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不条理と片足ニーソと花精霊記  作者: 山吹祥
第三話『冒険者オア・レヒム』

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十九輪目「新作ポーション」

「むぅ……これだよ、オア君」


 頬を膨らませたニーソ様が代わりに答え、何やら手紙を広げてくれる。


「読めるかい、オア君?」


 手紙は古代花形文字フロラグリフで書かれていた。


「すみません、何かの招待状ってことくらいしか……」


「まだ若いでしょうに。オア・レヒムは博識ですね、ヴァル」


「ええ、コンミフォラ様。彼は私とは違い素晴らしい素養の持ち主のようです」


「いえそんなっ!! 僕は博識とかそんなんじゃないですっ!!!!」


「千年前では読めて当たり前だったけど、今では読めないのが普通なんだろ? それなのに一部とはいえオア君は読める。誇っていいことだと思うよ。さすがアマナのオア君だ」


 感心色の籠められた目線が僕へ突き刺さる。

 けれど、読める理由はそんな大層なものじゃないためどうにも居た堪れない。


「僕はただ、読めたらカッコいいなと思っただけで!!」


「ああ、なるほど。オア君らしいね……」


 見覚えのある優しい目だ。

 憐憫な眼差しともいう。


「ちなみにこの招待状は【花の蜜会アニメリシン】についてのものだよ」


 そう本題へ移ったニーソ様に続き、リュケ様が招待状の内容を説明してくれた。


 花の蜜会アニメリシンとは、各季節に一度開かれる茶会だそうだ。

 冒険者ギルドの長、花精霊アイリス様の居宅に花精霊様の方々が招かれ、飲食しつつ世間話を交わし、時には会議が行われる場らしい。


 大抵はホームで過ごすオダマキ様が、時たま丸一日不在にしていたのは、花の蜜会アニメリシンに参加していたのが理由かもしれない。


「私からもレヒムさんへお願いがあるのです――」


「リュケ様から僕にですか?」


「ええ――」

 リュケ様の視線に釣られ向けた先には、


「小箱、ですか?」


 テーブルの上に薬箱のようなものが置かれていた。


「試作品の体力回復薬ポーションを幾つかと、御神花セフィアント専用の固形肥料を用意しました」


 それはまた、とんでもない品だ。

 ギルド長アイリス様に品質を保証された【コンミフォラ・フラトリア】の商品は、駆け出し冒険者に取って手の届かない高級品だ。

 串焼きスブラキだって、満腹になるまでお代わりし放題だろう。


 でも、それがどんなお願いに繋がるのか想像が付かないな。


「レヒムさんにはこの体力回復薬ポーションを使ってもらいたいのです」


「んえ!? そんな頂けないです!!!!」


「試作品と言いましたが安全は保障します」


「あ、ちがっ……安全性を疑ったとかじゃなくて――」


「特徴は種族関係なしに使用できること」


「何それすごい!?」


「ええ、凄いのですっ!」


 うっ、嬉しそうに無邪気に目を輝かせるリュケ様が眩しい……


「加えてリュケイオンの森で採れる林檎を使用しておりますので、効き目だけでなく味も見栄えも抜群です。軽度なら解毒効果もある自信作となっております」


 目を背けている場合じゃない。

 種族関係なしに使えて解毒効果もある新作体力回復薬ポーション

 やじりに毒を塗った弓矢を使うゴブリンだっているから、この体力回復薬ポーションがあったら安心だ。


 さらには、春区アニクシの大商業通りで果物屋を営むアールさんのお店でも滅多にお目に掛かれない、高級品種のリュケイオン林檎が使用されている。


 ダメだ、金額なんて聞けない。

 頭が破裂しそうだ。


「どうして僕なんですか? 他にも喜んで協力してくれそうな人は大勢いそうなのに……」


「ええ、おっしゃるとおりです。ですが、レヒムさんを選んだことには、しっかりとした理由もあります」


「それは……どうしてですか?」


 リュケ様は僕の肩に座る()()()()()()()。それから僕へ顔を戻し、


「ここ数年新たな【フラトリア】が創られたのは【ニーソ・フラトリア】だけ。今後、団員が増え、軌道に乗り始めた時にでも懇意にしてくれたらいいなという打算。要は、レヒムさんの将来を期待しての投資みたいなものなんです」


 なるほど……?

 なんとなく納得はできた、かな?


 難しくてこれ以上考えても仕方ないし、耳元でニーソ様が「もらっちゃえ!」とごにょごにょ呟いているから、受け取っていいのかもしれない。


「そ、それなら……ありがたく使わせていただこうか、と」


「ええ、使用後の感想を聞かせてくださいね」


「っ――!?」

 コンミフォラ様に引けを取らないリュケ様の美しき微笑み。

 僕は再びボンっと顔を燃やした。


 それにニーソ様が「オア君!」と僕の耳を引っ張り、リュケ様はクスクスとした笑みをこぼし続ける。


「花精霊ニーソとオア・レヒムを眺めていると、何だか昔を思い出しますね。ヴァル」


「……コンミフォラ様、思い出話は二人の時にでも――」


「幼いヴァルは、いつだって私を独り占めしたがっておりましたね」


 リュケ様はニーソ様みたいに頬を膨らませ、コンミフォラ様へ体をコツンと当てた。

 ずっと見ていられる、そう二人を眺めているとリュケ様と目が合った。


「んんー……話は変わりますが――」

 リュケ様は途端に姿勢を正した。


 僕としてはリュケ様の幼少期の話、もう少し聞きたかった。

 残念に思いつつ耳を傾ける。


「近々、アカデメイアの森から王族がいらっしゃいます。王族がリーエンにまで来ることなど滅多にありません。遠目となるでしょうが、興味があれば覗いてみるとよいです」


 王族ということはハイエルフ様?

 何それ拝みたいけど、僕なんかが拝んでいいの??


「ダメだよ、ダ~~~~メ。アマナらは少しでも稼がないと。だからこっそり覗こうだなんて考えたら絶対に駄目だからね、オア君?」


「え、でも……滅多にない機会ですし……?」


「ふ~ん? オア君はアマナよりそのハイエルフの方が大事なのか、そうかそうか。よぉ~~っく分かったよ」


「ふふ、慌ただしい訪問となりましたが、本日のところはこれで失礼します」


 え、この状況で!?

 聞き返すよりも先に、コンミフォラ様とリュケ様は優麗に去って行った。


「オア君、アマナらの【フラトリア】はエルフ禁止だ。これは絶対遵守だから」


「えっと、花紋が刻まれたら禁止とか難しいんじゃないんですか?」


「っ……そうだけど、今は正論なんか聞きたくない!」


「はい、すみません!!」


「エルフに対して並々ならぬ憧れを抱いているオア君の幻想は砕きたくないけど、そもそもエルフは陰険なやつが多いんだ。だから本当は今日だってきっと…………」


 ニーソ様の表情を見たら、続きを聞かなくても理解できた。


 ユリ科の花精霊とその契約者を確認するのが、今日一番の目的だったのだろう。



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