三十輪目「念願のスブラキ」
もう一度だ。どうしてこうなった?
「こらギルド娘! アマナのオア君に勝手に引っ付くなあっ!!」
「ふふふふ、花精霊ニーソ様。私はこの子の姉ですよ?」
「おいおいおいおい、おかしなことを言うじゃないか。姉なら姉らしい振舞いがあると思うんだけど……って! 言ってるそばから引っ付くなあ~~!!」
優しい気遣いと笑顔が素敵でギルドの看板娘(ロッシェさんいわく)と言われているメアリお姉さん。
片や、白く清廉で美しさと可憐さの両方を備えた美少女のニーソ様。
僕には勿体ない美女美少女が奪い合うようにくっ付き言い争っている。
これがハーレム。
有名冒険者特典ってやつ?
初心者冒険者の僕にとってハーレムなんて夢のまた夢だと思っていたなあ。
まあ、相手はメアリお姉さんとニーソ様だから違う気もするけど。
というか僕は、おじいちゃんとおばあちゃんみたいな関係に憧れるから、ハーレムとかは別に望んでいない。
……でも、ちょっとくらい?
チヤホヤされたりは、してみたい、かも?
今にも凶悪なモンスターの餌食となりそうな美少女を危機一髪で救い、モンスターを退けた僕に美少女が頬をポっと赤らめる。
美少女からの好撃を満更でもない感じで「困ったなぁ」と僕は頬を掻いて。
ヒューマンやエルフ、小人に獣人、ドワーフやアマゾネスなんかも、様々な人に憧れられたりして、パーティを組んだり【フラトリア】に加入してもらったり……と。
花精霊記に出てくる英雄様にもハーレムを築いた人がいるから、子供ながらにちょっと憧れたな。
おじいちゃんは、可愛い女の子と仲良くしたいと思う気持ちは健全だ。
順調に成長している証だ、胸を張れと言っていたな。
おばあちゃんに引っ叩かれていたけど…………
うん、バカな妄想はこの辺にして整理しよう。
ホームを出た後、姉御……ギルド職員ロッシェさんに換金を依頼。
それから「早く帰れ、帰れニャ!」「メアリに戻るよう言うニャ」と、メアリお姉さんがホームに向かっていることを聞いた。
僕は急いで串焼き屋へ向かった。
で、長蛇の列を約三十分並び、串焼き屋の店主クトスさんに、いただいた物を子供にあげてしまったことを謝罪した。
クトスさんが笑って許してくれて、収入が入ったらまた来ることを約束。
購入後、駆け足で帰宅したらメアリお姉さんが僕に飛び付いてきた。
今は、なし崩し的に座ったソファの上で二人に挟まれている。
目の前のテーブルには串焼きの入った紙袋が置いてあって、冷めている筈なのに香辛料の匂いが嗅覚を刺激する。
ああ、お腹空いたな。パンに挟んで食べても美味しそうだ。
グーグーはたまたギュルギュルと鳴り続けるお腹。
食べたいのに食べられない。お預け状態だ。
僕、串焼きに呪われていたりするんじゃないか?
ここまで縁がないと笑けてくる。
「――はあ……いい加減にご飯にしないか、メアリ・リーン。アマナもオア君も昨日から何も食べてなくてお腹ペコペコなんだよ! 聴こえるだろ? 傷を癒すのに肉を食べさせろー! 早くー! って、けたたましく訴える音が!?」
僕の素直なお腹は、タイミングよく盛大に音を鳴らす。
きゅるきゅるー。
「……花精霊ニーソ様。確かに、可愛いらしい音が聴こえました」
「オア君、キミってやつは……」
恥ずかしい。
憐憫な眼差しが心に突き刺さる。
僕が振るスコップよりもずっと鋭利だ。ともあれ、
「メアリお姉さん。一人で夜のダンジョンに潜ったりして、すみませんでした」
「……よくないけど、いいよ。ニーソ様にも怒られたんでしょ?」
「はい」
「それなら私から言うことはないかな。そもそも、追い込まれるまでオア君を放っておいた私に怒る資格なんてないから」
「そんなこと――」
否定しようとした僕の口をメアリお姉さんが人差し指で塞ぐ。
「ごめんね、頼りないお姉ちゃんで」
メアリお姉さんは僕を連れ出してくれた。
僕の世界を広げてくれた。
住んでいた湖畔以外の場所が、花で溢れる美しい世界って教えてくれた。
いつだって僕を優先してくれた。だから、
「僕のお姉さんがメアリお姉さんで、僕は本当に幸せだよ」
「オア君……私もオア君が弟で幸せだよ」
ぎくしゃくしていたメアリお姉さんとの関係も修復され一安心。
僕のお腹は今度こそけたたましく鳴った。
