Ⅳ時限目(12)
ジゲンゲートのオーラを、スクエイアはどう感じているか。サーモグラフィーに近いかもしれない。ゲートによりオーラの色が違う。今回は、毒の石と私の鍵のような緑だった。
「『さんどめにしめた ジゲンの門 つながりのとうの いただきにねむる』か」
展望台以上が、緑のオーラに満ちていた。
「十時に営業開始じゃな。ロロ殿、通り抜けのマホーぞよ」
「スタッフ様、お邪魔します! トルハ・レスリイ」
黄色い光を浴びた私達は、施錠された入り口を突き抜けた。
エントランスホールで、清掃員が数人モップをかけたり窓を拭いたりしていた。私達をまったく不審に思っていない。
(塔内の時間を止めたのよ。叩き出されてはみっともないわ)
エレベーターは動かせる。時を司るジゲンの住人は、なかなかの腕前だ。
「クロエ王」
ジゲンⅠのスクエイアは、私に目を向けた。
「ゲートを閉めて、暴走が収まったと確かめられたら、私に解毒剤を塗ってくださいますか」
「無論じゃ。タダで貸してやるぞよ」
アドミニスさんがクロエ王に、折り紙の風船をぶつけた。
(手数料を払わせる気だったの?)
クロエ王は風船の下をついて、弾ませた。
「文芸部員の名が廃るのう。言葉の綾じゃよ」
ジゲンⅣのスクエイアは串刺しにする勢いで、クロエ王を睨みつけた。
「アドミニス様は、坊ちゃんのことになりますとお熱くなられるのでございますね」
エレベーターの窓に両手を付けて、壁画を鑑賞していたロロが振り返った。
(揶揄わないで、世話焼きな小さい子)
「恐れながら申し上げますが、わたくしめは教皇にロロという素敵な名前をいただいております」
(私の方が長く生きているから、そう呼んでも誤りではないわ)
「でしたら坊ちゃんも、小さい子ではございませんか」
(ウグイスダニは例外なのよ、小さい子)
ロロは頬を膨らませた。
「わたくしめは、ぷんすかしております!」
(カルシウム不足かしら、道理で背が伸びないわけね)
「むきー! でございます!」
喧嘩をしている場合か。私が止めに入る寸前に、到着のベルが鳴った。
(いよいよ実践よ。やり方をしっかり覚えて)
「かしこまりました!」
なぜか団結している。男には理解し難い。
「毒石のカーペットかのう。大層なお出迎えじゃ」
緑に輝く展望台の床に、クロエ王は苦笑した。
「おまかせください。シトヨマイク・ケイ・ヨドキマ!」
泡の集まりが、石を無毒化し尽くした。右端で積み上がっていた分が、剥がれ落ちてゆく。
「なに、テレビに密集しておったのか?」
クロエ王に私が簡単に説明した。
「こちらは、花博開催中に来館した子どもの写真とメッセージを記録した機械です」
百万人を目標にしていたが、半数未満しか訪れなかった。私のデータも、そこで見られる。田端先生に無理強いされて、やむなく入力した。
「坊ちゃんは、どのようなメッセージを?」
「ゲートを閉めてから、教えるよ」
私達は、中央に丸く並んだ。




