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第12話「花精霊ニーソ」

 冒険者ギルド三階に位置する『花精霊殿フロライア』。

 ここは、種石をふんだんに利用することで空気や温度・湿度が調節され、人工的な季節が造られた場所だ。


 これによって『花精霊殿フロライア』の中は四季関係なく様々な花が咲いている。

 中央には【古代花形文字フロラグリフ】で魔法陣が描かれており、未だ芽吹かない花の種子が植えられている。

 また、全ての契約者を失い種子へと戻った花精霊様が、新たな契約者が現れるまで眠る場所でもある。


 ジョンさんが道中で説明してくれた通り、魔法陣の周りには、東に春花、南に夏花、西に秋花、北に冬花が咲き誇っていて、まさにリーエン四区画の縮図にも思えた。


 綺麗に咲き誇る光景はもちろん、同じ空間で同時に咲く筈のない季節の花々を一望できることが奇跡で、この幻想的な空間が目に飛び込んできた時は、言葉どころか感嘆を漏らす声すら出なかった。


 そして――


(――あの方が僕の花精霊様……?)


 おそらく女性の花精霊様で、大きさは成人済みのヒューマンの小指程。

 身に纏う衣服や髪、花羽はねは濃い白色に染まっている。


 花の都とも呼ばれるリーエンに住んでいれば、多くの花精霊様と接する機会がある。

 色や個性も様々で同じ花精霊様などいない。

 でも、見目麗しいことはどの花精霊様にも共通している。


 飛ぶ姿が優麗だからか。

 白光の軌跡が美しいからか。

 それとも刻まれた花紋の花精霊様だから特別に感じたのか。


 理由は分からないが、中央にいる花精霊様が一番……何というか、表すに相応しい言葉が見つからないけど惹かれたんだと思う。


(早く、ご挨拶したい)


 けれど、初対面時は第一印象が肝心だとおばあちゃんも言っていた。

 失礼のないようにしないといけない。


 高揚する気持ち。高鳴る心臓を必死に抑えていると。


「――向かいましょうか」


 僕の太ももくらいの高さ。

 その背の高さに等しい、灰みの青みをおびた紫色のウェーブが掛かった長髪。

 女性型花精霊のラベンダー様が柔和な笑顔を浮かべ振り向いた。


「はっ――」

 恭しく返事をした人物は『花精霊殿フロライア』の管理やリーエンの治安を維持する【フラトリア】であり、リーエン最大の団員数を誇る【ラベンダー・フラトリア】の団長。

 現世界で最高のレベル5到達者の片翼人族ケス・パプル様だ。


「オア、キミも付いてきなさい」


「は、はひ!」


「緊張するかい?」


「そ、それはもう……はい」


「気持ちは理解できるが、取って食われるわけじゃない」


「そ、そうですよね」


「もしもなど万に一つもないが、万に一つが起きた時は私が全力で君を護るから安心したまえ」


「!? は、はい。ありがとうございましゅっ――」


 世界で五人しかいない希少なレベル5の冒険者。

 冷静沈着、落ち着き払った大人。

 ラベンダー様と同じ特徴を持つ髪を後ろで一つ縛りにしていて、それがまた凛々しさに拍車を掛け、世界中多くの女性がパプル様に憧れを抱いている。


 雲の上の人物が優しく微笑みかけ僕の頭を撫で、護ると宣言。

 つい顔をカーッと赤く染め、声を上ずらせ噛んだとしても何もおかしくない。


 気絶しなかった自分を誇りたいくらいだ。


 内心そんな言い訳をしながらカクカクと中央まで歩き進める。

 近付いたことで新しく分かったことがある。

 衣服の色が白じゃなくて鈍色だったこと。

 腰よりも長い髪の多い花精霊様にしては珍しいけど、綺麗な乳白色の髪が肩の高さで揃えられていたこと。


 あとは何かを書き込んでいるいるみたいだけど――


(――何を書いているんだろう?)


 一生懸命……というより一心不乱に書き殴る勢いで、横顔からは必死さや焦燥感を覚える様子が伝わってきて、見ていると不思議と胸が締め付けられた。


 だから僕は堪らず「何を書いているんですか?」と訊いてしまった。


 すると花精霊様は弾け飛ぶホウセンカの種のように顔を上げた。


「あ、すみません! 驚かせてしまって!」


 花精霊様はよほど驚いたのか固まってしまった。


「隠し事というものは暴きたくなる、そんな人の性も理解できます。中でも女性の書き物は秘密で溢れておりますから。けれど、その中身を知るには相応の覚悟が必要ですよ?」


 ラベンダー様だ。

 僕が失礼を働いたってことを教えてくれたのだろう。


「ご、ごめんなさいっ!!!!」


「花精霊ニーソ、私からも謝罪いたします」


 ラベンダー様から「ニーソ」様と呼ばれた花精霊様が、こちらへ顔を向ける。


「気に……しないでくれ。むしろアマナの方がキミたちに気付かず礼を欠いたのだから」


「寛大な花精霊ニーソに感謝を」


「ああ、アマナこそ」


 ラベンダー様とニーソ様は微笑を浮かべ頷き合う。


「改めて本題へ移るとしましょう。花精霊ニーソ、こちらの男性が貴花あなたの花紋を刻んだ子です。オア、自己紹介を」


「初めまして、オア・レヒムです。両目に花精霊ニーソ様の花紋を授かりました。よ、よろしくお願いいたします!!」


「ふーん、ケス君みたいな子もタイプだけど……」


 ニーソ様は何故かパプル様をチラリと見た。

 すると今度は僕の周りをくるくると飛び回り、最後は僕の顔の前でピタリと止まる。


 それから見定めるように僕の瞳を覗き込んだ。


「うん――。アマナはいかにも純朴な雰囲気をしたキミを一目見て気に入ったよ。アマナは花精霊ニーソ。悪い花精霊じゃないよ!」


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