゴブリンと遭遇したとかで、レベル1の冒険者は立ち入りが禁じられている。


 それならば、と立ち寄らず真っすぐ五階層の奥まで来たが、バックパックには未だ余裕がある。


「――もう少しだけ」


 もどかしいさを感じつつも、僕は六階層へと進む――。



 オミッサ花の薄赤色の明かりを頼りに、数日前に見たライラックロウの姿を探す。

 エルフですら、数百年に一度出会えるかどうかの激レアモンスター。


 ただのヒューマン、しかも魔法すら発現していない僕がもう一度出会えるとも思えないけど、一度遭遇しているから、つい目で探してしまう。


 まあ、奇跡的に会敵できても前回のように無闇に追い掛けたりはしない。

 危うく死に掛けたし、メアリお姉さんにも怒られたからな。


 強欲や功名心に駆られた冒険者の末路は、これまでも散々言い聞かされている。

 だから見かけたとしても、僕は慎重に、冷静に、を心掛けるつもりだ。


『ギギャ?』

 二股路に着いたところで、首を傾げた逸れゴブリンと会敵した。

 だが、あろうことか、ゴブリンは一目散に逃げだした。


 僕の冒険者オーラ的な何かに恐れをなした?


 いいや、違う。

 自慢じゃないが僕にそんなものはない。

 なんか……自分で言って虚しくなったな。

 ゴブリンめ、精神攻撃を仕掛けるなんて! 許さんぞ!!


 逃げたゴブリンを追い掛け、倒したいが二股路のもう一方へ進路を決める。

 理由は簡単だ、逃げたゴブリンの行動は間違いなくブラックゴブリンの指示。


 つまりは罠への誘導だ。


 逃げたゴブリンを追えば、配下を引き連れたブラックゴブリンに退路を塞がれ、挟撃される。

 それを回避するための選択だったが――――


(やっぱり、いた!)


 槍や剣、弓持ちはゼロ。

 無手が二体と盾持ちの一体がブラックゴブリンの傍に控えている。


 通路は一本路。


 横からの襲撃は考えなくても大丈夫そうだ。


 全部で四体、武器なし小規模な徒党なら僕でもやれる。


 逃げた囮のゴブリンが戻る前に、速攻で片付ける――。


『ブギギギャギャッ!』

 ブラックゴブリンが興奮気味に何かを叫んだ。


 すかさず二体のゴブリンが僕へ振り向こうとするが、僕の方が速かった。


「シッ――テヤッ!」

 すれ違いざまに一体の喉笛をかき斬る。


 疾駆する勢いを乗せ、もう一体をブラックゴブリン目掛けて蹴飛ばす。

 盾持ちのカバーも間に合わず、宙を飛ぶゴブリンがブラックゴブリンに直撃。


『ブギャッ――!?』

 鈍重な衝突音のすぐ後に、ブラックゴブリンの悲鳴が上がり後方へ弾け飛んだ。


 渾身の蹴りだったけど、予想以上に飛んだな。

『筋力』のステイタスが上がった効果だろうか。


『グ、ギャ……』


 ブラックゴブリンは、首の曲がったゴブリンを除けるのに手子ずっている。

 盾持ちは僕とブラックゴブリンに視線を行ったり来たり。

 次の行動に悩んでいるのだろう。


 それなら、僕の次の狙いは盾持ちで決まりだ――。


 距離を縮めつつ左手でスコップを引き抜く。

 姿勢を低い位置で構え、砂を掬い投げ付ける。


『!?』

 ゴブリンは木製の盾を顔の前に構え砂を塞いだ。

 視界を塞いだゴブリンの横から後ろへ回り込み、スコップを力の限り頭に突き刺す。


 代わりにゴブリンが手放した盾を拾っておく。


『ブギギャー!!』


 ようやく立ち上がり怒りを表すブラックゴブリンに拾った盾をぶん投げて、もう一度転がってもらう。

 すぐさま追撃するが、当たり所か良かったのか悪かったのか、すでに虫の息だった。

 そのままブラックゴブリンの心臓へナイフを突き刺し、戦闘終了だ。


「ふぅ……」


 息を吐きつつ注意深く気配を探る。

 別路へ逃げた囮のゴブリンの気配はない。

 増援がないことを確認した僕はナイフ、そして灰の山に刺さるスコップを収納。


 もう一度息を吐き出し、肩の力を抜いた。


「僕も少しは強くなれたかな……」


 夜のダンジョンで死に掛けてから二日。

 ブラックゴブリンを倒したり、追い掛けられたり何度か繰り返してきたけど、今回の戦闘が今までで一番順調だった。


 油断は禁物だけど、余裕すらあった。


 花の蜜会アニメリシンに出掛けたニーソ様が戻らないからステイタスの更新はできていないけど、実感するということは戦闘の経験や能力が、確実にこの身に付いているのだろう。


