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Ⅳ時限目(10)

 段取りは次の通りである。つながりの塔で、ジゲンゲートのオーラが強い地点まで移動し、到着後、スクエイアの証を重ねる。現れた道を急ぎ、毒の石で模造した鍵でゲート閉鎖する。

(スクエイアの証でなければ閉まらないとしたら?)

 自然歩道を歩きながら、アドミニスさんが訊ねた。ネガティブな意味合いではなく、私を案じる気持ちによるものだった。

「そうなった場合は、本物を使うよ。次回までに、寿命を短くしない方法を考える。帳消しにできることも、有り得るかもしれないな」

(諦めの悪さは、あなたが一番よ)

 呆れているように見えるが、褒め言葉だ。彼女の正体が判明して以降、何を考えているか察しがついた。

「坊ちゃん、あちらのお方……」

 ロロが、前方を走るテンガロンハットの男性を注視していた。

「落とし物をされています」

 男性が通った道に、ファスナー付きのビニールケースが転がっていた。「ゆうがたリフレッシュ」のロゴが遠くからでも読める。

「版画家が好んで聞いておる番組じゃな。記念品かの?」

「わたくしめが、届けてまいります!」

 ビニールケースを拾ったクロエ王に謝り、ロロは男性を追いかけた。私も付いてゆき、彼を呼んだ。

「えーと、なんかご用ですか?」

 ロロが手にしている物を示すと、男性はハットを外した。

「わ! それ、あたくしの財布です。どうもありがとう!」 

 男性は、お礼に、とボールペンをくれた。

「あっちのスタジオで、これから放送するんです。『朝だけどゆうがたリフレッシュ』、局はFMはんなり、周波数は86.72、は・ん・な・り。よろしくね!」

 場慣れした口ぶりだったが、私の腕時計を覗くなり「ヤバ」と地声を出した。

「良かったら、お散歩がてらスタジオ見学してみてくださーい!」

 男性は笑顔を絶やさずに、疾駆した。素と営業の境界を見抜きにくい爽やかさだった。

「ラジオ局の者じゃったか。どことなくDJを意識した声じゃな」

「元は、熱狂的なファンだったのかもしれませんね。相当使い古した財布でしたし」

 クロエ王と私に折り紙の蛙が降ってきた。

(鈍感ね、クローバーコンドウご本人よ)

 アドミニスさんの眉間に、皺が深く刻まれていた。

(番組サイトで写真を見たことがないのかしら? 私にみつば賞をくれた人を、そっくりさんやコアなファン扱いしないで)

 アドミニスさんもリスナーだったのか。

「みつば賞……まあ! ウシニモダ様は、アドミニス様だったのでございますか」

 ロロに自分の周囲をうろつかれ、アドミニスさんは迷惑がっていた。

(名前をローマ字に表して、後ろから読んだだけよ)

 usinimodaを逆再生したら、アドミニスに聞こえる。どこかの界隈では、アマサカス語と称されていたが普及されなかったようだ。

「美味なる朝食で腹を満たし、木々と草花の道で歓談し緊張をほぐす。大仕事への士気が高まるぞよ」

 私達は肩を並べて、ジゲンゲートが潜む建造物を仰いだ。

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