第2話:街の小さな奇跡と初めての客
小さな子どもの傷が治った翌朝、天音は早くも店を開けた。朝の光が木枠の窓を通り、埃混じりの空気を照らす。棚に並ぶ薬瓶たちは古く、手入れも行き届いていない。それでも、天音にとっては可能性の塊だった。
「まずは、簡単な栄養薬から作ろう」
現代の知識を使えば、この街ではまだ珍しいサプリメント的なものも作れる。小麦や干し果物、蜂蜜を混ぜ、ビーカーで加熱すると、甘く香ばしい薬ができあがった。
そこへ一人の女性が訪れた。手には幼い子どもを抱えている。
「すみません……昨日の傷薬をいただいたのですが、他にも体調を崩していて」
天音は微笑む。
「大丈夫、私に任せて。栄養薬も作ったので、今日から少しずつ飲ませてください」
女性は感謝の表情で頷く。子どもに薬を渡すと、目が輝き、少し元気を取り戻したように見えた。天音は嬉しさと同時に思った。
――これなら、この街の人たちをもっと助けられる。
午後になると、商人や鍛冶屋、冒険者も店を訪れる。中には、傷や疲労に悩む人も多い。天音はその場で相談を聞き、薬を調合。小さな処方箋を渡すと、依頼主の表情が晴れやかになる。
「この薬……魔力も少し整えてくれるみたいだね」
天音は気付いた。薬の効果が、単に体を治すだけではなく、魔力や体力を引き上げる働きもあるらしい。これなら、街全体の生産力や冒険者の活躍にも影響できる――。
夕方、天音は帳簿を確認した。借金はまだ残っているが、少しずつ売上が上がっている。店の奥で眠る弟妹たちを見つめ、天音は心に誓った。
「必ず、ここを安全で公平な医療のハブにする――街を、みんなを守るために」
その時、店の扉が急に開いた。黒いマントに身を包んだ男が立っている。金属の装飾が光るその人物は、街で知られる“錬金術ギルド”の下級員らしい。
「……君が、伝説の薬師になるという噂の、あの子か?」
天音は一瞬、息を呑んだ。街の小さな奇跡が、知らぬ間に外の世界の目に触れ始めた瞬間だった――。




