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不条理と片足ニーソと花精霊記  作者: 山吹祥
第二話『僕は患っていない?』

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十三輪目「不条理な世界」

 ニーソ様は軽快に片目を閉じた。

 心なしか星がキラッと飛んだように見えた。


 よかった、ニーソ様は親しみやすそうな花精霊様みたいだ。


「これからお願いします!」

 頭を下げながら僕は胸をなでおろした。


「それで、アマナがオア君へ抱いた第一印象を伝えたんだ。次はオア君がアマナを見て抱いた印象を聞かせてくれないかな」


「えっと、親しみやすそうで優しそうな花精霊様だなあと」


「…………それだけかい?」


 ニーソ様は唇を結んだ。僕の感想が不満だったのかもしれない。

 そういえば、女性はかわいいと言われたいものだっておじいちゃんが言っていたな。


「その、白く清廉で綺麗なのに可憐でかわいい花精霊様だな……って?」


 おそるおそるニーソ様を見る。


「む、ふふふ~」


 どうやら今度は満足いただけたようだ。恥ずかしかったけど伝えてよかったな。


「で、他は?」


 え、他?


「まさかないとは言わないだろう? アマナを見ての印象だ。本番前にアマナを煽て褒めてくれるオア君の気持ちは嬉しい。けれど、そろそろ一番の印象を聞かせておくれ」


「ええっと……」

 僕は背中に汗を流しながら考える。


「髪が――」


「オア君――。これは、二人の今後が懸かった大事な局面だ。心して答えるんだよ?」


 考えろー、考えるんだ僕。今後の生活のために、ない頭の細胞を総動員させろ。

 髪型じゃないなら何なのか。


 髪や肌は白く綺麗だ。

 目は金色に近い山吹色。虹彩は星の形に縁どられている。

 切れ長の目で一見気の強そうな雰囲気に思えたが、強いのは個性だった。


 美しく装飾された鼻や口、顔の造形は神がかかった均整だ。

 体は……全体的に細く、手足が長くすらりと伸びている。

 胸元にリボンの付いた服も似合っている。


 下は、太ももから爪先まで伸びる花模様が施された純白の長い靴下。

 どうして肌の一部だけ露出させているのだろうか?

 何か意図があるにせよ、強い意志で抗わないと目が吸い寄せられそうになる。


「じゃかじゃかじゃかじゃかっ――」


 これから大発表があります、的な声でニーソ様が僕を煽る。

 僕に思い付いた特徴は以上だけど、果たしてこの中に正解はあるのだろうか――


「――く、つした……?」


「正解だよオア君!! アマナとキミは感性が似ている。相性抜群ってことだね! この長い靴下! ニーハイソックス! 通称ニーソがアマナの何よりもの個性であり、魂の一部でもある【花精霊具シンボル】なのさ!!」


「はは、はははは。よくお似合いです」


「そうだろ、そうだろ! 脚の長いアマナが作るこの絶対領域の魅力には、オア君も凝視せざるを得ないだろうさ!」


 絶対領域ってなに? スキルや魔法、必殺技か何か?

 格好良い響きだけど、聞いたらダメな気がする。


 まあ、ともあれ。

 ニーソ様が満足そうだから良かったのかな。


「えっと、女性の肌を凝視してはいけないっておばあちゃんが言っていました」


 だからけして僕は絶対領域を凝視などしていない。頑張って抗ったもん。


「紳士教育が施されているんだね! 好感だよ! ちなみにこれね、長さは自由自在なんだけどオア君はどの長さが好みだい?」


「自由自在?」

 どういうことだろう、僕は思わずニーハイソックスへ視線を落とす。


 すると、ニーハイソックスはひとりでに太ももの位置から膝上にまで縮んだ。

 さらに膝下、ふくらはぎ、くるぶしとどんどん柔肌が露わになっていく。


「こんな感じでアマナの思い通りに伸縮させることができる。オア君はどの長さがよかった? 聞かせておくれ」


「初めの、太ももの長さでお願いします……」


 僕には刺激的すぎた。

 だから肌の露出が一番少ない長さを選ぶしかなかった。


「キミは初心だねぇ、ケス君じゃこうはいかなかったろう」


 ニーソ様は顔を背けた僕の前にまできてイタズラに揶揄った。


「ところで! ……ニーソ様の言うアマナって何か意味はあるんですか? 司る花と何か関係があったりするんですか?」


 苦し紛れの話題変更に「私も気になります」と、ラベンダー様がのった。


「そうだなぁ」

 そう呟いたニーソ様は地面に降り立ち、ラベンダー様を見上げた。


「ちなみにラベンダーきみさ、随分と立派な花精霊に見えるけど現世ではこれが普通だったりする?」


 どの【フラトリア】にも必ず『御神花セフィアント』が存在する。

 これは花精霊様の魂を分けた種から咲く花で、花の知名度や信仰心及び所属する団員の数でも成長する。


 花精霊様の背丈は『御神花セフィアント』の成長に合わせて伸縮するため、花精霊様を見れば【フラトリア】の知名度が一目で分かったりする。


 ラベンダー様は花精霊様の中でもひと際大きいため、ニーソ様は気になったのだろう。


「――ひとえにケスや他の子らがひたむきに活動してくれたおかげで、このリーエンでも有数の【フラトリア】へ成長できました」


「いい子らを持ったんだね」


「ええ、自慢の子らです」


「オア君、アマナたちも立派な【フラトリア】を築いていこうね」


「はい!!」


 僕の頑張りで【ラベンダー・フラトリア】ほどに成長できるかわからないけど、ニーソ様の期待に応えられるよう努力はしたい。


「それで、花精霊ニーソ。私はこれでも見識が広く千年前の知識にも明るい方だと自負しております。ですが、ニーソという花には聞き覚えがありません。自惚れていた私に、何科、何属……貴花あなたがどのような花を司る花精霊なのか、ご教授お願いできないでしょうか」


 ニーハイソックスを略称するとニーソとも呼べるけど、まさか靴下の花とかじゃないよね?

 一体どんな花なのだろうか、僕は固唾を呑んで見守る。


「知らないことは恥でも何でもないさ。これから知ればいいだけなのだから」


「私も花精霊ニーソの考えに同意します」


 満足そうに頷くニーソ様。


「花の名前は恥ずかしいから、今は何科だけ教えてあげよう。いいかい? よおーっく、聞くんだよ」


「ええ、是非にも」


「アマナは千年前に有名だった――」


 誰も知らないのに有名なの?

 僕は勢いよく浮上したニーソ様を見つめた。そして。


「――ユリ科・・・の花精霊さ!」


 誇らしげな顔や胸を張った姿からは自信が満ち溢れている。

 そんなニーソ様とは反対に、和やかな空気が瞬時に凍り付いた。


 後方で控えていたパプル様は、主花精霊ラベンダー様を護る臨戦態勢の構えを僕に向けて・・・・・とった。


 僕は顔や体、全身から血の気が引くのを感じた。

 ステイタスを得たばかりのレベル1と、世界最高のレベル5では力や経験、能力差は歴然だ。

 パプル様が放つ剣呑とした空気も理由の一つだが、それだけじゃない。


 誰もが知るほどに、確かに有名だった。


 その花は災厄の象徴として畏怖の対象とされている。


 ニーソ様が司るユリ科・・・の花は世界中から忌避されているから。



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