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不条理と片足ニーソと花精霊記  作者: 山吹祥
第三話『冒険者オア・レヒム』

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十七輪目「三年前を思い出す逃走劇」

 五階層は広大で迷路そのものだ。


 二岐路や行き止まり。

 薄赤色に染まる壁や天井。

 空の見えない地下牢獄。


 先人の冒険者たちの恩恵で作られた地図がなければ、頭の悪い僕はあっという間に迷子になっていたことだろう――。


『ギギャッ』

「ハッ!」


 十を超える数の戦闘をゴブリンと繰り広げ、一か所ずつ目で見て確かめて回る。

 到着した目的地の一つは半円型の空間。


 ここは始まりの場所だ。

 ようやく、三年前に追い着いた。


『シャァッ』

「シッ!」


 現れたコボルトを危うげなく屠り、魔種を拾ったところで静寂が訪れる。


 ギルドから支給されたスコップを革嚢ホルスターへ収納。

 代わりに広げた地図で、五階層の約半分を攻略したと確認。


(あれから七日か――)


 毎日朝から夜までダンジョンに潜り続けている。

 僕にしては頑張っている方だけど、セフィさんは一日で五階層を攻略してリーエンを騒がせたと考えたら、まだまだなのだろう。


 欲を言えば、今日中に五階層を突破したかったけど――


(――少し、疲れたな)


 ニーソ様も「一日くらい休んだらどうだい?」「アマナは寂しい!」と心配していた。

 僕が死ねばニーソ様はまた眠ることになってしまう。

 まだ美味しいものだって食べてもらっていない。

 疲労を感じたなら今日は帰って、明日はニーソ様とゆっくり過ごそうかな。


『ギギャッ』

『シャァッ』


 無理は禁物、そう思った途端にゴブリンとコボルトのお出ましだ。

 僕はジョンさんから譲り受けたナイフへ手を伸ばす。


 けれど、使い慣れたギルド支給スコップを引き抜き構えた。


 ジョンさんのナイフはまるで餞別みたいで、使ってしまえば【オダマキ・フラトリア】の人達と二度と会えないんじゃないかと思えてしまえて、腰の飾りとなっている。


『ギギャッ!』

 ゴブリンの単調な引っ掻き攻撃。


 これを避けて、無防備なわき腹を蹴とばし自分自身に喝を入れる。


(今は戦闘中だ!)


 命のやり取りをしているのだ、考え事など後にして意識を切り替えろ。


 ゴブリンが転がっている隙にコボルトの喉元へ「ハアッ」と、スコップを突き刺し引き裂く。

 コボルトから色が失せ始めた事を確認。

 起き上がったゴブリンにもコボルトと同様の路を辿らせる――。


「ふぅ……」


 ちょっと危なかった。

 考え事とは集中力が切れている証拠だ。


 帰宅を決めた判断は正しかったよう、だ……な?


「魔種?」


 しかも二つとも欠けていない魔種の塊だ。

 これは運がいい。

 ちょっとしたお小遣いになるから、ニーソ様に串焼きスブラキをご馳走できるかもしれない。


 ニーソ様喜んでくれるかな、くれたらいいな。

 そう魔種を拾ったところで『『『ギギャッ』』』と現れるゴブリン。


 しかも三体同時だ。


 出てほしい時は出ないのにな、今はお呼びじゃないぞ。


 串焼きスブラキを考えた途端にコレだ。本当に縁がないのかもしれない。


『ギシャアッ』

 今度はコボルトも現れたな……


 体力が万全なら対処可能だけど、少し不安だ。


 今なら出入り口に一番近いのは僕だし逃げようかな。

 そう足を後ずさりしたら、


『『ギシャッ!!』』

 さらにコボルトが二体。


 右を見たらゴブリン。

 左を見たらコボルト。


 他の冒険者から押し付けられた状況を除いては、

 五階層でゴブリンもコボルトも同時に出現するのは三体までで計六体。


 つまり、現状では限界まで出現したということだ。


 まさかこれが五階層の洗礼? 初心者殺し!?


 ダンジョン、意志持ちすぎじゃない!??


『『『ギギャッ――!!』』』

『『『ギシャァツ――!!!』』』


 考えている暇などない。逃亡一択だ。


『『『『『『ギギャシャッ――!!!!!!』』』』』』


 ええい、うるさい。お前ら息ピッタリだな!

 強気に突っ込みを入れる内心とは反対に、僕は脱兎のごとく逃走する。


 三年前を彷彿させる逃走劇だけど、ステイタスを得たことで容易に逃げられる。


(そう思ったのに!)


 今回の逃走劇は一味違った。


 僕も本気だけど、怪物達あいつらも本気だった。


 後ろから幾重にも聞こえる怒声というか怪物達あいつらの唸り声。


 疲れたなんて言えない。


 慎重に攻略したことで頭に記憶された地図を頼りに、決死の闘争もとい逃走。

 恐怖心と共に、ホームへの思いが募るばかりだ。


 早くニーソ様の待つホームに――――


(――帰りたい!!)


 兎にも角にも帰りたい思いが、ただの棒切れになり下がろうとしている脚に鞭を打たせた。 



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