Ⅳ時限目(13)
「スクエイアの証を出すのじゃ」
直方体の黒瑪瑙、球の黄玉、緑柱石の鍵、雫型の蒼玉が重ね合わされた。
(蒼のスクエイア、アドミニス)
「緑のスクエイア、鶯谷真」
「黄のスクエイア、ロロ」
「黒のスクエイア、クロエ。ゲートよ、今我らが、汝の苦痛を和らげん」
スクエイアの証が光を放ち、室内を飛び回り、窓を通過した。黒瑪瑙が複製を繰り返して、階段を作る。黄玉は分裂して数珠のようにつながり、手摺りとなった。蒼玉はカーテン状の雨と化し、階段の外側を保護した。
緑柱石に先導され、私達は展望台よりも高い所へ赴いたのであった。
「先ほどの呪文、身が引き締まりますね。詰まらずに言えるか、ドキドキしました」
「これからゲートの暴走を止めに行く、と宣言したのじゃ。挨拶の意味合いが強いかのう」
(封印の際もあるわよ。小難しいけれど、証が助けてくれるわ)
三人は平気で喋っている。高さ九十メートルだ。恐怖症でなくても、足が竦む。
「若造、もっと軽快に動かぬか」
(手摺りにつかまっていれば、落ちないわよ)
「頑張りましたら、夕ごはんにデザートをお付けしましょう」
君達は、空を泳いだり飛んだりするのが日常茶飯事だろうが、ジゲンⅢではしないのだ。できる限り下を向かないようにして、着実に上った。
最後の段は、四畳半ほどのスペースがあった。私は四つん這いになって、息を整えた。
「ご苦労じゃった」
つながりの塔、正真正銘の頂点を前にする。オーラの発生源が、グレーのピラミッドだったとは。
「ゲート、と伺っておりましたので、四角い物をイメージしておりました」
私も、ロロに同じだった。
「概念が有って無いような物じゃ。針の穴すらゲートになれるのじゃからな」
鏡や洗濯機も然り、か。柔軟な頭が必要だ。
「各自、位置に着くのじゃ。若造はそこで構わん」
クロエ王は北に、ロロは東に、アドミニスさんは西に、私は南に立ち、ピラミッドのジゲンゲートを囲んだ。
「黒き線は、汝の痛みを指し示す」
クロエ王の左肩より、宵闇を煮詰めた黒い線が伸びた。ロロがこれを受け、指を組む。
「黄の平面は、汝の傷を庇い護る」
ロロの左肩に、平らな円が描かれた。トワイライトを一層切なくした光の色を私は頂戴した。
「緑の立体は、汝の受難を凝り固める」
オーロラを束ねた濃い緑が、箱となって私の左肩を渡り、アドミニスさんに届いた。
「蒼の時は、汝の悔恨を遡り行く」
晴天の奥深くに潜む色が長針と短針を構成し、アドミニスさんの左肩からクロエ王の右肩へ、回転しながら進んだ。
ジゲンゲートを循環するオーラが、蝋のように滴る。私がいる面に、前方後円墳に似た鍵穴が浮かび上がった。
「ジゲンの王が」
「ジゲンの魔術師が」
「ジゲンの番人が」
『ジゲンを究める者に、鍵を任せる』