「成長してる」


 少しずつ。でも確実に。

 リーエン有数の冒険者となったセフィさんとは気軽に会えないけど、約束を果たせる日を目指して強くなりたい。


 犬人族の双子の子供、テカトとアンに胸を張れる冒険者になりたい。


 闘志を燃やしながらも、気持ちを抑えて冷静を心掛ける。


 焦らず、ゆっくり。


 自分に言い聞かせて二体分の魔種の欠片を回収。それから、


「――今日は帰ろう」


 ダンジョン探索を切り上げることにした――――。


 帰路の途中で会敵するゴブリンやコボルトをスコップであしらいながら、魔種を少しでも回収。


 一階層までの階段を五度上り、地上が近くなるにつれて他の冒険者の姿もちらほらと見えてくる。

 地上とダンジョンを繋ぐ出入り口『封印門ダンジョンゲート』は一つしかないから当然だ。


 ヒューマンにドワーフ、獣人族。

 どの冒険者もパーティを組んでいる。

 倒したモンスターや魔種の量、ドロップアイテムなど、冒険話に花を咲かせている。

 きっと、この後は酒場で一杯引っ掛けるのだろうか。

 羨ましい、ちょっと憧れるな。そういう冒険者らしいこと。

 そんな羨望を胸にゲートを潜り、地上へ帰還した。


「ん、ん……――疲れたな」


 モンスターが現れない安全地帯に戻ったことで、疲労がずしりと圧し掛かる。

 緊張の糸が解れたのだろう。

 体力に余裕ある内に帰ってよかった。


 ちょっと贅沢かもしれないけど、大浴場を利用しようかな。

 お金には多少の余裕もあるし……いや、やめよう。


 夕方の多忙な時間帯で殺気立つギルド職員や、満面の笑みを浮かべるメアリお姉さんを見たら、とてもじゃないけど声を掛け難かった。


 汚れ落としはホームに帰宅してからシャワーで済ませよう。

 あとは、入念にストレッチをして体の疲労をほぐそう。


 名残惜しさに背を向けギルド本部から出ると、外はすっかり夕焼け色に包まれていた。

 春から冬に区別される四区画と異なり、ギルド周辺やリーエンの外には四季が存在する。


 そして今の季節は夏に該当する。

 夕方の時間だというのに、容赦ない日差しが体力を蝕む。


 おまけに、ただでさえ汚れている僕に汗を流させるという状態異常デバフ付きだ。


(……ちょっと臭うかな?)


 脇の臭いを嗅いでいると、ゴンッと胸に衝撃が響いた。


「ごめんなさい! よそ見していて、ぶつかったりして。大丈夫ですか?」


 目の前で尻もちを着くフード付きの外套を目深にかぶる人へ手を伸ばす。

 が、伸ばした手を思い切り「バチンッ」と弾かれた。


「!? すみません、他意はないのです。お手を伸ばしていただき、ありがとうございます。えっと……鳥さん?」


 よかった、怒らせたわけじゃないようだ。

 でも僕はちょっと癖毛なだけのヒューマンです。


「いえ。僕の方こそすみませんでした」


 額を擦りながら立ち上がった子は、僕の胸の高さくらいの背丈。

 育ちが良いのか外套をずらし、目を合わせ謝罪してくれた。


 背格好からして多分十歳前後の男の子だけど……随分と綺麗な顔立ちをしている。

 目なんて透き通るような碧眼で羨ましい。

 メアリお姉さん同様、エルフにも見間違う美しさだ。


 ……別に他意はない。


 男の子に懸想したりもしない。

 僕はあくまでノーマルで女性が好きだ。

 けど、やっぱりギルドでシャワー浴びてきたらよかったな。


 見た目の劣等感。いや、違う。

 清潔感は大切、そう大切だからだ。


「もし? 一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」


「はい?」


「鳥さんは、黄金の林檎をご存知で?」


「黄金の林檎……ですか。すみません、聞いたことないです」


 もしかしたら【コンミフォラ・フラトリア】の団長エルフのリュケ様なら知っているだろうか。

 紹介できるほど親しくはないけど、情報として伝えるだけならいいかな。

 そう思ったが「おいッ!!」と、怒声が割り込んだ。


 相手は小柄な男性のヒューマン。

 親の仇でも見つけたかのような怒りの形相だ。


「失礼しました――」

 男の子は慌てたように僕へペコッと頭を下げると、男性の元へ走って行く。

 何か慌てて弁明する男の子。

 すると怒声を放った男性が僕を見た。


 絡まれる、そう身構えたが男性は威嚇するように睨みを利かせ去って行く。

 二人の先にも仲間が待っていたようで、男性は合流する矢いなや頭を叩かれた。


 って、あれ?

【カルミア・フラトリア】のキールさん?


 三年と会っていないけど、冒険者たらん見た目やニヒルな笑い方は変わらない。

 間違いなく【カルミア・フラトリア】団長ラム・キールさんだ。


 男の子とどういったご関係なのだろうか。

 ちぐはぐな組み合わだ。


 冒険者志望?

 いや、【カルミア・フラトリア】の評価変更はなかった筈だから、新しい団員とかかもしれない。


 まあ、僕があれこれ考えても仕方ないか。


 緊張したせいか僅かに残っていた体力も尽きかけている。

 お腹も空いたし、恋しいホームに帰るとしよう。


「ところで黄金の林檎ってなんだろう――」


 新種か何か?

 今度、春区アニクシに寄った時にでもアールさんに聞いてみようかな。


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