表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不条理と片足ニーソと花精霊記  作者: 山吹祥
第四話『帰巣本能』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/46

二十六輪目「帰宅」

「ククククッ――。長短の針を操り、刻み知らせるマジックアイテムを授けよう――」


 花精霊オダマキが【ニーソ・フラトリア】のホームに置いていった、何の変哲もない壁掛け時計。

 花精霊ニーソは何度目になるかわからない確認をする。


 針が示す時刻は朝の四時。


(オア君は一体どこまで串焼きスブラキを買いに行ったんだ……!)


 部屋の中を旋廻しては、扉窓や小窓を覗き込む。

 オアの姿どころか人影一つ見えない。

 見えるのは覆われた夜のとばりだけ。


 十八時、二十時、二十一時と、変わらない静寂。


 日を越えてなお帰らないオアに、ニーソは一晩中落胆と心配を繰り返していた。


(まさかアマナに愛想を尽かして出ていった……?)


 初夜の記念に取ってある蔓の布団。

 翌日には、ヒューマンと花精霊それぞれの寝具がホームへ運び込まれたため、蔓布団を使用したのは初日だけである。


 大事に取ってある蔓布団に座るニーソだったが、去来した後ろ向きな考えを否定するように、かぶりを振る。


(あの子はそんなことしない。だとしても、あの子は無断でいなくなったりしない)


 年齢より幼い精神性を持っている。

 千年前のあの子と同じ、厨二病ってやつだ。


 元から植えられていた病の種。それを花精霊オダマキが開花させた。


(……たく、余計なことを、じゃなくて!)


 育ての親がよかったのだろう、子供らしからぬ礼儀正しさをオアは身に付けている。


(いくらユリ科のアマナが『下界の楽園エデシア』で嫌われていようとも……)


 挨拶なしに出ていったりはしない。

 出会って十日もない短い期間だけど、ニーソはオアが清く真面目な魂の持ち主だと十全に理解していた。


(――となると)


 何か事故や事件に巻き込まれた可能性。

 冒険者になってから溜め込み続けた種石を持っていた。

 それなりの金額となるから、喝上げにでも遭っているのでないだろうか。


 良くない考えに至ったニーソの額から嫌な汗が噴き出した。


(こうしちゃいられない)


 千年前から自他ともに認める引き籠り花精霊だけど、子供の窮地にジッとしていられる程怠惰でもない。


 ニーソはオアを探しに行くと決める。


 この瞬間、ホームを得て初めて扉窓から外へ飛び出したが、


「へびゅっし」


 出鼻を挫かれる。


「いっ……タアァ~~~~~~イッ――!!」


 打ち付けた鼻を押さえフラフラと蛇行軌道で降下するニーソ。


 外は怖い、危ない世界だ。

 千年前と何も変わらない。痛みの余り、再認識したニーソだったが、


「ニーソ様……? 痛かったですよね、ごめんなさい……」


 撃墜されたニーソを手の平で掬う優しさ。

 頭上から降り注ぐ弱々しい声。

 これにニーソは一気に飛翔した。


「オ……オア君ッ!??」


「はい、ニーソ様」


「き、キミは一体どこまで串焼きスブラキを……っ――」


 変わり果てたオアの姿を見て絶句するニーソ。

 オアの頭から爪先、全身が土や血で塗れていた。


 胸の革防具は傷だらけで、肩紐が切られ落ち掛けており防具の体を成していない。


 防具の下に着る質素な服は上下ともに損傷しており、胸部も含め其処彼処から傷や赤黒い血の塊を覗かせていた。


「……その傷はどうしたんだい? まさか夜のダンジョンにでも行っていたのかい?」


 オアはバツが悪そうに苦笑する。


「はい……ダンジョンに行っていました」


 ニーソは唖然とした。そのまさかだった。

 いや、気付いていた。

 爪で裂かれたような三本線の傷跡。

 パンパンに膨れたバックパックから覗き見える魔種や、布を突き破り飛び出る鋭利な爪が物語っていたからだ。


「夜のダンジョンに一人で一晩中……キミは死にたいのかい!? オダマキから聞いたけど、夜のダンジョンはモンスターの出現率が高くなる。それは現世での常識で、ソロの駆け出し冒険者が潜るのは命知らずで愚の骨頂なんだろ!? どうしてそんな無茶をしたんだい!?? 」


「……ごめんなさい」


「違う! 謝ってほしいわけじゃない、アマナは理由を尋いているんだ!! どうしてそんな、らしくない自暴自棄のような真似を?」


 オアは唇の端を噛み締め、静かに首を振った。


「っ――。オア君、心配からつい声を荒げてしまったけどアマナはただ、今も言った通り心配をしているだけなんだよ。理由を、教えてはくれないかい?」


 優しい声色で諭すニーソだが、オアの態度は変わらず。


「ふー……そうか、分かったよ。キミはあの子と同じで頑固だね……。とりあえず中に入ろう。汚れを落とし、傷の手当てをして落ち着いてから話をしよう」


「……はい。ありがとうございます」


 ようやく目を合わせてくれたことで、ニーソはどこか胸をほっとさせた。


「何はともあれ、おかえり。オア君」


「はい……ただいま帰りました、ニーソ様!!」


「? 急に元気だね? でも、キミは傷だらけなんだから無茶はダメだよ。アマナがシャワー室まで誘導してあげるからついておいで」


 ニーソが開いた玄関扉を越え、オアは帰宅を果たした。

 どこか様子のおかしいオアに疑問を覚えたニーソだったが、片足を引き摺るオアを見て先を急ぐ。


「着替えやタオルはアマナが用意しておこう。沁みるだろうけど、傷口はしっかり洗うんだ、いいね? 分かったかい?」


「何からなにまでありがとうございます」


「これくらい大したことないよ。昔のアマナだったら……」


「ニーソ様?」


「なんでもない。アマナのことは気にせずオア君は行った、行った!!」


 ニーソはオアの背中を押し、シャワー室へ放り入れた。


 するとすぐに『いっツ~~っ』と、オアの悲痛な声が響く。


「やれやれ、オア君は。アマナの体が昔くらい大きかったら、優しく背中も流せたし……肩も貸せたのにな。あの子にしてあげたように――」


 ニーソは自身の寝具に置かれた日記帳を見る。

 それから、再び叫ぶオアのためにせっせと着替えやらの準備を進めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