「よし、仲直りも済んだ! 今度こそ食事いいや……パーティと洒落こもうじゃないか!!」
香辛料の匂いが爆発。
白光をパッと輝かせたニーソ様が、ご馳走をテーブルに並べてくれた。
ニーソ様は、気を利かせて温めてくれていたようだ。
「ありがとうございます。花精霊ニーソ様。取り分けますね――」
メアリお姉さんはテキパキと手を動かす。
さすが、ギルド職員で一番の出世頭と呼ばれるだけある。
僕もメアリお姉さんやニーソ様を見習って気の利く大人を目指そう。
「んおー、美味そうじゃないか! 昔にも似たようなやつはあったけど、匂いからして次元の違う美味しさだって想像できるね。アマナのヨダレが凄いことになりそうだよ。食べてもいいかい、オア君?」
「はいっ、是非召し上がって下さい! 沢山あるからメアリお姉さんも!」
僕の掛け声で飛び付くニーソ様。
メアリお姉さんは柔和な笑顔で「いただくわね」と手に取る。
僕もセフィさんおすすめの『蜜漬串焼き』を手に取り、かぶり付く。
「っ!!」
美味しい。
甘い物は得意でないから不安だったけど、甘さは香る程度で気にならない。
羊肉は物凄く柔らかくて、それなのに噛むと肉汁が溢れてきて旨味が口の中で爆発する。
セフィさんのおすすめは間違いなしだった。
「うんっまぁ~~!! なんだこれは!? 硬パンの味に進歩がなかったから期待していなかったけど、現世にはこんなに美味しい食べ物があったのかい!? アマナが今まで食べていた硬パンはもはや食べ物じゃないね。それくらい美味しい!!」
本当にすみません。
今までまともな食事を用意できない甲斐性なしで。
明日からはもっと頑張って稼いできます。
「本当に! 花精霊ニーソ様、これは中でも抜群の味ですよ!! オア君、この串焼きどこで!? どこのお店の!??」
「春区の商業区にある、立派な口髭が熊みたいな店主のクトスさんが構える『蜜漬串焼き』がおすすめのお店だよ」
「ゴフッ――」
咽るメアリお姉さん。
僕はすかさず飲み物をささっと前に置く。
「――セフィ・アークシュ氏、【奇跡の花姫】が通うと知られ、今では一見さんお断りになった『熊ちゃんの串焼き屋』!? 商機とみたギルドが投資……援助を申し出て、一気に全区画への支店出店が決まった超人気店じゃない!!!」
昨日の今日でなんだか凄いことになっているなあ……
てか、一つでも店を構えられたら立派だというのに、全区画出店とかスゴッ!?
「デュナミス・フロラ……奇跡の花姫とは、また大層な二つ名だね。その、セフィ何ちゃらは有名な冒険者なのかい?」
「ええ、そうです花精霊ニーソ様。たった三年でレベル3【成長期】へ成長。若干十八歳で現世の英雄候補として名を馳せている人物です」
「へぇ、覚えている限りでは三年でレベル3は千年前にもいなかったはずだ。現世には凄い人物が誕生したものだ」
言葉とは裏腹に、大して驚いた様子は見せず、ニーソ様は『蜜漬串焼き』にかぶり付いた。
「バラの花紋を刻まれ、その可憐な美しさは奇跡の造形とも呼ばれ、人気に拍車をかけております。現に、オア君もセフィ・アークシュ氏に憧れを――」
「ゴフオォッ――」
ニーソ様はかぶり付いたばかりの『蜜漬串焼き』を盛大に噴き出した。
噴射を顔に浴びたメアリお姉さんにタオルを、ニーソ様には水をささっと渡す。
僕も中々気の利く男になれたかな。
「悪かったね、ギルド娘。それより今のは本当のことかい!? オア君!!」
「え、はい。セフィさんは本当に凄い人ですよ」
「ちっっが~~うっ!! キミが、セフィ何ちゃらに憧れているかどうかってとこさ!!」
「はい、えっと……恥ずかしいですけど、三年前から憧れています」
「三年前だと? セフィ何ちゃらが有名になる前からってことは、もしや知り合いか何かなのかい?」
セフィさんの魔法や花紋が稀少だとかで、三年前にセフィさんと冒険したことは箝口令が敷かれている。
そして沈黙する条件で僕の罰も緩和されている。
そのため、ニーソ様に説明していいだろうか、
顔を綺麗に拭き終えたメアリお姉さんと目を合わせる。
「イチャイチャ目で会話してないで、アマナに詳しく教えろ~~~~!!!!」
ポツンと一軒家に響くニーソ様の叫び声。
一部内容を伏せ、メアリお姉さんが説明しつつもパーティが続いていく。




