Ⅳ時限目(14)
私のそばに漂っていたシャボン玉を割る。収めていた、毒の石でできた鍵を掴もうとすると、耳元で声がした。
「おれに貸せ」
ワイシャツとサスペンダーの男が、私より先に鍵を握った。
「おれを介して、ゲートを閉じろ。治せるつっても、息子を石にさせたくないんだぜ」
私が、もう一人いる……!?
「よう、でかくなったな。マコ」
「親父…………!」
私は親父の腕を取って、鍵をゲートの鍵穴に差し込んだ。右に捻ると、ジゲンⅢのスクエイアの証が激しく光って、私と親父を緑色の空間へ招いたのだった。
親父は、全然歳をとっていなかった。私が三歳に戻ってしまったのかと、疑った。
「ここでは、定年をとっくに越えているんだよな。おれ、ジゲンⅡの血が混じっているからさ、老けにくいんだ」
親子の立ち位置が逆なのではないか、錯覚に陥る。親父は逐一、言動が若いのだ。
「真」
真剣な表情をされて、私は正座してしまった。元気にしていたか、孝行をしているか、など母に関する質問を予想する。
「じじくさいな。おれの服を着ているけど、ブランド物だぜ? どうしたら田舎っぽくなるんだ?」
整った面を殴りたい。
「家に帰りましょう。母さんが、働き過ぎています」
「善美とは、さっき会ってきた」
親父は、自身の両手に視線を落とした。
「おれの体は今日までなんだ。ジゲンを巡りまくって、かなり負担がかかっちまったらしい」
所々透けていたのは、そのせいか。
「母さんといてあげてください。私は、父さんの人生を奪ってしまった」
「バカヤロー!」
親父の重さが、私の肩にかかった。
「おれは最高の人生だったぜ。善美とマコ、田端やおれを好きでいてくれるやつらとつながれた!」
面を伏せたい。器の大きさが、規格外だったのだ。
「スクエイアになっちまったけど、頼れる味方ができたじゃねえか。ジゲンおたくでも、アクティブなジゲンおたくだな!」
親父に背中を押された。もう、顧みてはならないようだ。
「味方をつけて、見方を増やせ。おれの師匠が言っていた。まさか、マコも弟子になっていたなんてな」
「血は争えないですね」
最高の人生を送った男の快活な笑い声が、響き渡った。
「マコなら、ジゲンゲートの暴走を根元から断てる。ジゲン研究の権威にも登り詰められるさ。マコは親のおれよりもずっと賢いからな!」
同い年の親に励まされると、いやでも背筋が真っ直ぐになる。
「やってみせますよ。行ってきます」
私はつながりの塔へ踏み出した。




